今日、ちょっとしたきっかけがあって、
ライブハウスで恋を自覚する飛蔵というのを考えていました。
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それを意識したのはいつからだったのか、わからない。
だけど、いつの間にか鋭いその目を追いかけるようになっていて――、蔵馬は
会議室の入り口で、ため息をついた。
飛影は、一年上の先輩だった。ある企画で一緒になってから、飛影のことが
頭から離れない。
「それだとこっちの予算がかかりすぎる、こっちをもう少し――」
飛影が、脇から手を伸ばすたび、頭が停止した。
「ほら、疲れているだろ」
缶コーヒーを投げてくれた手。
いつも愛想はないけれど、それでも小さな会話には癒やされていて――。
「飛影、先輩」
小さく呟くと、昼休みが終わる時間だった。
だめだ、このままじゃ。
思いながら膝をたたくと、歩き出した。
が――。
「それで、このライブにはお前たち、二人で行って欲しい」
思いがけない声は、上司の躯からだった。
「え」
声は、二人同時だった。取引先の娘が出るという、ライブハウスでのライブ。
え、と言う飛影の声――もしかして――。
――嫌。なのかな
聞けなかった、そんなこと、直接はどうしても。
チケットを握りしめ、食堂に向かった。
カードケースにしまうわけにも行かず、くしゃっと、バッグのポケットにしまった。
「おい、どうした」
同僚の、幽助だった。
「なんかぼうっとして」
「あ、ううん」
「あ、――それ」
しかし、それを目敏く見つけたのは幽助だった。ポケットから、チケットが半分見えていた。
「飛影と行くんだろう?」
先輩なのに、呼び捨ては幽助の特権というか―。
「う、うん」
「いいじゃないか、ちょっと仲良くなれよ」
はは、と幽助が笑った。
「そんなんじゃ…」
ないけど、と言いかけて、うつむいた。
ライブは、小さなライブハウスで行われた。
100人ほどしか入らない、街のライブハウスだった。
バンドは前に立ち、小さくお辞儀をした。
「それでは、ここに、この楽譜があるので、これを演奏します!」
低い声がして、バンドの代表曲が始まった。
バンドの前にはいくつかの机があって、先に入った人たちはレストランのように、そこに座っていた。
少し早く着いた蔵馬たちは、丁度テーブルでの席に着くことが出来た。
ガタンと音がして、暗転する。
「注文はどうしますか」
スタッフが訊きに来た。
ワンドリンクを、頼まなくてはいけないものだ。
「じゃあ、ウーロン茶を」
「じゃあ、クランベリージュース」
蔵馬は、小さく頼んだ。飛影が、ちらっと蔵馬を見た。
「聴いてください、はかない太陽」
フォークサウンドの気配を残したバンドは、少しずつ声を強くしていった。
後ろの音が、低い声が響くように、強く弱くを繰り返す。
ああ、あなたをおもうほど
あなたを噛みしめるほど
太陽がかすむ
近くなれば 言葉一つ交わせるのに
you are moonlight
どこにいるか 教えてよ あのこの胸なの
切なさが増す声は、ぐっと何かを抉るようだった。
ライブハウスは暗く、飲み物の音だけが、ところどころで聞こえるだけ。
時々、スタッフが注文されたものを運んでいく。
暗闇に近い空間に、飛影の瞳が浮かんで見えた。
ああ 彷徨うほど you are moonlight
眠りにつけば ひとたび 逢瀬をつなぎ止める
激しい熱を帯びた声が、胸に刺さるようだ。
飛影先輩…
気づかれないように、飛影を見る。なにを考えているのか、分からない。
鋭い瞳…なのか…どうなのか。音に浸っているようにも感じられて。
ライブは、2時間ほどだった。
「ありがとうございます!」
バンドが頭を下げ、直ぐに撤収になる。
キイ、と扉を…開けると、空はもう暗かった。
「もう、夜ですね。先輩、何か食べて――」
言いかけて――蔵馬はことばをうしなった。
「せんぱっ…」
ぐいと、蔵馬は引き込まれていた。
ライブハウスの裏道の壁。隣は住宅になっていて、その境目に、蔵馬を
押し付けていた。
「んっ!」
手を抑えつけられ、蔵馬は呻いた。くちびるが、重なっていた。
「好きだ」
息がかかる距離で、飛影は言った。
「っ…」
「俺のこと、見ていただろ」
ハッと、蔵馬は顔を背けた。
「そんな…」
「俺も、見ていた」
暗闇で光る、蔵馬の唇。グランベリーの赤紫色と、薄い灯りの下の、蔵馬の唇。ずっと、見ていた。
「お互い様だ」
知っているか、と飛影が言った。
you are moonlight
って言うのは、月のように形を変えていかないように、純な振りをして念を込めている、
熱い気持ちを表す歌詞なんだぜ、と飛影は言った。
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歌詞はすべて私の思い付きです。
ただ、社内恋愛、 ライブハウスと言う組み合わせは良いなと
思ったので、書いてみました。
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