亡き次男に捧げる冒険小説です。
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〇二
ハーラは夢を見ていた。《年降る緑色竜》から逃げる為、馬で駆けていく夢だ。馬で…馬…。馬!《ゴール橋》の欄干に愛馬を繋いだままだったことを思い出す。すかさず飛び起き、ハーラは全力で叫ぶのだった。
「れつどばろーん!」
愛馬の名を叫ぶハーラ。事情を知る由もないテーリとナーレは目をパチクリさせている。
「レ、レツドバロン…とは?」
ナーレが恐る恐る尋ねると、ハーラはそれを無視してベッドから飛び出した。目にも止まらない速さで甲冑のアタッチメントを閉じていく。カチャカチャンと小気味良い金属音が響き、ハーラは武装をあっという間に終えた。
ハーラは一言残して部屋を飛び出ていった。
「れつどばろんを迎えにいってくる。すぐ帰る。」
直後、稲妻が目の前に落ちたかのような轟音が響いた。ハーラが階段を転がり落ちた音だった。あ痛たたたたた、とハーラのか細い声が聞こえ、すぐにまたバタバタと走る音がした。
「ナーレ、ハー兄を追うぞ!」
慌ててテーリは革鎧に袖を通した。着古した馴染みの革鎧を手際よく締め上げると、テーリはハーラの後を追った。ナーレは装飾の多い派手な衣装を頭から被ったが慌てていた為、頭をどこから出していいかわからなくなり《僧兵》とは思えない無様な転け方をした。
テーリから遅れること数分、やっとナーレは宿屋を出ることができた。今から追いつけるのかと不安げに遠くを見やる。遥か彼方には何も見えなかったが、視界の片隅にうごめくものがあった。視線を移すとすぐ目の前で白馬に抱きつくハーラと、うんざりした顔のテーリの姿があった。慌てることもなかったな、とナーレは頭を掻いた。
【第2話 〇三に続く】
次回更新 令和7年1月28日火曜日
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ハーラのから騒ぎに付き合わされたテーリとナーレ。宿屋に戻って朝食を摂ろうとした時、意外な人物と再会を果たす。