この万年筆と銀のスキットルは、どっちも22年ほど前のものだ。
万年筆は、家人が私の誕生日に大船の本屋で買ってくれて、いまでも会社で
サインをする時に使っている、PilotのCOSTUM。
いまどき万年筆でサインをするマネージャーは少ない、というか、いない。
ただサインをするだけなら、ボールペンで十分だし便利だろう。しかしながら
男の道具というのは、使うまでのプロセスも大事なものなのだ。指や机上を
汚す危険を冒しながら、瓶からコンバータでインクを吸い上げ、ペン先の
余分なインクをティッシュで拭う。定期的に水洗いをして、詰まりを防ぐ。
サインした後、乾くのを少し待つ。こういうプロセスがいい。
家では、ここに写っているPlotのインク瓶を使っているが、
会社には、数年前に初台で買ったパーカーのインク瓶を置いていて、転勤のたびに
その瓶のインクを持って異動し、補給し続けてきた。
些細なことだが、同じブルーブラックでも、メーカーで色が違うし、
成分も違うという。
22年間には、モンブランやプラチナなど、他の万年筆も当然使ってはみた。
モンブランなどは、やはり名器と思う使いごこちであったが、酔って失くした。
家人の贈り物だからか、このPilotが最終的に残ったというわけだ。
丸みを帯びた、古風でシンプルなデザインが気に入っている。
カートリッジインク仕様だが、9年前にコンバータ仕様に変えている。
そしてその万年筆の下の、銀のスキットルは、22年前、初めてのアメリカ出張の
時に、NY(ニューヨーク)の五番街の、小さなたばこ店で買ったもの。
銀製で柔らかく、ズボンのポケットに入れて座ったため酷く歪んでいる。
銀なので、時間とともに黒ずんでくるが、時々磨いてやると、今でも上品に輝く。
イタリア製であることは、底に書いてあるので最初からわかっていたが、
Nat Sherman という刻印が何を意味するのか、ずっと不明だった。
最近になって、ふと思いついてネットで調べてみたら、NYの5番街の有名な
シガーショップに「Nat Sherman」という店があるそうだ。
22年前のあのたばこ屋が、その店だったのかは、今では調べようもない。
しかし、こういうことは言えそうだ。Nat Shermanというシガーショップが
、イタリアから銀のスキットルを輸入し、店の刻印を施して売りに出した。
そのスキットルを、たまたま日本から来ていた私が買って、日本に持って来た。
インターネットというものは本当に便利だ。22年間の迷宮入り事件が解決した。
しかし、残念ながらこのスキットル、内側の塗料が22年の歳月のため、剥がれて
きているところがあり、もはや実用には向かない。なんとか内部の塗装の補修が
出来ないものかと、思っているところだ。