カナダのデ・ハビランド社製DHC-8-103型機、通称ダッシュエイトが、双発のターボプロップエンジンを静かに緩めた。那覇を飛び立って約30分、東シナ海に浮かぶ島に着陸した瞬間だ。
ダッシュエイトは、機体上部に両翼を広げるために視界は良好だ。最高速度も時速500キロと中々の瞬発力を見せる。広いとは言えない室内だが、快適な空の旅であった。
扉を兼ねたタラップが降ろされ、ボクらはその小さな島への第一歩を踏みしめた。季節は早春、東京ではまだ肌寒い頃、この小さな島では半袖のTシャツで十分に過ごせる。
その島はこれまでに何度も訪れている。今回もまた「おかえり」とさりげなく迎え入れてくれた。
エメラルドグリーンの珊瑚礁は、今日も波静かに美しい色を見せてくれる。空はもう夏空だ。沖縄らしいちぎれた無数の雲が風に流されている。
湿気を含んだ潮風を胸いっぱい吸い込んだら気持ちが落ち着いてきた。疲れていたのだ。身体も気持ちも。
ボクはこの風に癒されている。何も頭に過ぎるものは無い。ただ癒されているだけだ。
海辺に犬を連れて歩く初老の男性が見える。いつもの散歩なのだろう。いつもこんなにうまい空気を吸えるなんて羨ましいと思ってしまった。
いくらかダッシュエイトの揺れがまだ感覚として残っている感じがするが、島で借りたレンタカーを走らせた。
急げば30分あれば周りきってしまう程の小さい島だ。途中、小高い丘の中腹には陶器工房と、それを兼ねた喫茶店がある。まだ冷房を入れるには早いが室内はかなり温度が高い。
それでもボクはホットコーヒーを頼んだ。店主が焼いたコーヒーカップに注いでもらう。一口飲むたびにその苦味が口から脳裏まで広がるように感じた。
ここにいる間は何も考えずにいよう。見るもの、感じるものを素直に受け止めよう。ここはボクのオアシスなんだ。
夢を見ているような感覚だ。でもそれでいい。東京に帰ったら、ボクはまた雑踏に紛れる。それまで心をこの島の風で乾かせていよう。心の旅は小さな飛行機から始まったばかりだ。夢飛行・・・