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■朝鮮会館の課税減免措置は違法、福岡高裁判決文
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平成18年2月2日判決
固定資産税等の免除措置無効確認等請求控訴事件
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
2 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免理由の有無について
(争点(3))
(3)検討 註)同項全部抜粋。
ア 地方税法における固定資産税等の納付義務者と減免事由
地方税法343条1項は,固定資産税の納税義務者を固定資産の所有者と定め,同条2項は,この固定資産の所有者を,土地又は家屋については,登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう旨定めている。また,同法702条1項は,都市計画税の納付義務者を土地又は家屋の所有者と定め,同条2項は,この所有者とは,当該土地又は家屋に係る固定資産税について同法343条(3項,8項及び9項を除く。)において所有者とされ,又は所有者とみなされる者をいう旨定めている。他方,同法367条が規定する固定資産税の減免のような地方税の減免は,地方公共団体が法令又は条例の規定により課税権を行使した結果,ある人について発生した納税義務を,当該納税者の有する担税力の減少その他納税者個人の事情に着目して,課税権者である地方公共団体自らがその租税債権の全部又は一部を放棄し,消滅させることによって解除するものであると一般理解されている。そうすると,固定資産税等の減免事由の存否は,当該固定資産の納税義務者とされている登記簿等に所有者として登記又は登録されている者について判断されなればならないこというまでもない。
そこで,本件を見るに,本件減免措置の対象である1記載の土地及び朝鮮会館について,登記簿に所有者として登記されているのは朝日商事である。すなわち,本件減免措置の根拠としての減免事由の存否が判断されなければならないのは,この朝日商事についてということになる。しかし,前記前提事実から明らかとおり,朝日商事は,元々朝鮮会館を所有することを企図して設立されたにすぎず,会社としての活動は何ら行われていないものである。すなわち,朝日商事は,地方税法367条が定める「その他特別の事情がある者」に該当しないことはもちろん,本件減免対象部分を本件条例50条1項2号に定める「公益のために直接専用する」者に該当しないことも明白であるから,朝日商事が所有者として登記されている1記載の土地及び朝鮮会館については,その固定資産税の納付義務者である朝日商事に,地方税法367条及び本件条例50条1項2号に定める減免事由は何ら認められないことになる。しかるに,この点について,被控訴人からは何らの主張,立証もない。そうすると,本件減免対象部分が,被控訴人が本件減免措置の根拠の一つとして主張する,地方税法367条の下位規範である本件条例50条1項4号に定める「市長が特に必要と認める固定資産」,本件条例50条1項2号の下位規範である本件規則6条1項2号ウに定める「公民館類似施設」や「その他これらに類する固定資産」にそれぞれ該当するか否かを検討する
までもなく,本件減免措置は,既に違法といわなければならない。
イ 本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」と本件減免対象部分について
仮に,上記「公益のために直接専用する固定資産」という減免事由の存否を納税義務者自身についてではなく,現実の利用者について判断すべきであるとしても,次のとおり,本件では,この減免事由は存在しないというべきである。すなわち,
上記「公益のために直接専用する固定資産」とは,上記説示のとおり,地方税法367条の「その他特別の事情がある者」を受けて規定されているが,その内容については必ずしも明らかでない。しかし,地方税法及び本件条例がいずれも我が国法体系の中の法令である以上,この「公益のために」とは「我が国社会一般の利益のために」と解すべきことは,文理上からも,また,その対象が我が国内の固定資産である土地又は家屋等である以上,当然である。