ある夏の日曜日、朝からどんより曇って、断続的に雨が降っていた。
午後は豪雨になる予報の日、
それでも、私は出かけたのです。
デイトというほどではないけれど、お茶を飲む約束があったからです。
神戸の繁華街三宮の喫茶店に入って、一時間も経った頃、
突然、店内放送。
「雨で、交通機関が止まるかもしれないので、閉店致します。」
「えーっ!!」
当時はありふれた名曲喫茶。
そこは、半日でも過ごせるはずの場所だったので、お客はみんなブーイング。
ぞろぞろと外に出て、びっくり。
すでに、歩道にまで水が流れていて、バスも止っている。
車は水しぶきを蹴立てて走っています。
タクシーが奪い合いであるのは、一目瞭然。
「送っていくよ」と、その人はけなげにも申し出てくれた。
三ノ宮から北野町方面に上り、諏訪山の裾を通って西に向かう道は単純で、
ふだんなら歩いても40分くらい。
しかし、ゆるやか上り道はすでにかなりの勢いで水が流れており、
みるみる水かさが増しています。
消防団や自治会の人たちが出ていて懸命に道にひもを張り、
通行人を誘導しています。
当時のどぶや下水は、ちゃんとふたが閉まらない箇所などがあったので、
人が落ちないように対策を講じているのです。
水はすねをひたひたと洗い、間もなく膝上に上ってきそうな勢い。
スカートをたくし上げ、でも、靴は脱がず(けがをするといけないので)・・
さずがに緊張して一歩一歩進んでいきます。
友達以上恋人未満の人であっても、「連れ」のありがたさは身に染みました。
なんと、ほっそりした彼が、私の二の腕をずっとつかみ続けていたような。おかげで、
滑ったり転んだりもせず、
ようやく自分の家に通じる交差点に来たとき、
傘を差し、犬を連れた父の姿が見えた。
避難命令が出て、家族は小学校に避難していて、父は私を待っていてくれたのです。
振り返ると、彼は、「では、これで、失礼します」
とそそくさと、帰って行くところ。
大丈夫かなあと思ったけれど、父の後について小学校の講堂へ歩いたのです。
その時の、(自分だけ)ほっとした気持ちは忘れることができません。
ゲリラ豪雨、本当に怖いのです。