軍産業複合体の狙いを隠すトランプ「貿易戦争」
2018年12月11日
F. William Engdahl
New Eastern Outlook
地政学な出来事が見かけ通りであることはまれだ。中でも中国とのものが最大のアメリカの膨大な年間貿易赤字を是正するという建前で、貿易戦争を装って、この春開始された奇異な「戦争」に注目する際、これは特にあてはまる。アメリカ国防産業基盤に関する新しい政府報告を通して見ると、他に説明がつかない中国に対するワシントン関税戦争攻撃の背後にある本当の駆動力が分かる。
10月初旬に国防省率いるアメリカ政府機関間の特別委員会が、米軍に極めて重要な要素と原材料を供給するのに必要とされる国内産業基盤に関する一年間の研究の機密扱いでない部分を発表した。「アメリカの製造・防衛産業基盤強化とサプライチェーン回復力の評価報告」という題名の 政府機関間特別委員会文書は、余り注目されていない大統領令13806で一年前に委託されたものだ。
報告は、近年における、米軍に重要な要素を供給する産業サプライチェーンの妥当性あるいは欠如についての、近年初めての詳細分析だ。
300のギャップ
機密指定から外された版の報告書は十分衝撃的だ。報告書はアメリカの軍事産業基盤における、300の「ギャップ」あるいは脆弱性のリストを挙げている。際立った詳細で、それが明らかにしているのは、国防に不可欠な部分を維持することがもはやできなくなっているのは、経済グローバリゼーションと海外移転の直接の結果なのだ。工作機械、溶接、エンジニアリングのような分野での熟練労働者の劇的な不足が詳述されている。数値制御工作機械のような重要な機械は、現在ワシントンとの関係が最善とは言えないドイツから輸入しなければならない。主要部品の単一供給元である小規模の専門的な供給元の多くは、近年の政府予算の不確実性に起因する破産の瀬戸際にあることが多い。アメリカの防衛産業は、ほとんど全ての希土類金属で中国に依存している。1980年代以来、供給元がはるかに安い資源を求めて中国に目を向けたため、アメリカ国内での金属採鉱は経済的理由で、事実上崩壊した。 今日軍装備品、超伝導体、スマートフォンや他のハイテク用途に必要な世界の希土類金属の81%が中国から来ている。
脆弱性
国防総省の防衛の産業基盤報告は、重要な部品を供給する、何十ものボーイングやレイセオンのような巨大な軍請負業者から、何万社ものより小さな企業の背後にある、戦争になった場合の脆弱さを判断するための試みだ。
報告は「複数の事例で、国防省にとって、きわめて重要な品物の、唯一の残っている国内生産者は、そのアメリカ工場を閉鎖し、そうした企業を国内生産からやり追い出している同じ外国原産国からより安価な材料を輸入する瀬戸際だ」と指摘している。海軍艦船用プロペラ軸や戦車用砲塔やロケット用燃料や、ミサイル防衛用の宇宙における赤外線探知器などの「単一供給源」への依存という憂慮すべきボトルネックの可能性を浮き彫りにしている。
報告は1950年代の冷戦用強化時期に開始された軍事産業基盤において最も徹底的な批判的検討だ。例の中には、現在国防総省の推進力システムで広く使われている化学物質の1つ、過塩素酸アンモニウムは国内に一社しか供給源がないという事実が挙げられている。 もう一つは、すべての電子装置に欠くことができないプリント回路基板メーカーが国内一社しかないという憂慮すべき事実だ。彼らは指摘している。「2000年以来、アメリカは世界生産のシェアが70%下落した。今日、アジアが世界のプリント回路基板の90%を生産しており、その生産の半分は中国で行われている。結果として、トップ20の世界的プリント回路基板製造業者の1社だけが、アメリカ本社だ。」
もう一つ、それほど目に見えないが極めて重要な部品に、ASZM - TEDA1含浸炭素の製造がある。アメリカはたった1つの供給源に依存している。ASZM-TEDA1は、とりわけ有毒なガスと化学戦争攻撃から保護するためのものとして、国防総省の72種の化学・生物学・核ろ過システムで使われている。ピッツバーグのカルゴン・カーボンが現在唯一の供給元だ。
もう一つの憂慮すべき(あるいはそれほど憂慮すできでないかは当人の立場次第だが)脆弱性は、極めて重要な電圧コントロールスイッチの信頼に足る供給だ。2017年、すべての国防総省ミサイルシステムで使われる電圧コントロールスイッチを作るために使われる半導体製造工場が閉鎖した。国防総省は、代わる供給業者を準備するのに間に合うよう連絡を受けず、アメリカのミサイルシステムを危険にさらすことになった。報告はアメリカ陸軍装甲車両のすべての大砲が、ニューヨークにある1813年創立の、老朽化したウォーターブリート・アーセナル製であることを指摘している。
標的は中国
アメリカの報告は、アメリカ兵器企業が、極めて重要な部品で、国防総省の最近の「防衛政策見直し」がアメリカの最も重要な戦略上の脅威として、ロシアとともに引き合いに出している国、中華人民共和国への外注に依存を主に批判している。
中国供給元に対する希土類金属のほとんど完全な依存に加えて、ロッキード・マーティンのようなより大きい会社からの国防総省の兵器購入契約は、サプライチェーンを外注する最も効率的な供給源、しばしば中国に外注することになっている。報告書は「中国による希土類元素市場支配は、その戦略的産業政策によって方向付けられた中国による経済侵略と、アメリカの製造と国防産業基盤の脆弱性とギャップの間の、潜在的に危険な相互作用を浮き彫りにしている。」と述べている。
