スタン・ゲッツ 音楽を生きる
ドナルド・L・マギン (著)、 村上 春樹 (翻訳) 単行本 – 2019/8/27 ¥3,520 税込
4 年ほど前に購入していたが、数年寝かせ、半年ほどかけてやっと読み終えた。私は、訳者の村上氏 同様に スタン・ゲッツ ファン なので、一気に読むのかと思ったら違っていた。そもそも大好きな音楽家の伝記なんて、入手したら一晩で読むのではなかろうか。
本題に入る前に私の事情を少々。私は本好きだった。ところが、老眼が進んできて文字が読みにくくなるにつれて、本屋から足が遠ざかった。今は、ほぼ足を運ぶことはない。イコール、書店で本や雑誌を買わなくなったし、出版状況にも関心がなくなった。
そんな中、ポチリで本書を購入。中を開いて・・字が小さく、600 ページ弱・・一気に読む気が失せ、そのまま本棚に。自分への言い訳は、スタン・ゲッツの大まかな人生は、雑誌の記事、所有する LP のライナーノーツ、別のジャズ本で読んでいるから知っているし・・みたいな。
背表紙を横目で見つつ知らんふりしていたが、半年ほど前から気合を入れなおし、読み始めた。しばらく読み進めるとゲッツの麻薬中毒(これは有名)だけでなく、深酒と暴力(DV)、女好きとか今まで知らなかった負の世界が少なからず描写され、そのたびに憂鬱になり、しおりを挟んで本立てに戻していた。
しかし、本日、頑張って最後まで読み終えることができた。本文では前記のように時々苦労したが、訳者である村上氏のあとがきは、文字サイズは同じだけど、すっと読めた。
私は本好きと言いながら、村上氏の著作は一度も読んだことがない。私が好きな分野ではないのかもしれない。故に村上氏の手癖とか知らないが、訳文はほとんど違和感なく読めた。それは文学の大家というだけでなく、ゲッツファン、ジャズファンとしてジャズシーンの正確な表現が可能だったからと思う。小説家(翻訳者)にゲッツファンの方がいて、本当に良かった。
肝心の感想だが、概ね村上氏の あとがき と同じ。村上氏はフィッツジェラルドを引き合いに出して解説していたが、そんなたとえは私にはできない。それ以外は、ゲッツファンなら、そうだよねー と相槌を打つ内容に終始していた。
私がとても残念なのは、私の周りにゲッツファンがいなかったことだ。私と同年代は、コルトレーンが神。ゲッツは商業的なサックス吹きという認識の方が多い。しかし、そこにはスタン・ゲッツのようなセンスとテクニックでテナーサックスを吹けるプレーヤーが、コルトレーンも含めて他にいるのか?みたいな観点は無いと思う。これも異口同音に村上氏が書かれている。村上先生、友達になっていただけませんか?スタン・ゲッツについて、語り合いたい。
ジャズやジャズプレーヤーに関する書籍や雑誌は、若いころはそれなりに読んできた。多くは、今でも本棚に眠っている。それらと比較し、本書はかなり手ごたえがある。その代わりに、他の書籍では得られない現実に対する没入感がある。ゲッツファンなら、それを知ることが苦しいだろう。しかし、つるんとした読み物では味わえない世界がそこにある。私はすべてを受け入れる。麻薬、飲酒、暴力の経験をもってして、その人のなしえた芸術や実績を全否定しない。この表現が合っているかどうかはわからないが、山下達郎氏の姿勢も否定しない。ゲッツファンには、全力で本書をお勧めする。
読んで思ったこと(暗黒面以外)
・ゲッツの来日ステージはタイミング的には聞くことも可能だったが、出来不出来が激しいと雑誌で読んでいたので、ガッカリしたらいやだなと思い、行ってない。でも、生音を聞けるのに聞かなかったことは今でも後悔している。
・最後はガンだったことは知っていたが、ケニーバロンとのデュオ録音時に相当進行していたことは知らなかった。ゲッツファンではない知り合いが、あの演奏は良いと言っていた。もう一度真剣に聞いてみよう。
YouTube に元妻のモニカさんへのインタビュー動画がいくつかアップされている。本書を読んで話される内容は想像できるが、なるべく早く観たいと思う。
以上。
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