そこで,本件を見るに,上記認定の,朝鮮総聯の組織及び活動等,管理会と朝鮮総聯との関係等,朝鮮会館内の部屋に関する各事実,特に,朝鮮会館の大部分の部屋を,朝鮮総聯の地方組織である朝鮮総聯熊本県本部及び朝鮮総聯熊本支部,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等や朝鮮総聯の事業体である朝鮮新報社が,朝日商事ないしは管理会から無償で借り受けて,その事務室,応接室,会議室として使用し,その室内には金親子の写真が掲げられている事実,朝日商事や管理会の役員には朝鮮総聯熊本県本部等の役員が就任している事実からすると,朝鮮会館全体が,朝鮮総聯の活動拠点として,そのために専ら使用されていることは明らかといわなければならない。すなわち,このような朝鮮会館の使用が「我が国社会一般の利益のために」ということができるかが問われることになる。この観点から見たとき,上記認定の朝鮮総聯の組織び活動等に関する事実からは,朝鮮総聯が,北朝鮮の指導のもとに北朝鮮と一体の関係にあって,専ら北朝鮮の国益やその所属構成員である在日朝鮮人の私的利益を擁護するために,我が国において活動をおこなっていることは明らかである。このような朝鮮総聯の活動が「我が国社会一般の利益のために」行われているものでないことはいうまでもない。被控訴人自身,既に,朝鮮会館の事務室のうち,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等事務室やその事業体である朝鮮新報社事務室部分については本件減免措置の対象外としているが,このことは,その包括団体である朝鮮総聯の活動の評価としても同様というべきである。
上記説示のとおり,本件減免対象部分の利用者である朝鮮総聯等の使用が上記「公益のために」という要件に該当しない以上,本件減免措置は,上記減免車由が存在しない違法な処分といわなければならない。
ウ 本件規則6条2号ウの「公民館類似施設」と本件減免対象部分について
上記「公民館類似施設」が社会教育法42条に規定する「公民館に類似する施設」を指すことは明らかであり,同法20条によれば,公民館は,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行う施設とされている。この公民館類似施設が,上記「公益のために直接専用する固定資産」を例示列挙したものであることはいうまでもない。これらのことからすれば,この公民館類似施設等とは,専ら上記の意味における公益的な活動を目的,内容とする施設を指すものと解するのが相当であり,公民館と同様に,一定の属性を有する者を対象とした施設ではなく,一定区域の住民を広く対象とした施設を予定しているものと解するのが相当である。そして,公平性が強く要請される課税事務において,このような減免事由が例外的に不公平な取扱いを正当化する要件であることに照らすと,この公益性の有無に関しては,当該固定資産で営まれる事業の目的及び内容,その設備内容,さらにはその利用実態等の具体的事実の存否を客観的資料でもって認定した上で,その事実をもとに厳格に判断されなければならない。
そこで,本件減免対象部分についてみるに,まず,上記認定のとおり,定款によれば,管理会は,各種団体に対する事務所・会議室等の無償貸与,各種会合のための会場の無償貸与などの事業を行うとされているが,その使用目的においては,必ずしも教育,学術,文化等の公益活動であることを要する等の限定はされていない。また,朝鮮会館のうち,商工会等の事務室や朝鮮新報社の事務室部分については,被控訴人自身,上記のとおり現に公益のために使用されているとはいえないと判断しているが,これら課税対象部分と本件減免対象部分について,特に区分されて使用目的が定められているわけではない。このように,朝鮮会館の運営規則上,本件減免部分が専ら上記「公益のために」使用されるべきものとは定められていないのである。次に,朝鮮会館の利用状況についても,上記認定のとおり,本件減免を申請した朝日商事代表者,すなわち,管理会代表者で朝鮮総聯熊本県本部委員長でもある金末幸から熊本市の担当者に対してるる説明がされているものの,これを客観的に認めるに足りる資料の提出は全くない。逆に,上記認定の平成17年8月1日から同年9月2日までの利用状況を見る限り,特に,この期間が一般的には夏期休暇中の活動期間であると思われるにもかかわらず,朝鮮会館が上記「公益のために」利用された形跡は全く認められない。これらのことからすると,本件減免措置の当時も,朝鮮会館が必ずしも上記「公益のために」という目的,内容の施設としてふさわしい利用状況であったかについては,大いに疑問があることになる。結局,本件減免部分については,上記減免事由の存在を未だ認めることができないといわなければならない。
エ まとめ
以上のとおり,本件減免対象部分については,地方税法367条,本件条例50条1項2号,本件規則6条2号ウに規定する固定資産税の減免事由が存在するとは到底認められない。
