「悪女の涙 福田和子の逃亡15年」 佐木 隆三 著 新潮社 1999.8刊 図書館の本
裏表紙には ”松山で同僚ホステスを殺害後、顔を整形し偽名を駆使して逃亡15年。時効寸前に福田和子は福井のオデン屋で逮捕された。そして始まった裁判。かっての夫が、愛人が、被害者の遺族が、次々と証言台に立ち、遠い記憶がいま鮮明に蘇る。この「嘘と虚飾で生きてきたしたたかな女は」結審の後、面会室の仕切り越しに法廷とはまったく異なる素顔を見せ心情を語った・・・。”
この本は和子の裁判を中心に彼女の生い立ち、事件、逃亡生活を綿密な取材で裁判記録を中心に構成したドキュメントである。結末からいうと和子は捕らえられ裁判にかけられ、無期懲役となり服役中に脳梗塞の発作を起こし病院に運ばれたが57歳で病死した。
この本は亡くなる前に読んだ本で、新聞で亡くなったことを知り、これでよかったと想った。
殺人を犯して15年も逃げ回ったのは、過去の忌まわしい事件もあり「警察に捕まって二度と刑務所に入りたくなかった」と供述する。一審裁判中に刑務所で著者との面会にも応じ、「逮捕されてよかった、裁判を受けてよかった」と素直な心境になった。著者は過去の経緯を酌量減刑しない無期懲役なら、裁判の「正義」を信じることができないと、和子を庇うのである。
控訴審において一審無期懲役の過ちを正すべきとして終章としている。
過去の忌まわしい事件とは、和子は1歳の時両親が離婚し祖父母の手で育てられる不幸な生い立ちだった。高校に入り3年生のとき中退して家出、17歳で2歳年上のタイル工見習いの男と高松で同棲した。18歳になった和子は生活に行き詰まり、この男と強盗事件を起こし、警察から少年鑑別所へ、間のなく松山刑務所の未決囚の拘置監へ収容される。多数の囚人を収容する松山刑務所の一角にある拘置監はL字型の2階建て、1階の行き詰まりに2室の女子雑居房があった。女囚3人の房にいた和子はここで太股に刺青をした暴力団組長に強姦された。
看守が女囚に誘惑され性交し、暴力団員に弱みを握られ脅され、女子房の鍵を開ける乱脈さだった。暴力団の男が覚せい剤違反で収容されている女と性交するなど檻の中、狼の群れの中に18歳の和子が放り込まれた。
この強姦事件がうやむやになったのは、和子が騙されたからだという。検事二人が来て調書を取り、被害届けを出す、それから何日かして弁護士と看守が来て「あなたの裁判にマイナスになるから余計なことを話してはいけない」と、いわれるままに、弁護士を信頼していたから署名・捺印した。後で立件して取り調べていたのになぜ取り下げたかと検事に叱られる。
著者はこの国家機関の不祥事を詳細にレポートし、彼女の精神的外傷となり、彼女の性格を自己中心的に歪めたと断じている。この事件は二人の副看守長の自殺とか、国会の法務委員会でも取り上げられるが、強姦事件は親告罪のため「告訴がない事実については公にできない」と、政府委員は答弁をする。この忌まわしい事件も詳述されている。
付録)・松山ホステス殺害逃亡事件(判決要旨) ・看守が手引き ・ある書評
・「東電OL殺人事件 佐野眞一 著 新潮社 2000・5月刊 もこの時期読んで、読み応えがあった。この事件の被告ゴビンダも冤罪だと、著者は新聞で最近もコメントしていた。
この時期、神戸少年A事件、和歌山ヒ素入りカレー事件、新潟少女監禁事件、埼玉保険金殺人事件とつづいたが、著者は東電事件が一番アドレナリンが分泌され、内発的衝動に触発され書いたという大著であった。
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