あなたは、この~青春うたものがたりシリーズ1「風のある町」/ A town with the wind 総集編 4~を見なければ、一生後悔することになるかもしれません。それは、本作品が人の命の大切さや人としての真実の優しさの、その答えを教えてくれるからです。
第6話/ 生きていることが一番の幸せ
~愛のスカイダイビング~
どんなに淋しくたって 生きていることが一番の幸せだと
誰かが言っていた
どんなに悲しくたって 生きていることが一番の幸せだと
誰かが言っていた
どんなに苦しくたって 生きていることが一番の幸せだと
誰かが言っていた
それは、きっと本当だろう・・・
だって生きているからこそ 笑ったり
だって生きているからこそ 泣いたり
だって生きているからこそ 怒ったり
だって生きているからこそ 楽しんだり
この両手で抱えきれないほどの いっぱいの感動に出会えるのだから・・・
「お二人さん、もう愛の交換タイム(時間)はもう終わりましたかね?」
みんなが搭乗しているセスナ機を操縦している、TOKIOスカイダイビングクラブのオーナー兼インストラクターでもある谷口が、ちょっと大輝と愛をからかうふうにそう言うと、機内は拍手とともに爆笑の渦となり、二人はお互いに顔を見合わせて照れ笑いした。
その姿は、まるで新婚生活を迎えたばかりの、本当の夫婦のようだった。
「どうやら見たところ、愛の交換タイムも終わったようだし、そろそろスカイダイビングの準備に入ってもいいですかね?」
「はい、大丈夫です・・・」
大輝が谷口に向かってそう答えると、愛も「はい、私も大丈夫です・・・」と、結婚式を挙げた時と同じように、大輝に同調するかのように言った。
早速、二人は二千回以上のスカイダイビング歴を持つという、ベテランインストラクターの相葉浩と稲垣健一の指示に従って、結婚衣装の上にジャンプスーツを着込むと、ヘルメット、ゴーグル、手袋などのスカイダイビングに必要な防寒具を身に付けた。
そして、二人は防寒具を身に付ける準備が終わると、インストラクターと体を固定しジャンプするための、ハーネス(パラシュートを装着するための器具)と呼ばれるベルトを背負った。
大輝は相葉と、愛は稲垣と、それぞれにパートナーを組むことになった。
二人が感激したのは、谷口の粋な計らいで大輝と愛が空中で話が出来るように、ヘッドホンマイクを用意してくれていたことだった。
ただ、このハーネスと呼ばれるベルトは、思ったより躰を強く締め付けるものだったので、大輝が愛に“大丈夫か?”と聞くと、笑顔でピースサインが返って来たので一安心した。
このハーネスを強く締める理由は、空中でパラシュートを開いた瞬間に、その空圧でベルトが強く肩にくい込んだり、その反対に躰からすり抜けたりしでもしたら危険だという、安全性上の問題からだという。
「さあお二人さん、いよいよお待ち兼ねの空の散歩に、出掛けることにしますかね・・・」
谷口のその言葉で、大輝と愛が大空に飛び出すための、セスナ機の乗降口が開かれた。
もちろん、初めての体験だということもあったのだろうが、その予想以上の風圧の強さと空気の冷たさに、きっと突如として恐怖感に襲われたのだろう。
乗降口が開かれたそのとたん、ついさっきまでスカイダイビングの準備が終え、自信満々に笑顔を見せてはりきっていた大輝の顔色が、まるで全身から血の気が引いたように青白く豹変し、彼は思わず腰砕けしてしまったように後ずさりした。
「ち、ちょっと待ってください!」
そんな大輝の、子供のようなへっぴり腰になって言い訳をする態度を見て、最初はクスクス苦笑していた愛も、最後は思わず吹き出してしまい大笑いをした。
「アッハッハハハ・・・」
「あ、愛、な、何がそんなに可笑しいんだよ!」
「だって、大輝がそんなにビビっているところ、初めて見たんだもの。なんだか、子供がお医者さんに注射をされるとき怖がって、無意識に自分の中だけで注射は痛いものだと決め付けて、駄々をこねている姿を見ているみたいで可笑しくて――アッハッハハハ・・・」
「そ、そんな、子供が注射を怖がる話と、今のことを一緒にするなんて・・・」
「愛、それってちょっと酷くない・・・」
「まあ、まあ、お二人さんもう夫婦喧嘩は止めて、やることやらないとね・・・」
「旦那がそんなビビリじゃ、奥さん行く先大変だね・・・」
「そうですね。みなさん、家の主人がご迷惑をお掛けしてすみません・・・」
谷口の言葉に愛がそう答えると、機内中が大爆笑となった。
それに釣られて、いくらか大輝も気持ちが解れたのか、右手で頭をかきながら照れ笑いするくらいの余裕を見せた。
その瞬間だった。
大輝が、相葉に「躰の力を抜いて大きく深呼吸して・・・」と言われ、相葉の言葉に従って躰の力を抜いて深呼吸していると、いきなりドンと背中を強く押されたかと思ったら、もう気が付いたら機内の外に飛び出して大空の中にいた。
「あっ!」
おそらく、その機内から機外まで外に飛び出すのに要した時間は、一分も掛からなかった。
「うわーっ!たすけて~」
「耳が痛いよ~」
「神様、僕はまだ死にたくないよ~」
ただ、大輝がどんなに喚こうが騒ごうが、もう機内の外に出て空中に飛び出した以上は、どうすることも出来なかった。
ただ、大輝が喚き散らして騒いだように、初めてスカイダイビングを体験する人にとっては、人間が自然の理屈に逆らって時速約二百キロで降下するということは、見た目以上にかなりの風圧や息苦しいほどのスピードを感じ、これまで我々が地上では味わったことがない、独特の恐怖感に襲われるのかも知れない。
「大輝、大丈夫よ。ねえ、ねえ、隣を見て私も一緒だから・・・」
突然、愛の声がヘッドホンを通じて聞こえて来たので大輝は驚いたが、確かに彼女が言ったとおりに隣を見ると、彼女が彼の方を見て手を振っていた。
それにしても、まったく愛の度胸は大輝とは違い、大したものだった。
大輝は、これまで確かにスカイダイビングの未体験者ということがあったが、四千メートルの上空での風圧の凄さや空気の冷たさに対する、その恐怖心からなかなか機外へ飛び出す決心がつかずに、半ば強制的にスカイダイビングを実行させられたのに対して、まったく愛の場合にはその逆で、彼女のパートナーであるインストラクターの稲垣も驚くほど、自らが進んで自分が鳥にでもなったかのように、大空に向かってジャンプして行った。
そしてまた、時速約二百キロという猛スピードで降下しているのにもかかわらず、大輝のことを気遣って声を掛けたり手を振ってあげたりするなど、まるでその姿にはスカイダイビングのかなりの体験者と思わせるような、精神面での余裕さえあるように感じられた。
もしかして、これは愛自身がこれまで常に死の恐怖と隣り合わせに生きて来て、いつしかその死に対する恐怖感を彼女なりに物凄い努力をして、自分の中で乗り越えられるようになっている、ひとつの強い気持ちの現われでもあるのかも知れない。
だが、この行動が愛の死を早めることになろうとは、このときの彼女自身はもちろんだが、大輝を含めた彼女に係わっている周囲の人たちのすべてが、まだ誰一人として気付いていなかった。
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