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マスターの指の先を追ってみれば、凛とした態度で上品にフルーツを食べている常磐色の毛のフェネネットがいた。
「み、緑⁉ 聞いたことありませんよ……」
「突然変異種なんだろうな。まあこいつも虐められてねえみたい……というよりむしろ過保護に守られてる感あるからな。大丈夫なんだろ。ほい、注文の品だ。酒はエメラルドクーラーとトリュフティーニだ。おすすめをってことだったからな、兄ちゃんの一杯目にはこれがふさわしいだろ」
マスターが僕の前に置いてくれたグラスを見て思わず笑ってしまった。だって僕の髪と瞳の色は、母さん譲りの甘いミルクチョコレート色だから。
「ああ、あとその黒毛のフェネネットな。どうも大の辛党なようなんだわ」
マスターがそう教えてくれて、ようやく僕はこのフェネネットが何を言いたいのか察した。
「そっか、君も辛いのが好きなんだね。もしかしたら、僕らが行った店にも行ったことがあるのかな。よろしくね、同士」
差し出した僕の手の人差し指を、黒毛のフェネネットは嬉しそうに舐めて、額をこすりつけた。彼らなりの親愛を示す挨拶だ。
ひらりと紙が横から飛んできたので何かと思ってみて見れば、さらりとした人間の文字が並んでいた。
〝あんな気合の入った口の奴が二頭もいるとはな〟