僕は政治的には無智な一国民として事変に処した。 黙って処した。 それについて今は何の後悔もしていない。 大事変が終った時には、 必ず若しかくかくだったら事変は起らなかったろう、 事変はこんな風にはならなかったろうという議論が起る。 必然というものに対する人間の復讐。 はかない復讐だ。 この大戦争は一部の人達の無智と野心とから起ったか、 それさえなければ、 起らなかったか。 どうも僕にはそんなお目出度い歴史観は持てないよ。 僕は歴史の必然性というものをもっと恐しいものと考えている。 僕は無智だから反省なぞしない。 利巧な奴はたんと反省してみるがいいじやないか。
「 コメディ・リテレール 小林秀雄を囲んで 〈座談〉」 15 - 三四 (人生の鍛錬 P.117)
「 コメディ・リテレール 小林秀雄を囲んで 〈座談〉」 15 - 三四 (人生の鍛錬 P.117)