前回の約束通り、初等数学を越える話をします。
まず基礎知識として代数系にどんなものがあるのかを述べておきます。これはウィキペディアに表でまとめてありますからよくわかります。ひとつの演算に関する代数系の代表的なものは、以下のものです。
半群(semi-group): 結合法則
モノイド(monoid): さらに単位元を持つ
群(group): さらに任意の元が逆元を持つ
アーベル群(可換群): a*b=b*a という可換則が成り立つ
ふたつの演算が定義された代数系では環と体が代表的です。どちらも加法についてはアーベル群ですが、乗法について
環: 半群 例は、整数全体
体: 群 例は、有理数全体
「負×負=負」が成立するモデルは難しいと言いましたが、単に「負×負=正」が成立しないモデルなら色々できそうです。例えば3次元ベクトルの集合はベクトル和に関して群となりますが、積として外積(ベクトル積)*1)を導入すればどうでしょうか。3次元ベクトルの外積では単位元も存在しませんから乗法に関して半群になり、ベクトル和を加法として環になります。そして「負×負=正」は成り立ちません。
いうもまでもなく3次元ベクトルは、速度、力、電界、磁界など多くの物理量に対応するものであり、ベクトル和もベクトル積も物理的な意味に対応しています。そしてベクトル和とベクトル積についても"量とは-1-"で述べた次の原則が成立していることは、多くの例で確認できます。
1.加法は同じ種類の量同士でしかできない
2.乗法の結果は異なる種類の量になる
えっ、そもそも3次元ベクトルが正負の2つに分けられるのかって? それには加法群における正負というものを定義しなくてはなりません。加法群の元(単位元は除く)を正と負の2つの集合に分けて次のことが成立するとすれば良いでしょう。aの逆元を-aと表します。
・a∈正 ならば -a∈負。a∈負 ならば -a∈正。
・a,b∈正 ならば a+b∈正。a,b∈負 ならば a+b∈負。
加法群としての3次元ベクトル全体の集合が、このような2つの集合正と負に分けられるかと言えば・・・・・、分けられます。例えばx座標が正のベクトルを正、x座標が負のベクトルを負とすれば、上記の条件を満たします。もちろんy座標やZ座標で分けてもよろしい。さらに言えば、原点を通る平面でベクトル空間を2つに分ければ、片方が正で他方が負と考えることができます。
えっ、3次元ベクトルの集合には順序がないからダメ? 注文が多いなあ(^_^) そこまで制限されるとちと難しいですねえ。一応、次のような提案はありますが*2)、この代数系の現実的モデルは思いつけません。
(+1)×(+1) = (+1)
(-1)×(+1) = (+1)
(+1)×(-1) = (-1)
(-1)×(-1) = (-1)
-- 続く --
---------------------
*1) 高校数学では外積と言えば3次元ベクトルの外積のみを指すが、本来はn次元ベクトルでも定義できて、結果はn次テンソルとなる。すなわち、2つのn次元ベクトル、
a=ai (i=1~n)
b=bi (i=1~n)
に対して、
a×b=[ai*bj - aj*bi]
という成分のテンソルが外積である。この成分はn2個あるが、対角成分はゼロであり、対角線を挟んで正と負の対となる成分があるので、独立な成分数は、(1/2)n(n-1) となる。3次元ベクトルでは独立な成分数は3個となり、やはり3次元ベクトルと考えることができるのである。2次元ベクトルでは独立な成分数は1個でありスカラーと考えることができるが、これは両ベクトルで作る平行四辺形の面積値(負値にもなるが)に等しい。
ウィキペディア[外積]
ウィキペディア[クロス積]
*2) アルベルト A.マルティネス『負の数学』青土社(2006/12) p177
まず基礎知識として代数系にどんなものがあるのかを述べておきます。これはウィキペディアに表でまとめてありますからよくわかります。ひとつの演算に関する代数系の代表的なものは、以下のものです。
半群(semi-group): 結合法則
モノイド(monoid): さらに単位元を持つ
群(group): さらに任意の元が逆元を持つ
アーベル群(可換群): a*b=b*a という可換則が成り立つ
ふたつの演算が定義された代数系では環と体が代表的です。どちらも加法についてはアーベル群ですが、乗法について
環: 半群 例は、整数全体
体: 群 例は、有理数全体
「負×負=負」が成立するモデルは難しいと言いましたが、単に「負×負=正」が成立しないモデルなら色々できそうです。例えば3次元ベクトルの集合はベクトル和に関して群となりますが、積として外積(ベクトル積)*1)を導入すればどうでしょうか。3次元ベクトルの外積では単位元も存在しませんから乗法に関して半群になり、ベクトル和を加法として環になります。そして「負×負=正」は成り立ちません。
いうもまでもなく3次元ベクトルは、速度、力、電界、磁界など多くの物理量に対応するものであり、ベクトル和もベクトル積も物理的な意味に対応しています。そしてベクトル和とベクトル積についても"量とは-1-"で述べた次の原則が成立していることは、多くの例で確認できます。
1.加法は同じ種類の量同士でしかできない
2.乗法の結果は異なる種類の量になる
えっ、そもそも3次元ベクトルが正負の2つに分けられるのかって? それには加法群における正負というものを定義しなくてはなりません。加法群の元(単位元は除く)を正と負の2つの集合に分けて次のことが成立するとすれば良いでしょう。aの逆元を-aと表します。
・a∈正 ならば -a∈負。a∈負 ならば -a∈正。
・a,b∈正 ならば a+b∈正。a,b∈負 ならば a+b∈負。
加法群としての3次元ベクトル全体の集合が、このような2つの集合正と負に分けられるかと言えば・・・・・、分けられます。例えばx座標が正のベクトルを正、x座標が負のベクトルを負とすれば、上記の条件を満たします。もちろんy座標やZ座標で分けてもよろしい。さらに言えば、原点を通る平面でベクトル空間を2つに分ければ、片方が正で他方が負と考えることができます。
えっ、3次元ベクトルの集合には順序がないからダメ? 注文が多いなあ(^_^) そこまで制限されるとちと難しいですねえ。一応、次のような提案はありますが*2)、この代数系の現実的モデルは思いつけません。
(+1)×(+1) = (+1)
(-1)×(+1) = (+1)
(+1)×(-1) = (-1)
(-1)×(-1) = (-1)
-- 続く --
---------------------
*1) 高校数学では外積と言えば3次元ベクトルの外積のみを指すが、本来はn次元ベクトルでも定義できて、結果はn次テンソルとなる。すなわち、2つのn次元ベクトル、
a=ai (i=1~n)
b=bi (i=1~n)
に対して、
a×b=[ai*bj - aj*bi]
という成分のテンソルが外積である。この成分はn2個あるが、対角成分はゼロであり、対角線を挟んで正と負の対となる成分があるので、独立な成分数は、(1/2)n(n-1) となる。3次元ベクトルでは独立な成分数は3個となり、やはり3次元ベクトルと考えることができるのである。2次元ベクトルでは独立な成分数は1個でありスカラーと考えることができるが、これは両ベクトルで作る平行四辺形の面積値(負値にもなるが)に等しい。
ウィキペディア[外積]
ウィキペディア[クロス積]
*2) アルベルト A.マルティネス『負の数学』青土社(2006/12) p177
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます