
ストラーデビアンケ2025は最初にピドコックが仕掛けて、ポガチャルが追うという展開でバトルが始まりました。ただ、残り50㎞地点で先行して下っていたポガチャルがリアタイヤを滑らせクラッシュ。大きく身体を吹き飛ばされ、何度かバウンドしながら路肩を超えて叢へ飛び込んでいったのです。

ストラーデビアンケの展望でポガチャルは「神に愛されている」と書こうとしたのですが、思いとどまったという経緯がありました。ここまで大きな落車や機材トラブルもなく91勝を挙げているポガチャル。昨年のこのレースも81㎞の独走勝利を決めて、ツール・ド・フランスで総合優勝を3度、ジロ・デ・イタリアを1度、昨年は世界選手権も征しトリプルクラウンを達成し、クラシックレースのモニュメントも残すのはミラノ~サンレモとパリ~ルーベだけとなっているのですから。

ただ、神がいるとすれば、ここでポガチャルは神の試練を受けることになりました。下りで先頭を走っていて、オーバースピードでコーナーへ突っ込むというポガチャルらしくない大きなミスが出てしまったのです。叢で立ち上がったポガチャルはあわててバイクに飛び乗りますが、この辺りはポガチャルにも焦りの色が観て取れました。結局、バイクはダメージを受けていてバイク交換せざるを得なかったからでした。アドレナリン全開で冷静さを欠いていたのかもしれません。

ただ、走り始めたポガチャルは全開で先を行くピドコックを追います。ピドコックが脚を緩めて待ったこともありますが、4㎞ほどでピドコックに追いつくことが出来ました。ただ、左肩と左肘や左ひざのあたりから出血があり、右側は草で擦れた緑色の染みで汚れていました。

走りを見る限り骨に異常は無さそうでしたが、正直、この傷だらけの状態でピドコックに勝てるのかと思ってしまいました。ただ、2度目の周回コースの同じ下りを無事にクリアするとチームカーに向かって右手を高々と突き上げたポガチャルを見て、今日も行けると確信しました。
おそらくチームカーから無線で注意の喚起があったのだと思いますが、それにガッツポーズで応えるポガチャルのメンタルに感心仕切りでした。残り18.6㎞のグラベル区間の登りでアタックするとダンシングで懸命に食い下がるピドコックをあっという間に引き離して行ったのです。
過去にもツール・ド・フランス連覇が途絶えていた時期にリエージュ・バストーニュ・リエージュの落車で手首を骨折していたことがありましたが、私が知るポガチャルの落車はこの2度だけなのです。ある意味神が与えた試練なのかもしれません。最初の落車の時はツールで大きく遅れたステージがあり、ヴィンゲゴーに連覇を許してしまいますが、ポガチャルの開花ともいえる時期はここからだったのです。それが、昨シーズンのトリプルクラウンに繋がったと私は感じているからです。
今回のこの落車で2週間後のミラノ~サンレモがどうなるのか混沌として来たと考える人もいるでしょう。個人的には大きな怪我ではなさそうなので、むしろ、ミラノ~サンレモに対するモチベーションが上がるのではと推測しています。勿論、レースはモチベーションだけで勝てるほど甘いものではないことは良く分かっています。ミラノ~サンレモまでは時間がないので、コンディション不良が影響する可能性もあります。ただ、仮にミラノ~サンレモで勝てなかったとしても、パリ~ルーベに出ると言いかねないのがポガチャルという選手だと思っているのです。

大きなクラッシュを乗り越えてストラーデビアンケ3勝目でファビアン・カンチェラーラに並び、アルカンシェルを着ての初めての優勝者になったポガチャルは異次元の存在になりつつあります。単に神に愛された存在ではなかったことを証明することになった今回のポガチャルは、むしろ神に抗わないことを心掛けているのかもしれません。あくまでも自分のミスの結果と責任を転嫁せず、割り切って次のミラノ~サンレモにどう臨むかを考えているはずです。
自分の予想以上にピドコックを引き離せなかった焦りがポガチャルにはあったようには見えませんでした。昨年は圧倒的に独走勝利が多かっただけに、ここまで接戦になることは予想外でも不思議ではありませんが、ポガチャルの脚力ならこのままゴール前まで持ち込んでも最後の登りで十分に勝てると冷静に考えていたはずです。にもかかわらず舗装路の下りでの落車なので、どこかエアポケットに入ってしまったのかもしれません。
気になったのは、落車後ピドコックに追いついたポガチャルがグローブを脱いでいたことです。UAEツアーではノーグラブでしたが、流石にグラベル区間が多いということでこの日はグローブを着用していました。ピドコックやファンデルプールはグラベルでもノーグラブのことが多いのです。おそらく、タイヤや路面の微妙な変化を少しでも敏感に感じ取りたいという意図があるのだと考えています。グローブをしていたので、微妙な路面の変化を感じ損ねたことは十分に考えられます。
ロードバイクを始めた頃からグローブは手を護るための必需品と教わって来たのですが、超一流のプロの世界では布一枚でも邪魔になることがあるのでしょう。ポガチャルのことですから、グローブを着用してスタートしたことを悔いているかもしれません。決して不運だったとは考えていないはずです。
それにしてもあれだけ大きな落車がありながらも勝ってしまうポガチャルはまた新たな伝説をひとつ作ってしまったようです。UAEはチームとしてもデルトロとウェレンスが良い仕事をしていたことも重要でしょう。特にウェレンスは終盤までは追走集団の抑え役として働きながら、ポガチャルが単独で抜け出した後は表彰台狙いでアタックし、3位表彰台をゲットしています。

個人的には4位に入ったベン・ヒーリーと8位に入ったバルグレンのEF勢の健闘に感激しました。自分と同じメーカーのバイクがストラーデビアンケでトップ10に二台というのは久々だからです。リクイガス時代のペーター・サガンでも勝てなかったレースなので、結構、cannondaleライダーとしては思い入れのあるレースだと思っています。第4世代へと進化したSupersix EVOは昨年のツールで山岳賞も獲得しているので、ストラーデビアンケでのこの結果はグラベルでの優位性の証明になるかもしれません。
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