ワシントン・ポスト紙でコラムニストを務めるマーク・スィースンによると、中国にCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大の法的な責任があるのだという。アメリカ人が監禁状態になり、失業者が増え、死人が出ているのは中国のせいであり、アメリカの貧弱な社会システムとは無関係だというわけだ。
戯言なのだが、この戯言を書いた人物は戯言を作り出すことを生業としてきた。1995年から2001年にかけてジェシー・ヘルムズのスピーチライターを務めた後、ジョージ・W・ブッシュ政権で国防長官に就任したドナルド・ラムズフェルドの主任スピーチーライター、そして後にブッシュ大統領のスピーチを書いていたチームに加わった。ヘルムズはジョン・ボルトンの後ろ盾でもあった。
2009年1月にブッシュがホワイトハウスを去ると、スィースンはネオコン系のフーバー研究所やAEIのフェローになり、2010年3月からはワシントン・ポスト紙のコラムニストだ。
ワシントン・ポスト紙を「言論の自由の象徴」と考える人が日本には少なくないようだ。ウォーターゲート事件の影響だろうが、この事件を取材したことで有名な元ワシントン・ポスト紙記者のカール・バーンスタインによると、アメリカの有力メディアとCIAは緊密な関係にある。400名以上のジャーナリストがCIAのために働き、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)
メディアをコントロールするプロジェクトをCIAが始めたのは第2次世界大戦が終わって間もない頃。デボラ・デイビスによると、1948年頃からモッキンバードと呼ばれる情報操作プロジェクトが始められている。アメリカの有力メディアに「リベラル派」とか「左翼」と呼べるようなものは存在しない。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)
こうした工作はアメリカ国内に留まらない。ドイツの有力紙、フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の編集者だったウド・ウルフコテによると、ジャーナリストとして過ごした25年の間に彼が教わったことは、嘘をつき、裏切り、人びとに真実を知らせないことで、多くの国のジャーナリストがCIAに買収されているとしている。
彼が告発を決意したのは、人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開、人びとをロシアとの戦争へと導き、引き返すことのできない地点にさしかかっていると感じたからだという。2017年1月、56歳のときに彼は心臓発作で彼は死亡した。
言うまでもなく、ブッシュ政権はイラクを先制攻撃してサダム・フセイン政権を倒したが、その攻撃を正当化するため、ブッシュ政権はイギリスのトニー・ブレア首相の協力を得て大量破壊兵器に関する偽情報を広めた。その偽情報の流布に果たしたマーク・スィースンの役割は軽くない。
アメリカ主導軍はイラクを侵略したわけだが、その結果、100万人を超すとイラク人を殺したとも推計されている。例えばアメリカのジョーンズ・ホプキンス大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究によると、2003年の開戦から2006年7月までに約65万人のイラク人が殺されたと結論、イギリスのORBは2007年夏までに94万6000名から112万人が死亡、またNGOのジャスト・フォーリン・ポリシーは133万9000人余りが殺されたとしている。
その後、バラク・オバマ政権はジハード傭兵を使った侵略に切り替えたが、戦争自体は現在も継続され、中東から北アフリカにかけての地域は破壊と殺戮でこの世の地獄と化している。スィースンはその責任を感じていないようだ。そのスィースンは、つまりネオコンはCOVID-19の問題で中国を誹謗中傷している。
ネオコンは1991年12月にソ連が消滅した際、アメリカは唯一の超大国になり、世界制覇は間近に迫ったと考えた。ウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官によると、当時の国防次官でネオコンの大物として知られるポール・ウォルフォウィッツは1991年にイラク、シリア、イランを殲滅すると語っている。(3月、10月)
その当時はジョージ・H・W・ブッシュが大統領で、ウォルフォウィッツの上司にあたる国防長官はリチャード・チェイニー。1992年2月にこの人脈は国防総省のDPG草案という形で世界制覇プランを作成した。いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」で、ソ連のようなライバルが出現することを阻止、力の源泉であるエネルギー資源を支配しようという内容だった。
ネオコンが潜在的なライバルとして最も警戒した国は中国。そこで東アジア重視が打ち出される。必然的に日本の戦略的な役割は重くなり、アメリカの戦争マシーンに組み込まれていく。それがナイ・レポート以降の動きに反映されている。COVID-19を口実として進められている収容所化もそうした戦略の延長線上にある。