今日は、趣向を変えて小説風に書いてみたよ
彼女(ドドメ)の執務室は、古い研究棟の一角にあった。
築30年?それとも40年は経っているだろうか、廊下はリノリュームが貼られており、壁はコンクリに白いペンキを施しただけ、天井は雨漏りの跡なのか無数の輪があり、一部カビが生えているという具合で、夏に放送される肝試しスペシャルなんていうテレビ番組に使用されてもおかしくない程朽ちている。
元々、同じ敷地の新しい棟で仕事をしていた彼女は、その古めかしい建物の内装に驚きを隠せなかった。しかし、執務室の中はリフォームしてあるし、仕事の内容も楽しい♪そう思って新しい生活をスタートさせたのだった。
しかし、しかし、着任して2日目にそれは起こった。
朝、トイレに行くと掃除のおばちゃんが彼女を呼び止めた
「このトイレ怖いんだよ。掃除していると突然電気が点滅したり、消えたりするんだよ。」
着任初日は、人事手続きやら挨拶周りでこのトイレを使った事のなかった彼女は、掃除のおばちゃんと一緒にそのトイレに入ってみた。
入口正面には、二つの洗面台。そしてその洗面台の間に陶器でできた天使だか妖精の小さな置物が置いてあった。この天使はフランス人形のような顔をしていて、そのぱっちりとした澄んだ瞳は、何を見るでもなくどこか彼方を見いるような、どことなく悲しそうな表情をしていた。
「なんでトイレにこんな置物があるのかしら・・・?」
古い建物の、古いトイレに佇む1体の人形。なんか不気味だなぁ~っと思っていたら、突然トイレの電気がパッと消え、あたりは真っ暗に
「ほらね、突然電気が消えるんだよ。掃除していても薄暗くなったり、消えたりするんだよ。怖くて掃除なんかできないんだよ。」
掃除のおばちゃんは、彼女の二の腕あたりをぎゅっと握りしめ、そう言うとトイレから出て行ってしまった。
「照明器具の不具合のようですから、施設担当に連絡してみてはどうですか?」
と、彼女が掃除のおばちゃんに伝えると、
「伝えてるよ、言ってもなかなか直してもらえないんだよ。コロナ禍だからね。」
と、言って拗ねた。仕方がないので、彼女はトイレを使う事を諦め、自分のオフィスに戻って、施設部門に電話して照明器具の点検を依頼した。
数分後、トイレの様子を見に行くと、掃除のおばちゃんと設備の兄ちゃん達がトイレの照明を交換して点灯チェックをしていた。これで一安心だ。そう思って、彼女は胸をなでおろした。部屋から一番近いトイレが使えないと不便でならない。しかも一番近いといっても、50m程歩かないとたどり着かない距離なのだ。このトイレが使えなくなったらお腹を壊したり、緊急事態になった時に飛び込むトイレがないのだ。
執務室に戻って、仕事をしていると先ほどの掃除のおばちゃんがやってきて、
「やっと掃除が出来るようになったわよ。ありがとうね。」
とお礼を言って帰って行った。
あー私もやっと落ち着いてトイレが使えるようになったわ。
そう思って彼女は、トイレに向かった。
実は、トイレの前でおばちゃんに捕まった時からずっとトイレを我慢していたのだ。
執務室で一人でいるのと、トイレの個室で一人でいるのはやっぱり違う。
トイレの個室って落ち着くぅぅぅ~
彼女は、照明の直ったトイレでゆっくりと自然に身を任せていた。やはり着任早々は気が張っているし疲れる。執務室は色々な人がやってくるけれど、トイレは訪ねてくる人もいない。当たり前の事だが、なんかそれが嬉しくて肩に入った力もすっと抜けていくようだった・・。
「えっ!」
肩に入った力が抜けていくのと同時に、トイレの照明が一段暗くなった。
これは・・使ってないと照明が暗くなるシステムなのね。
そう思った彼女は体を軽く動かしてみた、しかし照明が明るくなることは無く、また一段暗くなった。もう一段照明が暗くなったら真っ暗になる。
「えーえーマジで?」
ということで、彼女は薄暗いトイレの中で早々に用を足して立ち上がった。
すると、トイレの個室がパッと明るくなった。
「いやぁ~今明るくなられてもね、用は済んじゃったんだけど・・・」
とりあえず水を流して洗面台に行くと、洗面台に置いてある天使の置物が少し笑っているように見えた。
「ん?」
さっきと、表情が違う。
それからが恐怖の始まりだった。
このトイレの照明はセンサーが壊れているようだが、設備の人が来ると直る。
そして、彼女がトイレに入っていると壊れる。
センサーの有効範囲が狭いのだと思って、座ったまま手を伸ばして動かしてみると、暗くなった照明が明るくなる事もあるのだが、手を止めると当然の事のように暗くなる。
しかも日によって、段階を追わずに真っ暗になることもあり・・・。
ということで、彼女はトイレで用を足す間
「えらいこっちゃえらいこっちゃヨイヨイヨイヨイ…♪」
とばかりに上半身だけ踊り続けなければならないのである。
便秘で悩む彼女、久しぶりに下腹部に福音を感じても、このえらいこっちゃ踊りのせいで便意に集中することが出来ず、ミッションに失敗する事数回。
もうぐったりだよ。
疲れ果てて個室を出ていくと、洗面台の上で笑っている天使の置物。
センサーライトのセンサーを交換してもらっても、照明の不具合は直らず・・。
もう、絶対あの天使何かやってる。センサーライトに呪いをかけているのだと思う今日この頃。
着任してもうすぐ4か月。トイレで踊り続け、天使との闘いはまだまだ続くのであった。
天使へ、
人のトイレを邪魔して何が楽しいのだぁぁぁ!
これって、トイレの花子さん的なものなのでしょうか。
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