
本文詳細↓
(白い皮手袋をはめた燕尾服の仮面の店員が一礼する)
「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、誠にありがとうございます。人間の男性一名様ご案内です」
(無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
「すぐの相席となります。只今お席をご用意させていただきますので、こちらの伝票を持って少々お待ちください」
(店の中央に配された席へ案内される。隣り合う席との間には仕切りがある)
「失礼します。こちらのお席へどうぞ」
「ん? おおっ、やっとか! あまりにも遅いから今日はもう帰ろうかと思ったわ!」
「お待たせして申し訳ございませんでした。それではただ今から相席開始となります」
「よろしくのう、坊主!
……なんじゃ、わしのような百眼の一族を見るのは初めてか? べつに獲って食いやせんぞ。
……ああ、そう謝るな。仕方あるまいて。初見では怯えて当然さな。悲鳴を上げんかっただけでも上々だろうて。ま、どうしてもと言うなら席替えしてもかまわんぞ。怯えた顔を見て酒を飲む趣味はないのでな。
……はっは! 肝の座った奴は嫌いじゃあないぞ。いやしかし、人間族と会うのはずいぶん久しぶりじゃ。住んでるのはどこだ? アルディオスか、シャンシャリアンか?
……ん? どっちも聞き覚えがない? ふーむ? そいじゃあ、坊主はどこの出だ?
……メトロポリス。春陽と野花の町。――ああ、あそこか! これはまた珍しい者と会ったわ!
……うむ、知っとるぞ。むっかーし昔に友人と旅行で見に行ったでな。そうか、そうか。
……今のは世界の名前かって? また妙な聞き方をするのぉ。普通に都市の名前だったような気がするが。ま、細かいことは気にするな! せっかく珍品中の珍品と会うたんじゃし、いろいろ聞かせてくれ!」
「失礼します。只今順番に席替えの案内をさせていただいておりますが、いかがでしょうか」
「ああ、わしらは十分楽しんでおるから、今のままでかまわんぞ」
「かしこまりました。それでは引き続き、相席をお楽しみください」
「いやー、しゃべったしゃべった。今日はなかなか楽しかったぞ! それじゃあ達者でな、坊主!」
(無貌の店員が無機質な声で尋ねる)
「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
(無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる)
「またのご来店をお待ちしております」
―――――「おはようございます。どうかよい夢を」