
亡き次男に捧げる冒険小説です。
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二〇
洞穴の中は色めき立っていた。傷付いた《ウォーグ》は歯軋りをして唾液を振りまいた。
「あいつの声だ!餌が自分から喰われに来やがった!」
情けない気持ちいっぱいに敗走した二匹の《ウォーグ》は自分たちの名誉を守るため、仲間たちに不意打ちを喰らったと嘘をついていた。仲間たちはそん話を信じず、見下され、群れの最下位に降格される仕打ちを受けただけだったが。人間に向けた激しい復讐の炎が《ウォーグ》を駆り立てた。帰ってきたばかりの《ゴブリン》を焚きつけ、普段から威張り散らしているならその強さを見せつけろと煽り立てた。
《ゴブリン》は彼らなりに嬉しい誤算であった。狩りが上手くいかず、手近な農家を襲って鶏を奪うという割に合わない狩りしかできなかった。そこに話に聞いた屁っ放り腰の冒険者が調子に乗って戦いを挑んできたではないか。人間は美味くはないが冒険者はお宝を持っている。装備品は高く売れるし、携行食は美味い。別に《ウォーグ》ごときに煽られようと屁でもないが、《ウォーグ》の復讐に付き合ってやるのも悪くはないだろう。数は、えーと、10対3、グフフ、《ウォーグ》だけだと思ったら、俺様たちが飛び出してくる。驚き慌てる冒険者ども、これは楽しい余興だぜ。《ゴブリン》は腹黒い妄想を掻き立てながら、《ウォーグ》と先を争って、洞穴の出口に向かった。そこには強酸の粒子が満たされる地獄が待っているとも知らずに。
【第2話 二一に続く】
次回更新 令和7年3月5日水曜日
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ハテナ義兄弟の怒涛の魔法攻撃。はたして効果はいかほどか?