小説としては今年最後の更新です!皆様良いお年を!
二一
目を赤く腫らした三人に先ほどまでの気不味さはなくなっていた。素性がなんだ、理由がなんだ、そんなものは関係ない。ただこの場で三人が巡り会えたことに意味があるのではないか。三人はそう考えた。三人とも顔を合わすまで、とても大きな喪失感や不安感を感じていた。だが今は違った。言葉にならない安心感と幸福感に包まれている。魂が「谺しあう」この出会いに感謝して、成り行きに任せればいいではないか!三人で一緒にいたいという気持ちを確認し合うと、まずはお互いを知ることから始めようと、テーリが提案をした。
「僕の名前はハーラ・スイマール。二〇歳だ。西マータで薬草の産地として有名な《緑毒の湿原》を領する貴族の出だ。そして…。」
ハーラは包み隠さず自分の素性と弱さを明かした。《年降る緑色竜》を恐れて逃げ出したこと。そして、逃げ出した実家と領民を救うために、魂が谺する二人の力を借りたいこと。テーリとナーレは黙って最後まで話を聞いてくれた。
「それならばもう少し力をつけないとね。」
ナーレはハーラの力量をよく理解していた。ほんのわずかに共闘しただけなのに、ハーラの《聖騎士》としての力不足を理解していた。ハーラは強く頷くと、自分の弱さを受け入れてもらえた安堵から、また涙をこぼすのだった。
「僕の名前はナーレ・ボルバケト。一五歳だ。元々は南マータの港湾都市にある《青銅街》で育った孤児だった。だけど、今は《ボルバケト籠竜会》の総帥の養子だ。いや養子だった、が正しいのかな…。」
ナーレも包み隠さず自分の出自と自由を求めすぎる傲慢な生き方を話すことができた。親友にも話せなかった《青銅街》の暮らしぶりまで、正直に話すことができた。
「僕も悪いことをたくさんして来た。それを進んで話せるナーレを尊敬する。君のことをもっと理解したい。君の我儘に付き合わせてくれ。」
テーリの意外な申し出に、ナーレは声を上げて泣いた。今まで出会った素晴らしい人物たち…一人は《竜》だが…は自分の理想を押し付けて来るばかりだった。ありのままの自分を受け入れてもらえたことがナーレにはこの上なく心地良く、嬉しさで涙が止まらなかった。
「して、テーリの話だけど…。」
ハーラから話を振られて、テーリは戸惑った。申し訳ないのだが、ハーラやナーレのようなドラマチックな人生を歩んできてもいなければ、そもそもなんでこの渓谷で川に身を沈めていたのか、自分自身が全くわかっていなかったからだ。それでも、テーリがどんな話を聞かせてくれるのかと、期待に瞳を爛々と輝かせる二人の気持ちになんとか応えようと、自分の身の上話をしてみることにした。
【第1話 二二に続く】
次回更新 令和6年12月30日月曜日 午前9時
今年最後の辰の日です!特別更新ということで通常の連載プラスαで何かしたいと思います!
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用語解説
なし