見直しは、アメリカ防衛産業はその希土類資料の100パーセントを中国の製造業者に依存していると述べている。2016年の政府会計検査院報告は、それを「根本的な国家安全保障問題」と呼んだ。報告は別の部分で「不法な、不公平な取り引き慣行から解放されることなしでは、アメリカは、極めて重要な物質の外国供給者への国防総省依存を増大する危険に直面するだろう。」と指摘している。これは中国に対する明示的な言及だ。
トランプ貿易戦争が中国の「不公正な貿易慣行」を焦点にしたのは決して偶然ではない。 貿易戦争戦略の責任者である政府高官ピーター・ナヴァロは、大統領によって国防総省の国防産業基盤報告書のとりまとめも任された。大統領補佐官(通商製造政策局長)ナヴァロは「ニューヨーク・タイムズ」で報告に関する論説を書いた。
ナヴァロはアルミニウムや鉄鋼などに対するトランプ関税の紛らわしい狙いを、軍事産業基盤の危機と結びつけている。彼は基幹産業を強化する「鉄鋼とアルミニウム関税などの措置を挙げている。アメリカの知的財産と技術の中国による恥知らずな盗みと強制的移転対する断固とした防衛、軍事予算の大幅増加、政府調達のための「バイ・アメリカン」規則の拡大」。
例えば、地上戦闘車両の装甲、海軍艦船を建造、軍用機建造するのに不可欠な要素である鍛造アルミニウム板は「将来、国防総省要求が急増した際、潜在的な生産ボトルネックになりうる危険があると、ナヴァロは、明示的に触れている。アルミニウムに関する輸入関税は国内のアルミニウム生産の復活を強制することを狙っているのだ。世界大戦時代の遺産として、ボーイングや他の航空機メーカーを勃興させ、1981年、アメリカは世界最大の主要なアルミニウム生産者で、世界供給の30%を生産していた。2016年までにアルコアに率いられた国内アメリカ産業は、世界生産のわずか3.5%を製造し、サウジアラビアのすぐ後、10番目に落ちている。中国は驚異的に大きい55%で世界のリーダーで、ロシアとカナダが続き、この三国は全て、ワシントンアルミニウム関税あるいは制裁の対象だ。
国防総省政策が示唆するように、ロシアと中国との未来の可能性がある戦争で、アメリカの備えで、一体何が主要欠陥かをナヴァロは指摘している。「報告で認識されている最も大きい脆弱性の1つは、極めて重要な仕事に必要な熟練した労働者の欠乏だ。アメリカは、電子制御、核エンジニアリングやスペースのような部門で仕事を満たすのに十分な科学、技術、エンジニアリングと数学分野の労働者を生み出していない。また、我々は十分な機械工や溶接工や他の技術職労働者を、我々の艦船や戦闘車両や航空機を製造し、維持するように訓練していない。」
近年外国や国際的な学生たちが、アメリカ大学大学院生と学部生登録者の大半を占めた。最近の研究で、アメリカの大学において、電気や石油エンジニアリング講座の全日制大学院生の81パーセントが外国人学生で、コンピュータサイエンスでは、79パーセントがそうであることが分かった。報告書は多くのアメリカ大学で、「専攻学科と大学院課程両方とも、外国人学生なしでは維持できない」と述べている。彼らの多くはアジア、特に中国出身だ。
応急措置
アメリカ政権は、ある特定の即刻の法案が主要なサプライチェーン・ギャップを埋め、国防授権法資金を海軍の未来の無人潜水艇用リチウム海水バッテリーや、最先端の燃料電池のような重要な国内の製造能力を拡大するために使うことを含め、300のギャップへの対処を計画している。それは、外国で製造される供給源が限定された戦略的で極めて重要な物資のための1939年の防衛備蓄計画をも復活させるだろう。
報告の主な結論は「中国は、アメリカ国家安全保障上、戦略的で極めて重要とみなされる物資の供給にとって、極めて大きな危険となっている」ということだ。これは同じ中国に対して進行中のトランプ政権による貿易戦争の狙いが、これから数十年にわたって、先端的技術で、中国を最有力にすることを狙った、中国製造2025年計画を断念するよう圧力をかけることに実際集中しているかの説明にもなっている。
より深いレベルでは、アメリカ防衛産業基盤を扱いながら、報告は、40年以上の自由貿易や、製造業の海外移転や、グローバリゼーション後の、全体的なアメリカ産業基盤の本当の状態の本格的暴露だ。良いニュースは、すべての武力威嚇にもかかわらず、第三次世界大戦が、近いうちにありそうではないことだ。 これは、アメリカの議論がはるかにより大きい問題に向き合うべき時期だ。全体的なアメリカ産業基盤を破壊した市場経済のグローバル化をどのように修正するべきか、戦争屋ネオコンが復活させることに興味皆無な民生経済をどのように復活させるべきか。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書。オンライン誌“New Eastern Outlook”への独占寄稿。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2018/11/12/trump-trade-war-hides-military-industrial-agenda/
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