「まあちゃん。こんな俳句書いたんだよ」
そういって、その人は、薄い印刷物を開いて見せた。
いくつかの俳句が出ていた。
俳号があって、ひとり5句くらいあっただろうか。
農協婦人部では、そのような活動もしているらしい。
東京からたまに顔を見せる「ヨメ」に、
その人は、自分の家業以外の活動を見せてくれたのです。
何気なく、読んだ、俳句の中のひとつが目が留まりました。
風呂上り 老いたる背中に 扇風機
お題は扇風機でしたから、ぜんぶ扇風機とついていたのですが、この句だけが
くっきりと脳裏に刻まれました。
田舎の家は、広くて、のどかで、土間をはさんだ台所の隅に風呂があって、
その人は、バスタオルを巻いたくらいで出てきて、囲炉裏のある居間で、
扇風機に当たっていました。
その光景がしぜんに重なったのです。
その人はまだ60代半ばでした。
いまの人なら絶対に「老いたる背中」なんて自分から言わないでしょうね。
女学校の同窓会に行くために、長い時間、あれこれと着物を選んで
「やっぱり服をつくっておけばよかった」とため息をつくような人だったから。
気にしていたんだよね。わかる!!