ノアの小窓から

日々の思いを祈りとともに語りたい

「日の名残り」カズオ・イシグロ

2017年10月23日 | 



      アマゾンで電子書籍になっていて、クリック一つで買える手軽さに食指が動いた。
      イギリス在住の日本人(国籍は知らないですが)が、英語で書いた小説なんて
      私には、単純に「すごい!」と思う。

      30年ほど前、イギリス行の飛行機で隣り合わせた日本人の女の子(17.8歳?)が
      分厚いペーパーバックを読んでいて、
      「英語の方が、日本語より少し楽なんです」とこちらを驚かせた。
      たぶん、親の仕事の関係で、幼い時からイギリスに住んでいたのだと思う。
      それにしても・・・です。

      読むより書くのは、より大変だし、小説のような「芸術性の高い」文は、
      日本語だって「スキル」がいる。

       ★★★★★


      イギリス人男性の一人称で語られる話には、とくに、読者を引っ張っていこうとするような
      作為的なストーリーはない。
      語り手であり、主人公である男は、
      イギリス名門貴族の屋敷で、父親の代から執事として仕えていたという「稀有な職業人」である。
      いま、人気のことばを使えば、「プロフェッショナル」です。
      プロフェッショナルと言われるほどの人は、彼(彼女)でなければ知り得ない「世界」をもっている。
      それは、たんなる知識や情報とも異なる、生きざまとしか言いようのない世界でしょう。

      一流の体操選手の映像を、どれほどたくさんみても、その演技が作られる過程をテキストで学んでも、
      けっして、彼の真似ができないように、それに生涯をささげてきた画家や役者から、どれほど
      絵を習ったり、演技をつけてもらっても、同じものは作れないように、
      「時間」に、いのちを練り込んで得た成果が、「プロフェッショナル」かなと思うのです。


      名門のお屋敷で、国でも有力な大貴族に仕え、おおぜいの召使いの上に立って
      完全な執事を目指してきたスチーブンス。
      彼が、主人から休暇をもらって、
      むかし、同じ屋敷で女中頭だった女性に会いに行くというだけのストーリーです。

      彼女への淡い恋心や、かつて彼が仕えたダーリントン卿や
      客として訪問してきた貴族や政治家の思い出が織り込まれていますが、それらは、
      ある意味、第二次大戦をはさんだ時代の、「特ダネ」だと言えますが、

      この小説の世界は、歴史を再現することでもなければ、
      この執事が生きた特殊な世界を語ることでもないようです。
      ゆったりとたゆたう大海原の波立ちの奥にある、熟成され、きらめく、ふしぎな空間とでも
      呼ぶような、超一流の執事の「品格」が描かれているのです。

      このような執事は、この時代の、この家からしか生まれなかったでしょうという意味で、
      彼は、歴史の貴重なあかしとして、切り取られています。

      ノーベル賞に選ばれたのは、やはり、それが非常に稀有な香りをはなっていたからかもしれないと、
      思わず、うなってしまいました。

      
     
 
      

      、


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