トランプ米政権は対イラン政策への国際的な支持を取り付けようと試みる中、2つの主要目標で難局に直面している。イランの核開発プログラムを制限し、中東における同国の専横的な行動を抑える政策は、これまでのところ逆効果を生んでいる。
マイク・ポンペオ国務長官は昨年、新たな対イラン政策として、イランのウラン濃縮活動の完全停止、および中東での「悪意ある行為」の停止を要求し、「史上最強の制裁」を課すと表明した。今では制裁が発動され、イラン経済は深刻なリセッション(景気後退)に陥っている。
一方、イランは低濃縮ウランの貯蔵量が2015年の核合意で定められた上限を近く突破すると警告。態度を軟化させるどころか、最近のタンカー6隻に対する攻撃で米当局者の非難を浴びている。米国防総省はタンカー攻撃を受け、中東への米軍増派を決めた。
イラン革命防衛隊(IRGC)は20日、ホルムズ海峡上空で米軍の偵察ドローンを撃墜し、一段と緊張が高まっている。イランのメディアは、ドローンが同国領空を飛行していたと報じた。だが、米中央軍はドローンがイランの地対空ミサイルで撃墜されたと認めた上で、ドローンは国際空域を飛行中だったと述べた。
米国務省のイラン担当特別代表、ブライアン・フック氏は米議会で政権の戦略を擁護し、米国が課した厳しい制裁によってイラン政府は軍事予算の削減や武装組織への支援縮小を強いられ、今度こそ米国の思い通りに交渉の席へ戻る可能性があると指摘した。
フック氏は19日、イランでは「ほぼ全ての方面で、政権とその代理勢力が弱体化している」とし、「圧力を高めるわれわれの政策は効果を上げている」と述べた。
トランプ大統領はイラン指導者らと協議する用意があると主張しているが、交渉が進んでいる兆しはない。両国首脳は軍事的対立は望んでいないと言明しながらも、互いに影響力の強化を図っている。米統合参謀本部副議長のポール・セルバ空軍大将は18日、「誤算のリスクは現実にある」と認めた。
危険な状況が続いていることを象徴するかのように、フック氏はその後、国防総省の情報当局者らと共に、2つの上院委員会に対してイランの最近の行動と米国の対応に関する機密情報の説明を行った。
ペルシャ湾の緊張の高まりで、トランプ政権の対イラン政策は再び想定外の展開に見舞われた格好だ。米国は対イラン政策を打ち出した当初、手始めに2015年核合意の厳格化へ向け同盟国の説得に掛かった。
だが、欧州同盟国からの支持獲得は難航し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は18年4月のトランプ氏との首脳会談で、核合意を破棄すればイランとの戦争のリスクを引き起こしかねないと警鐘を鳴らした。
それにもかかわらず、トランプ氏はその翌月、核合意からの脱退を表明した。厳しい制裁を課すことで、中東地域におけるイランの軍事勢力が弱まり、一段と厳格な条件での合意を強いることができそうだとの思惑があった。そうした合意によって、武装勢力に対するイランの支援を断ち切り、ウラン濃縮も完全に停止させる狙いだった。
トランプ氏は18年6月、自らの決断は既にイランの挑発行為の抑制につながっていると主張し、「イランは数カ月前と同じ国ではない」と言明していた。ところが、ここ数カ月でイラン政権への経済的圧力が強まるにつれ、米政権はイランや代理勢力が攻撃的になり始めたと懸念を募らせている。
トランプ氏の政策を支持する向きは原油タンカーへの攻撃について、イラン政府が交渉の席に戻り、より従順になるためには、地域の安全保障環境のさらなる悪化が必要かもしれないとみる。
トランプ氏の政策の批判者は、最近の攻撃は米国が危険な対立に迷い込んだ兆候と受け止めている。イラン独特の民兵組織を駆使する戦争は比較的低コストだ。イランの指揮下にあるシリア国内の全部隊の撤退など、米政権が突きつけた12項目の要求を受け入れる見込みもほとんどない。
元国務省高官でオバマ政権の対イラン核交渉に関わったロバート・アインホーン氏は、「トランプ政権が交渉に真剣であるならば――とてもそうとは明言できないが――12項目の広範な要求は不変というわけではないと、納得できる形で知らせる必要がある」と語った。
さらに、「イランが交渉に応じ、核合意にとどまると合意するなら、追加制裁は発動しないと提案すべきだ」とも指摘している。
一方、前出のフック氏は19日の議会証言で、イランに対しては外交努力を通じて、このところの緊迫した状況からの「出口ランプ」を示してあると断言。交渉に柔軟性を持たせる兆しはみじんもない。
米国とイランの交渉が始まりそうな見通しがほとんどない中、フック氏の次なる任務は、中東と欧州を訪問し、イランの行動に関する情報を共有すると共に米政権の政策への支持を集めることだ。
イランは、このまま行けば低濃縮ウランの貯蔵量が核合意の上限を6月27日に突破すると述べている。
フック氏はまさにその日、最大限の圧力を掛ける米国の方針を巡り、英国、ドイツ、フランスの当局者に支持を訴える予定だ。
同氏に最終的な決定権はない。翌日にはイランがウイーンで、英独仏のほかロシアと中国も加わる会議に臨む見通しとなっている。イランが核合意に違反する構えでも、欧州当局者は当面、厳しい対応をする可能性は低いと述べている。