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■朝鮮会館の課税減免措置は違法、福岡高裁判決文
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平成18年2月2日判決
固定資産税等の免除措置無効確認等請求控訴事件
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
2 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免理由の有無について
(争点(3))
(3)検討 註)同項全部抜粋。
ア 地方税法における固定資産税等の納付義務者と減免事由
地方税法343条1項は,固定資産税の納税義務者を固定資産の所有者と定め,同条2項は,この固定資産の所有者を,土地又は家屋については,登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう旨定めている。また,同法702条1項は,都市計画税の納付義務者を土地又は家屋の所有者と定め,同条2項は,この所有者とは,当該土地又は家屋に係る固定資産税について同法343条(3項,8項及び9項を除く。)において所有者とされ,又は所有者とみなされる者をいう旨定めている。他方,同法367条が規定する固定資産税の減免のような地方税の減免は,地方公共団体が法令又は条例の規定により課税権を行使した結果,ある人について発生した納税義務を,当該納税者の有する担税力の減少その他納税者個人の事情に着目して,課税権者である地方公共団体自らがその租税債権の全部又は一部を放棄し,消滅させることによって解除するものであると一般理解されている。そうすると,固定資産税等の減免事由の存否は,当該固定資産の納税義務者とされている登記簿等に所有者として登記又は登録されている者について判断されなればならないこというまでもない。
そこで,本件を見るに,本件減免措置の対象である1記載の土地及び朝鮮会館について,登記簿に所有者として登記されているのは朝日商事である。すなわち,本件減免措置の根拠としての減免事由の存否が判断されなければならないのは,この朝日商事についてということになる。しかし,前記前提事実から明らかとおり,朝日商事は,元々朝鮮会館を所有することを企図して設立されたにすぎず,会社としての活動は何ら行われていないものである。すなわち,朝日商事は,地方税法367条が定める「その他特別の事情がある者」に該当しないことはもちろん,本件減免対象部分を本件条例50条1項2号に定める「公益のために直接専用する」者に該当しないことも明白であるから,朝日商事が所有者として登記されている1記載の土地及び朝鮮会館については,その固定資産税の納付義務者である朝日商事に,地方税法367条及び本件条例50条1項2号に定める減免事由は何ら認められないことになる。しかるに,この点について,被控訴人からは何らの主張,立証もない。そうすると,本件減免対象部分が,被控訴人が本件減免措置の根拠の一つとして主張する,地方税法367条の下位規範である本件条例50条1項4号に定める「市長が特に必要と認める固定資産」,本件条例50条1項2号の下位規範である本件規則6条1項2号ウに定める「公民館類似施設」や「その他これらに類する固定資産」にそれぞれ該当するか否かを検討する
までもなく,本件減免措置は,既に違法といわなければならない。
イ 本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」と本件減免対象部分について
仮に,上記「公益のために直接専用する固定資産」という減免事由の存否を納税義務者自身についてではなく,現実の利用者について判断すべきであるとしても,次のとおり,本件では,この減免事由は存在しないというべきである。すなわち,
上記「公益のために直接専用する固定資産」とは,上記説示のとおり,地方税法367条の「その他特別の事情がある者」を受けて規定されているが,その内容については必ずしも明らかでない。しかし,地方税法及び本件条例がいずれも我が国法体系の中の法令である以上,この「公益のために」とは「我が国社会一般の利益のために」と解すべきことは,文理上からも,また,その対象が我が国内の固定資産である土地又は家屋等である以上,当然である。そこで,本件を見るに,上記認定の,朝鮮総聯の組織及び活動等,管理会と朝鮮総聯との関係等,朝鮮会館内の部屋に関する各事実,特に,朝鮮会館の大部分の部屋を,朝鮮総聯の地方組織である朝鮮総聯熊本県本部及び朝鮮総聯熊本支部,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等や朝鮮総聯の事業体である朝鮮新報社が,朝日商事ないしは管理会から無償で借り受けて,その事務室,応接室,会議室として使用し,その室内には金親子の写真が掲げられている事実,朝日商事や管理会の役員には朝鮮総聯熊本県本部等の役員が就任している事実からすると,朝鮮会館全体が,朝鮮総聯の活動拠点として,そのために専ら使用されていることは明らかといわなければならない。