東京新聞筆洗より・2018年8月30日
世界には日本語に翻訳しにくい言葉がある。カリブ・スペイン語の「コティスエルト」。この一言で、日本語にすれば「シャツの裾を絶対ズボンの中に入れようとしない男の人」という意味になるそうだ。『翻訳できない世界のことば』(創元社)で見つけた▼だらしないなどの悪い意味ではないらしい。「人生も着るものもリラックス」した人。そんな前向きなニュアンスがこの短い言葉には含まれているそうだ▼シャツの裾を入れるべきかどうかをめぐって、前橋市内の中学校の先生がおもしろい実験を行ったそうだ。体操着の裾を入れた生徒と入れない生徒に運動してもらい、その後の体温を調べたところ、裾を入れない生徒の体温の方が四度低かった。そんなに違うものなのか▼実験結果を受け、この先生は夏の運動時などは体操着の裾を出した方が良いと指摘している。猛暑だったこの夏を思えば、もっともな話で熱中症対策に一役買うだろう▼かつてシャツの裾はズボンに入れなさいと教えられた世代だが、一九九〇年代に入れない派が次第に拡大していった印象がある。最近はむしろ入れる方が少数派で見かけるのはゴルフ場ぐらいか▼ちまたの傾向がそうであるならば、体操着の裾も柔軟に対応した方が子どもたちの夏の運動をより楽にするだろう。大切なのは行儀よりも身体である。「コティスエルト」は悪くない。
世界には日本語に翻訳しにくい言葉がある。カリブ・スペイン語の「コティスエルト」。この一言で、日本語にすれば「シャツの裾を絶対ズボンの中に入れようとしない男の人」という意味になるそうだ。『翻訳できない世界のことば』(創元社)で見つけた▼だらしないなどの悪い意味ではないらしい。「人生も着るものもリラックス」した人。そんな前向きなニュアンスがこの短い言葉には含まれているそうだ▼シャツの裾を入れるべきかどうかをめぐって、前橋市内の中学校の先生がおもしろい実験を行ったそうだ。体操着の裾を入れた生徒と入れない生徒に運動してもらい、その後の体温を調べたところ、裾を入れない生徒の体温の方が四度低かった。そんなに違うものなのか▼実験結果を受け、この先生は夏の運動時などは体操着の裾を出した方が良いと指摘している。猛暑だったこの夏を思えば、もっともな話で熱中症対策に一役買うだろう▼かつてシャツの裾はズボンに入れなさいと教えられた世代だが、一九九〇年代に入れない派が次第に拡大していった印象がある。最近はむしろ入れる方が少数派で見かけるのはゴルフ場ぐらいか▼ちまたの傾向がそうであるならば、体操着の裾も柔軟に対応した方が子どもたちの夏の運動をより楽にするだろう。大切なのは行儀よりも身体である。「コティスエルト」は悪くない。