徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

幕間 運命の席は夢の中を転がる−ケース2.座敷童の場合

2019-10-14 14:14:33 | 小説









 本文詳細↓



 (無貌の店員に、反対の壁側の席に案内される)
 「すぐに次の方をお連れしますので、お席からお立ちにならずにお待ちください」
 (グラスに残ったジュースを飲んで待つ)
 「失礼します、こちらのお席にお願いします。それでは只今から相席再開となります。ごゆっくりどうぞ」

 「えっと、こんばんは。
 ……はいっ、私はかえで屋の鈴女(すずめ)と申します。以後、お見知りおきくださいませ。
 ……かえで屋は、私が住んでいるお菓子屋さんの名前です。お店の裏に見事な楓の木があるので、それを屋号にしたそうですよ。私は座敷童という種族でして、誰かの家に憑く種族なのですが普段住人とは交流しないしきたりとなっています。なので、こうして人間の方と堂々とお話しするのは久しぶりです!
 ……お互い飲むものが少ないですね。一緒に取りに行きませんか? どんなものをよくお飲みに?
 ……そのときの気分次第、ですか。では、私のおすすめはどうですか? 菊の葉露から作られたお酒で、ほのかな甘みとさわやかな後味が自慢の一品! すごくいい値段がするので、こんなところでもないと飲めない名酒ですよ。私たち妖(あやかし)の種族は、人間が作ったお酒が大好きなんです。
 ……むぅ、そんな驚かなくてもいいじゃないですか。私だって人間に換算すると130歳ぐらいなんですからね! 陶器の一升甕(びん)ぐらい片手で持てますよ!

 ……蒼い月夜に出会った『彼女』を探して旅に、ですか。うーん、申し訳ありませんが私にも覚えがありませんねえ。座敷童の噂は一日で千里をゆくほどですから、それほど美しく月が似合う方がいるなら、耳に入っていてもおかしくはないのですが。
 ……悪魔、ですか。私はどちらかというと、変化の術を持つ種族を推しますが。なにせ悪魔にしろ、はたまた天使にしろ、この地から、いえ、この世界からすでに去った種族ですよ。この世界に現れることもそうないでしょうから、そんな話は忘れてしまいなさい。あなたには、この先も知らなくてよいことです。
 ……いえ、特に深い意味はないんですよ? あなたがお気になさる必要はありません。いいですね?
 ……いいお返事です。さて、とても楽しかったのに残念ですが、私はこのあたりでお暇させていただきます。あなたも帰られるなら、出口までご一緒しましょう。
 ……湯煙と錦の街に来られた時は、是非かえで屋にお立ち寄りくださいっ。旦那様の作られる三葉の練り切りは絶品なんですよ! それでは、また会うときまで」

 (無貌の店員が無機質な声で尋ねる)
 「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
 (無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる)
 「またのご来店をお待ちしております。お足もとにお気をつけてお帰りください」


 ―――――「おはようございます。どうかよい夢を」



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