書く仕事

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「ニシノユキヒコの恋と冒険」川上弘美

2006年12月09日 17時53分56秒 | 読書
川上弘美さんの小説は始めてです.
だから,タイトルを見て,コメディタッチの探偵ものかロードムービーみたいな物語を想像していました.
でも,全然違いました.
「ニシノユキヒコ」というハンサムでやさしくて不思議な雰囲気をもった男性が主人公です.
彼が中学生,大学生,社会人,中年,初老...様々な年代で女性達と「恋愛」をします.
「ニシノユキヒコ」氏は,とても女性にモテるのだけれど,女性に対して自信がなさげで,一人の女性に一生を捧げることに強い戸惑いを感じています.
その戸惑いのせいで,女性の方もいまひとつ彼に夢中になれず,結局,別れることになってしまう.
やがて,彼の女性に対する自信のなさは,子供の頃に亡くなった,年の離れたお姉さんとの悲しい思い出にあることが明らかになります.
ネタばれのような書き方ですが,ご心配いりませんよ.
この本の魅力は,彼自身の優柔不断な性格をフィルターにして,彼と付き合った多くの女性達の魅力的でたくましい生きざまの方にあるのです.
そういう意味では主人公はニシノユキヒコではなくて,彼とつきあった,様々なすてきな女性たちなのです.
彼女達はそれぞれ人生の目的か,少なくとも確固とした居場所を持ち,幸せな一生を送っている.
ある話で付き合った女性が,別の話では元彼女として出てくるんだけど,その登場の仕方というか,雰囲気がとても良いんですよ.ここはネタばれ防止のため伏せますけどね.この辺は川上さん,うまいなあと感心.
ニシノ氏は彼女達の活き活きした人生の中で,ちょっと寄り道をさせ,つかの間の恋を経験させてくれた香辛料みたいなもののような気がするのです.
どの女性も,きっと充実した一生を送り,死ぬときは好きな人か家族に見取られて穏やかに一生を終えそうな予感がします.
それに引き換え,ニシノ氏は...
っていう感じなんですね.
これではいくらモテても,何にもなりませんね.
実際こんな男性がいるわけはないのですが,それを物語の中とは言え登場させるということは,川上さん自身の経験というか,男性観を投影しているのかもしれません.
「おやすみ」の「マナミ」さんとか,「夏の終りの王国」の「例」さんとかそうじゃないかな?
「嫌われ松子」のような強烈なインパクトはないですが,まあ,恋愛小説初心者の私としては面白かったなあということで...
コメント (4)
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