標高2,802mのボネット峠を越え、1級山岳イゾラ2000にフィニッシュするツール第19ステージは獲得標高差4,400mで今年のクイーンステージと言われていました。ここから最終日までの3日間、マイヨジョーヌを賭けた争いが続いていくと思われていたのですが、終わってみればこの日も怪物ポガチャル劇場でした。
ミゲル・インドゥラインが総合優勝した1993年以来の登場なる、1級山岳イゾラ2000(距離16.1km/平均7.1%)の頂上を目指すプロトンから、前日勝者ヴィクトル・カンペナールツが飛び出し、逃げ形成のための動きが始ままります。21名による逃げ集団が先行し、その中にマイヨヴェールを争うビニヤム・ギルマイとヤスペル・フィリプセンは入らず、ブライアン・コカールが21.1km地点の中間スプリントをトップ通過。
一つ目の超級山岳ヴァルス峠(距離18.8km/平均5.7%/標高)に入り、UAEチームエミレーツが牽引するメイン集団からリチャル・カラパスが飛び出して先頭に合流。遅れてサイモン・イェーツも逃げに加わり、頂上をカラパスが先頭通過する頃に逃げは9名まで絞られます。
前日は登りの勾配が足りずに山岳ポイントを稼げなかったカラパスでしたが、この日は水を得た魚のようにスイスイとポイントを積み重ねて行きます。『フランスで最も高い舗装路』が敷かれた超級山岳シーム・ド・ラ・ボネット(距離22.9km/平均6.9%)に突入。森林限界を越え荒涼とした景色の中、標高2,802mの頂上も争うことなくカラパスがトップ通過。通常の超級山岳の倍である40ポイントをゲットしたカラパスは、ポガチャルを抜きバーチャルで山岳賞ランキング首位に立った瞬間でした。Supersix EVOを駆るカラパスがマイヨ・アポア・ルージュ。cannondale好きにはたまらない瞬間でした。
一方のメイン集団ではニルス・ポリッツがボネット峠でペースを作り、ヴィンゲゴーのアシスト陣を振り落としていきます。そのためプロトンは20名程度まで絞られてしまいます。昨年までは高高度に弱いと言われていたポガチャルでしたが、標高2,802mのボネットでこの走りです。ポガチャルの修正力の高さの証明でしょう。
1級山岳イゾラ2000(距離16.1km/平均7.1%)の麓に到達した逃げ集団からは、急勾配の登り口でカルロス・ロドリゲスが遅れ、またジャイ・ヒンドレーも脱落。そんなサバイバルな展開のなか残り13.5km地点で今年のパリ~ニースの覇者マッテオ・ヨルゲンソンが仕掛け、追いかけるカラパスの背後にケルデルマンがつき、ヴィスマは数的優位な状況を作り出します。
前待ち作戦を決行したヴィスマでしたが、結局、アダム・イエーツやジョアン・アルメイダを残すポガチャルに対し、ヴィンゲゴーは一人になってしまうのです。やはり、ヴィスマはセップ・クスを新型コロナ感染で欠いたことが大きな痛手となってしまったようです。ただ、UAEもアユソを大会途中の新型コロナ感染で欠いていて、このチーム力なのです。2023年の大型補強の成果が確実に実りつつあるようです。
アダムが仕事を終え、アルメイダの牽引を待たずにポガチャルがアタック!!標高2,800mを超える峠を越えて来たとは思えない切れ味でイゾラを駆け上がるポガチャル。頂上まで約10km地点で仕掛けたマイヨジョーヌに対し、エヴェネプールとヴィンゲゴーが食らいつくものの、ダンシングを挟んだポガチャルは更に登坂スピードを増し、一気に2人を突き放して行きます。
先頭ではヨルゲンソンが残り5km地点を通過。前待ちするもヴィンゲゴーは合流できず。代りに背後に迫るのがポガチャルだったのです。カラパスをパスし、サイモン・イエーツもパスしたポガチャルは残り2kmでヨルゲンソンを捉えると腰を上げてあっという間にかわして行きます。単独先頭に立ったポガチャルは最後までスピードを落とすことなく、悠々とフィニッシュラインに到達し、T字ポーズでゴールラインを通過。
ジロでもステージ6勝を挙げていたポガチャルは今ツールでも4勝を挙げ、ヴィンゲゴーとエヴェプールに1分41秒もの差を付けてしまいます。残り2ステージで5分3秒というタイム差は大きいものの、翌日も山岳ステージ、最終日に個人TTを残しているので、バッドデイがあれば、あっという間に差が詰まる可能性もあるのです。ポガチャルに有利な状況があるとすれば最大のライバルのヴィンゲゴーが怪我明けで、レムコはツール初出場なことでしょうか。最後の頂上こそポガチャルに譲ったもののボネットの40ポイントがものをいい、カラパスが山岳賞ジャージを手にします。Supersix EVOにマイヨ・アポア・ルージュは良く似合います。ただ、このジャージを守るためには明日の走りがさらに重要になるのですが。
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