すなわち,このような朝鮮会館の使用が「我が国社会一般の利益のために」ということができるかが問われることになる。この観点から見たとき,上記認定の朝鮮総聯の組織び活動等に関する事実からは,朝鮮総聯が,北朝鮮の指導のもとに北朝鮮と一体の関係にあって,専ら北朝鮮の国益やその所属構成員である在日朝鮮人の私的利益を擁護するために,我が国において活動をおこなっていることは明らかである。このような朝鮮総聯の活動が「我が国社会一般の利益のために」行われているものでないことはいうまでもない。被控訴人自身,既に,朝鮮会館の事務室のうち,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等事務室やその事業体である朝鮮新報社事務室部分については本件減免措置の対象外としているが,このことは,その包括団体である朝鮮総聯の活動の評価としても同様というべきである。
上記説示のとおり,本件減免対象部分の利用者である朝鮮総聯等の使用が上記「公益のために」という要件に該当しない以上,本件減免措置は,上記減免車由が存在しない違法な処分といわなければならない。
ウ 本件規則6条2号ウの「公民館類似施設」と本件減免対象部分について
上記「公民館類似施設」が社会教育法42条に規定する「公民館に類似する施設」を指すことは明らかであり,同法20条によれば,公民館は,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行う施設とされている。この公民館類似施設が,上記「公益のために直接専用する固定資産」を例示列挙したものであることはいうまでもない。これらのことからすれば,この公民館類似施設等とは,専ら上記の意味における公益的な活動を目的,内容とする施設を指すものと解するのが相当であり,公民館と同様に,一定の属性を有する者を対象とした施設ではなく,一定区域の住民を広く対象とした施設を予定しているものと解するのが相当である。そして,公平性が強く要請される課税事務において,このような減免事由が例外的に不公平な取扱いを正当化する要件であることに照らすと,この公益性の有無に関しては,当該固定資産で営まれる事業の目的及び内容,その設備内容,さらにはその利用実態等の具体的事実の存否を客観的資料でもって認定した上で,その事実をもとに厳格に判断されなければならない。
そこで,本件減免対象部分についてみるに,まず,上記認定のとおり,定款によれば,管理会は,各種団体に対する事務所・会議室等の無償貸与,各種会合のための会場の無償貸与などの事業を行うとされているが,その使用目的においては,必ずしも教育,学術,文化等の公益活動であることを要する等の限定はされていない。また,朝鮮会館のうち,商工会等の事務室や朝鮮新報社の事務室部分については,被控訴人自身,上記のとおり現に公益のために使用されているとはいえないと判断しているが,これら課税対象部分と本件減免対象部分について,特に区分されて使用目的が定められているわけではない。このように,朝鮮会館の運営規則上,本件減免部分が専ら上記「公益のために」使用されるべきものとは定められていないのである。次に,朝鮮会館の利用状況についても,上記認定のとおり,本件減免を申請した朝日商事代表者,すなわち,管理会代表者で朝鮮総聯熊本県本部委員長でもある金末幸から熊本市の担当者に対してるる説明がされているものの,これを客観的に認めるに足りる資料の提出は全くない。逆に,上記認定の平成17年8月1日から同年9月2日までの利用状況を見る限り,特に,この期間が一般的には夏期休暇中の活動期間であると思われるにもかかわらず,朝鮮会館が上記「公益のために」利用された形跡は全く認められない。これらのことからすると,本件減免措置の当時も,朝鮮会館が必ずしも上記「公益のために」という目的,内容の施設としてふさわしい利用状況であったかについては,大いに疑問があることになる。結局,本件減免部分については,上記減免事由の存在を未だ認めることができないといわなければならない。
エ まとめ
以上のとおり,本件減免対象部分については,地方税法367条,本件条例50条1項2号,本件規則6条2号ウに規定する固定資産税の減免事由が存在するとは到底認められない。
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