Sail Loft's websiteの みやちゃんにあげた小説、 メロディローズの
続きです。お風呂で思い浮かんだので、勢いで書いてしまいました。
(向こうは忘れているかもしれないけれど、タイトルと話両方、すごい自己満足に
浸れたので、ずっと暖めては終わりが見つからず彷徨っていた、続きです。)
我ながらこのシリーズすごく楽しい。
ふたりがキスする辺りまで続けてみようかな。
私は飛影を格好良くするのが趣味なので、どうしてもこうなります。
これも、本当は3年くらい前に続きを書こうと思った話でした。
ダラダラしているうちに、また今度でいいやと思い、
後回しにしていました。それじゃだめだと思い、勢いもついたので、
書いてみました。
こういう昔の自分のものを読み返すと、書き方という者を思い出して、初心に帰れた気
がしてきます。
当初、 連弾したいと言い出して、蔵馬がミスをして、
気にするなと言って突然飛影が蔵馬にキスをする話でした。
でも”展開早すぎるだろう!”と思いやめました。
高校の頃社交ダンスの授業があったんで、もう二度とやりたくないと思っているんですけど、
色々思い出して萌えに変換するのは楽しいです。
メロディローズ2
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「俺が…」
暖めてやる。
飛影がそう言うので、一瞬どうして良いか、わからなくなった。
ただ頬が妙に熱くなって、後ろから抱きしめた腕は強く…音を紡いでいるとき
とは、違う力を感じた。
屋敷へ向かう足が重く、蔵馬はため息をついた。
飛影はそれから何もせず、ただ「大丈夫か」とだけ言い、暫くして腕を放した。
すみませんとだけ言って、飛影を見ることが出来ず、蔵馬は走って屋敷を出た――あの日。
だから、今こんなに足が遅い。
あの日から三日たっている。
どう言う風に飛影に会えば良いか、わからず、下ばかり見てしまう。
けれど、実際目の前にすると、やはりあの、吸い込まれる瞳にぶつかってしまう。
「今日は、ピアノはいい」
あの広い部屋に入ると、飛影は足を組んでいた。そして短く、そう言った。
「え――」
それじゃあ、キャンセルもなく、一体何のために自分は今ここに居るのだろう。
蔵馬の白いシャツは、一瞬、わずかに開いた扉の隙間から入る風に揺れた。
「今日は、礼をしてやる」
「え…?」
何を言われているのか、わからなくなった。
飛影の手が、ゆっくりと伸びた。
聞こえてくる音楽は、蔵馬が奏でているものでも、飛影が奏でる音でもなかった。
蓄音機から流れるメロディは、繊細で、それでいて強さを併せ持っていた。
「あと少し…」
飛影の腕は、ぐいと蔵馬の白い指を引いた。黙って、蔵馬は流されるようにからだを
流す。
「ここで斜めに」
低い、飛影の声だけが聞こえる。音楽は鳴っているのに、遠い音楽のようだった。
部屋の端まで行くと、飛影は勢いよくターンをした。
「ちゃんとからだを預けろ」
よくわからない汗が、頬を伝った。
――礼を、してやると言ったのは飛影だった。ピアノの代わりにダンスを――。
丸い瞳を回して頷いてしまったけれど、今は後悔している。
こんなに近いと思わなかった。
飛影の蒼い瞳は、蔵馬のほうを真っ直ぐ見ていたが、蔵馬は見つめ返すことが
出来ない。鼓動が伝わりそうで、困る。
「そうだ。少し力を抜いて」
反応しない蔵馬を気にしないのか、飛影は蔵馬の腰を少し下げた。
――わっ――
傾いたからだは、そのまま倒れそうになり――
「あ!」
カツ、と音がした。
床に倒れ込んだ蔵馬の、声だった。
目の前が反転して、床が迫ってきた。
「大丈夫か」
上から降ってくる声は、なぜか冷たくはなかった。そっと、瞳をよぎるもの。
飛影の、少し大きな手だった。
「けが、している」
足首をさすり、飛影はそっとそこをなぞった。
「す、すみませ――」
「いい。悪かった」
カタンと言う音が、同時に聞こえた。深い、青のハンカチ。
「これ、使え」
消毒液を垂らすと、使えといった癖に、飛影は傷を撫でた。ハンカチから伝わる
消毒液が、冷たい。
「あの、そんな」
こんなものを、受け取るわけにはいかないと、思った。
「いい、俺が少し強引すぎた」
蔵馬の黒髪が、窓の風に揺れた。座り込んだ蔵馬に、飛影はしゃがみ込んできた。
「一曲――」
どくん、と鼓動が跳ねた。
「終わるごとに――」
「は、はい」
震える声が、自分でもわかる。息がかかりそうで、困る、と思う。こんなのは困る。
二人の距離は、あの日から急激に近くなり始めている。突風のように。
「礼をしたい」
初めて、蔵馬は飛影を見た。白いシャツが、もう一度揺れた。合わせ目から、
わずかに白い肌が除く。眩しいと、飛影は思った…何故だろう。
「いつか」
深い、碧の瞳は不思議な色だった。
「二人で、一曲」
「あ、あの」
どうしよう。
床に付いた手から力が抜けた。どうするのがいいのか、わからない。正しい答えを、誰か
教えて欲しい。拒絶をして良いのか。けれど、突き飛ばすことも、出来なかった。
「嫌か」
とっさに、首を振るしか出来ない。嫌ではない、ただ、戸惑っている。
「そんなことは…」
「じゃあ、それでいいか」
どこか威圧のある言い方は、育ちから来るものかもしれない。けれど響きは、何故か甘かった。
「外れてる」
ハッと気づくと、飛影の指は、シャツの一番上の釦にあった。びく、と一瞬蔵馬が強ばった。
カサ、と、釦を閉める音だけがした。
「ちゃんと閉めておけ」
「すみませ…」
言いかけた唇は遮られた。飛影の人差し指が、唇に当てられていた。
「謝るな。謝罪の言葉は好きじゃない」
「…」
じゃあ、どうしたらいいのだろう。この立場の者として、謝ることしか、蔵馬は慣れていない。
「あ、ありがとう…ございます」
何秒も考えた後、小さく蔵馬はそう言った。ふっと、飛影は笑った。小さく。
「それでいい」
立て、と促すと、蔵馬はのろのろと立ち上がった。
「次に、お前が来るまでに」
背を向けた蔵馬に、飛影の低い声が追ってきた。
「一曲、仕上げておくからな」
小さな笑いを含んだ、余裕の声だった。
一瞬頬がまた熱くなり、蔵馬は振り向けなかった。
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