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その光はあっという間に山全体へと広がり、暗く隠されていたこの森の真の姿を浮かび上がらせた。
この幻想と綺羅の山は、昼間は普通の山だ。けれど、夜になると緑の木々は薄い青や紫に輝くクリスタルへと変わる。そこに、クローバーやキンモクセイに似た花がどこからともなく降り注ぐのだ。詩人じゃない僕はこの光景を綺麗、とか、美しい、とか、ありふれた言葉でしか表すことができない。こういうときは、凡庸な自分を残念だと思う。
ごろりと横になれば、その綺麗な景色で視界の全てが埋まった。この世のものとも思えないこの景色を堪能しながら、ふいに自分たちが暮らすここを人が名付けたときの逸話を思い出した。
百万の種族が暮らし、百万の明かりは絶えることがない。人は夜に眠るけれど、世界は眠らない。眠りを知らない百万国家、ゆえに【メトロポリス】。
人間はこの国のことを、そう呼ぶ。それが僕の住む世界、僕たちが旅する世界、一つの大地と果てない海でできた世界だ。
『彼女』は、それは世界の名前じゃないと言ったけれど、国イコール世界じゃないのだろうか。この世界にはこの国以外に国はないはずなのにな。
まあいいか。これからも、この旅路に幸いあれ。
祈るための相手を、僕は知らないけれど。