シリアでの化学兵器使用疑惑を受け、米英仏が共同でアサド政権側への攻撃に踏み切りました。しかし、この一連の動きが米国の自作自演だった可能性があります。(『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』高島康司)

※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2018年4月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

3月時点でロシアが警告「米軍がシリア空爆の口実を作っている」

シリアで行われた悲惨な「毒ガス攻撃」

4月7日、シリアの首都ダマスカス近郊の反体制派支配地域、東グータ地区のデューマで、化学兵器を使用したとみられる空爆があり、少なくとも子供を含む21人が呼吸困難の症状で死亡した。

民間ボランティア組織・シリア民間防衛隊「ホワイトヘルメッツ」は、塩素ガス弾が使われ、40人以上が窒息死したと主張。数百人が治療を受けているとみられ、犠牲者はさらに増える恐れがある。

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すぐさま報復攻撃に出るトランプ大統領

4月9日、トランプ大統領は、ホワイトハウスで開いた閣議の冒頭、シリアでの化学兵器使用を「残忍で凶悪」と改めて非難し、「今後24~48時間以内」に重大な決断をするとの考えを示した。

前日の8日にはアサド政権が「大きな代償を払うことになる」とツイッターで警告しており、昨年4月に続く軍事行動に踏み切る可能性もある(編注:原稿執筆時点4月13日。米英仏3カ国は14日、化学兵器使用疑惑を受け、シリアのアサド政権への軍事攻撃を実施しました)。

またイスラエル軍も動き、中部ホムス県の空軍基地をミサイル攻撃した。シリア政府軍兵士ら14人が死亡した。政府軍と共闘するイラン人も含まれているという。ホムスへの攻撃についてシリア国営テレビは当初、米軍によるものと報じたが、米国防総省は関与を否定した。

これを見ると、昨年の状況と酷似していることが分かる。昨年2017年の4月6日、シリア、イドリブ県でサリンガスが使われ、アメリカはこれがロシアに支援されたシリア政府軍の仕業だと断定し、59発の巡航ミサイルでシリア政府軍の空軍基地を攻撃した。23発が命中し軍人6人と民間人9人が死亡した。

アメリカは、今回も昨年同様なんらかの報復攻撃に出ると見られ、それは昨年を上回る大規模な攻撃になる可能性も指摘されている。

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ところが、ロシアは毒ガス事件の存在そのものに疑念を持っている…

一方ロシアは、攻撃があったとされている東グータの地域を独自に調査をした。その結果、攻撃があった証拠も、また死体もなかったとし、化学兵器の攻撃が起こった事実そのものに疑念を呈している

そうした状況で、国連安保理では化学兵器の使用を国連機関のひとつである「化学兵器禁止機関(OPCW)」に任せるべきだとするロシア案と、調査のための新しい機関を設立し、それが調査すべきだとするアメリカ案が対立している。

Next: シリア政府軍の犯行だとは考えにくい? ではいったい誰が…

 

 

 

シリア政府軍の犯行だとは考えにくい

他方、独立系の多くの調査ジャーナリストからは、今回の攻撃に化学兵器が使用されたとしても、それがシリア政府軍の犯行とはどう見ても考えられないとしている。

その根拠だが、第一に、かつてはアルカイダ系のイスラム原理主義勢力に占領されていたダマスカス近郊の東グータ地区は、その90%がシリア政府軍の支配下にあり、化学兵器を使った攻撃を行う必然性がまったくないこと。

また、唯一抵抗していたイスラム原理主義の反政府勢力は、シリア政府軍に実質的に武装解除されており、東グータからバスで撤退中であった。完全に勝利しつつあったこのような状況で、シリア政府軍があえて化学兵器を使用するとはどう見ても考えられない。

これはシリア政府軍の仕業であるどころか、アメリカに支援されたイスラム原理主義勢力による自作自演の可能性が極めて高いことは、3月にロシアが行った警告から明らかだ。

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いわば今回の攻撃で、ロシアのこの警告が実質的に証明された格好だ。当メルマガの第478回の記事にこの警告を掲載したが、再度、見てみることにしよう。

<さらに進むロシアの悪魔化>

ロシアとシリア政府を悪魔化するさらなる策謀が明らかになった。3月17日、ロシア国防省は、アメリカ軍がイスラム原理主義系の反政府勢力に毒ガス兵器を提供して使用させ、これがシリア政府軍の攻撃であるかのように見せかけ、これを口実にアメリカ軍がシリアを空爆する口実にする作戦が進行しているとの発表を行った。

