今年のツール・ド・フランスも残すステージは3つ。そのひとつでクイーンステージになるレースが今夜始まります。2000mを越える超級を2つ超えた後に標高2024mのイゾラ2000を登る獲得標高4400mの超難コースです。特に2番目に登場する超級山岳シム・ド・ラ・ボネは標高2802mでフランスでは最も標高の高い位置にある舗装道路を選手たちは駆け上らなければならないのです。
”cime”とはフランス語で頂上を意味する言葉ですが、この頂上を誰が征することになるのでしょうか?クイーンステージの超級山岳で40Pが与えられる山頂はマイヨ・アポア・ルージュを狙う選手たちが取りに来ることも考えられます。総合優勝争いでは最大酸素摂取量の高いヴィンゲゴー向きなのですが、4月の落車で肺気腫を患った肺機能がどこまで回復しているのかが気がかりです。
逆に酸素の薄い高地が苦手とされているポガチャルが、この2800mを越える山を無事に乗り越えられるのか、まさに山場となるステージです。3分11秒というタイム差があるポガチャルは、おそらく無理に動かないと思います。ここでヴィスマは必ず仕掛けてくるはずですが、セップ・クスを欠くヴィスマがどこまで厳しい攻めが出来るのかは分かりません。
UAEはチームとしてこのステージは徹底的に守りに出るプランを立てていると思います。この標高なら流石のポガチャルも単独で動くことはしないはずです。とにかくこのボネを無事に登り・下ることが最優先してくると思います。この山頂は逃げに譲っても何の問題もないからです。ポガチャルの目標はあくまでもマイヨジョーヌでマイヨ・アポアは結果的に付随しているに過ぎないのですから。
ただ、逃げや山岳ポイントを取りたい選手とは別に総合優勝争いは起こります。ヴィスマはたとえ逃げが形成されていても、ポガチャルとのタイム差は詰めなければならないので、攻め処はここと、最終日の個人TTしか残されていないのです。翌日の第20ステージは獲得標高は4800mとこの日より高いのですが、ひとつひとつの峠の標高は1000m級で。こちらはポガチャル向きだからです。
ツール2週目はヴィンゲゴーの回復に驚かされましたが、3週目を迎えエヴェネプールにもおいていかれるステージもあり、昨年とは逆にバッドデイがヴィンゲゴーの方に来ているのではないかと思われます。ここ2年はマイジョーヌを着るヴィンゲゴーをポガチャルが追うという構図でしたが、今年は逆です。「マイヨジョーヌ・マジック」という言葉もあるように、マイヨジョーヌは来ている選手に自信と力を与えてくれる存在なのは、ツールを長く見続けていると良く分かります。昨年の個人TTでのヴィンゲゴーの走りや、今年のプラトー・ド・ベイユでのポガチャルの走りはまさにこの「マイヨジョーヌ・マジック」なのだと感じてしまいます。
ただサイクル・ロードレースに100%ということはありません。本人の能力にかかわらず機材トラブルや落車に巻き込まれる等々、自分の力だけではどうしようもない事が起こりうるスポーツなのです。だからこそ、チーム戦術やアシスト達の働きがより重要になるのです。リスクを避けていると勝利は遠のきますし、リスクを背負わなければつかみ取れない勝利もあります。UAEとポガチャルにとってはタイム差があるので、リスクは避けるはずですが、ヴィスマはリスクを負ってでも攻めなければならない局面なのです。
おそらくこのシム・ド・ラ・ボネの頂上でマイヨジョーヌの行方が決定的なものになるはずです。今のポガチャルが大きく遅れるとすればここしかないからです。この頂上をヴィンゲゴーと同タイムで登れればマイヨジョーヌはポガチャルで確定するはずです。この登りでヴィスマがどんな作戦で来るのかが楽しみです。
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