昨年のこの時期に永瀬王座から最後のタイトルを奪取し前代未聞の8冠となった藤井聡太名人・竜王が今期に入り不調に喘いでいました。叡王戦で伊藤匠七段に初めてタイトル戦で敗れていた頃のことです。生涯勝率が8割を超えていた藤井8冠でしたが、今季に入り一時年度勝率が5割にまで落ち込んでいた時期がありました。生涯勝率が8割を超えている藤井名人・竜王がここまで勝率を落とすのは異常でしょう。
今年の初め頃から終盤での表情に苦しさを見せるようになっていた藤井名人は朝日杯の決勝で永瀬九段に敗れ、NHK杯の決勝でも佐々木勇気八段に敗れていました。防衛はしたものの棋王戦の第1局で伊藤匠7段に入玉を許して引き分けた頃から、何か妙な違和感を感じていたのです。8冠に加え全棋戦も征していた藤井聡太名人は昨年末に銀河戦決勝でも丸山九段に敗れているのです。勝率もさることながら棋戦の決勝で立て続けに負けているというのも異常でしょう。
おそらく8冠のプレッシャーではないと思っています。8冠制覇によるタイトな対局スケジュールとなり、身体というより脳が疲れ切っているような感じでした。元々脳のスタミナは常人を遥かに凌ぐものがあり、2時間を超える大長考や終盤の読みに定評があった人でしたが、8冠という誰も経験した事の無い領域に入ってしまったことで、脳が疲れ切っていても不思議はないのです。あの羽生善治九段でさえ7冠までの経験しかないのですから。
そんな藤井名人が5月23日の王将戦の就位式の副賞にエアロバイクをリクエストしていたことが話題になっていたことがありました。「運動することがこれまで少なかったので、機会をつくった方がいいと考えていて、『ランニングマシーン』か『エアロバイク』か少し迷っていたが、谷川浩司十七世名人がエアロバイクを使われていた話を聞いたことがあったので、それを参考にして、エアロバイクに最終的に決めた」というのですが、対局スケージュールがタイトになる中で運動する機会が減り、脳が不活性化していたのではないでしょうか?
身体を動かすことで血流が良くなり、脳への血流も増え、頭がスッキリするというのは私にも経験があります。ここでいう『エアロバイク』はフィットネスバイクのことです。子供の頃、詰め将棋のことを考えながら歩いていて、路肩の排水溝に落ちたという逸話もある藤井名人ですが、室内でエアロバイクなら身体を動かしながら詰め将棋を解いても転んで怪我をする心配もありません。