3月初め、反政府勢力が支配し、非武装地帯に属するシリア南部の都市、デラに化学兵器の実行部隊が配備された。化学兵器はすでに人道援助を行うNGOの手によって偽装され、運び込まれているという。

さらに、同様の化学兵器はシリア北西部でトルコ国境に近いイドリブにも人道援助組織、「ホワイト・ヘルメット」の手によって持ち込まれ、アルカイダ系の「ジャバハット・アルヌスラ」によって攻撃が準備されているとした。

ロシア国防省は、化学兵器による攻撃が反政府勢力の手によって実行されると、アメリカはこれがシリア政府軍による攻撃であるとして、これを口実にシリア政府軍を標的にした空爆の実施に踏み切る可能性が高いとした。現在アメリカの空母機動部隊はペルシャ湾、紅海、地中海に展開しているので、シリア政府軍の空爆はこうした空母から行われる見込みだ。

昨年の12月、ロシア軍の主要部隊はシリアから撤退した。しかし、ロシア軍の残存部隊はシリア政府軍を引き続き支援しており、反政府勢力の拠点となっている東グータ地区などの空爆に参加している。こうした状況で化学兵器が自作自演的に使用され、それをロシアが支援しているシリア政府軍のせいにすると、アメリカ軍の空爆が行われる絶好の口実となる。

ロシアはこうした状況を見越して、もしアメリカ軍の攻撃でロシア軍が被害を受けた場合、即刻報復すると声明した。

ロシア軍が3月に行ったこの警告を見ると、まさに予測していたような状況が進展しているのが分かる。

Next: 厳戒態勢に入ったロシア軍。今回の報復攻撃はいったん終了したが…

 

 

 

厳戒態勢に入ったロシア軍

2017年4月には、トランプ政権による巡航ミサイルの報復があった。しかしこれは、死傷者の数も限定的で、また攻撃されたシリア政府軍の基地は翌日には再開できたので、これは警告の意味の象徴的な攻撃でしかなかったと考えられている。

しかし今回の報復がこのような象徴的なものに止まる保証はない。シリア政府軍の基地とそれを支援するロシア軍を標的にした全面的な攻撃になることも十分に予想される(編注:原稿執筆時点4月13日。14日に行われた米英仏共同のミサイル攻撃でいったんは空爆終了との報道がありますが、今回の攻撃では前回の2倍強のミサイルが使われたとされています)。

もちろん、こうした攻撃に対してシリア政府軍のみならずロシア軍も厳戒態勢で準備を進めている。シリア国内の戦闘状況を報告している独立系調査ジャーナリストの集団、「サウスフロント」によると、ロシア軍が駐留するタルトゥースとラタキアの基地では、高性能迎撃ミサイルシステム、S-400とパンチールS-1、さらに多目的攻撃機のSu-30SMの配備を完了し、アメリカ軍の攻撃があったときの迎撃態勢を整えている。

さらにイスラエルのテレビ、i24NEWSによると、アメリカ中央軍(CENTCOM)はすでにシリア国内の攻撃目標の選定を終了しており、トランプ大統領にも報告済みだという。大統領からの攻撃命令を待つだけになっている。

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他方、この攻撃がどのようなものになるのかまだはっきりしない。昨年の4月に実施されたアメリカ軍の巡航ミサイルによる攻撃は、規模こそ大きかったものの被害は限定的で象徴的な攻撃であった。警告としての意味が強かった。

今回の攻撃も同様なものにとどまる可能性もある。そうした場合、ロシア軍からの報復はないか、またはアメリカが支援している反政府勢力をターゲットにした攻撃だろう。

しかし、シリア政府軍の撃退を狙った本格的な攻撃であった場合、ロシア軍のアメリカ軍に対する報復もそれなりの規模に達する可能性はある。そうなると、ロシア軍とアメリカ軍、そしてイスラエル軍がシリアで全面衝突するという最悪な状況にもなりかねない。

こうした衝突の可能性はロシア軍がアサド政権の支援に乗り出した2015年9月から何度もささやかれていたが、危機は寸前のところで回避されていた

本当にやばいぎりぎりの状況

しかし今回の状況は、2015年から2017年にかけての時期とは根本的に異なっているように見える。はるかに危険な状態なのだ。1962年のキューバ危機よりも危ういと言われてもいる。

まず国連機関の「化学兵器禁止機関(OPCW)」だが、攻撃のあったとされるシリアの東グータの地域に向かい、調査を開始しようとしている。しかし、調査の結果が明らかになる前に――