1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。
本文詳細↓
司祭様はゆるりと肩をすくめた。
「べつに魂以外にも食べるものはありますし。今はそれよりも、この大地を眺める者と同じ視点で、この谷から。『世界』を見渡しているほうが楽しいのですよ」
そしてぬばたまの闇よりも濃くて深い黒い瞳が、僕の目をまっすぐ射抜いた。
「!」
その瞬間、加速する内心の焦りとは裏腹に、身動きができなくなって、声も出せなくなった。
「何が彼らの逆鱗に触れるか、何が彼らに気に入られるのか、同族である私にも分かりません。私たちは皆、気まぐれですから。なので大人しくじっとして、関わらずにやり過ごすのが一番でしょう。ここに住むものたちは、皆そうしています」
一方でその間、僕の耳の中でこだまする声があった。
『その女が悪魔でないことを祈ることね』
『悪魔はすでにこの大地を去った種族ですよ。忘れてしまいなさい』
誰とも知れない二つの声。けど『その女』が『彼女』であることだけは、不思議と確信が持てた。
「あと、助言ついでに忠告も。悪魔は意志のある音――ようは言葉ですね。言葉を交わすことで、他者に介入する力を得ます。努々油断なさらぬように」
ぱんっと軽く手が叩かれると、僕たちは解放された。
「それでは私もそろそろ祭に参加してきますが、皆さんはこのままごゆっくり」
闇のベールの向こうへ消えていこうとする司祭様に、僕は椅子を蹴って立ち上がり叫んだ。
「あの、僕も一緒に連れて行ってくれませんか⁉」
「はあ⁉」
声をあげたのはアダムでも、司祭様の目も大きくなったのが分かった。驚いて目を見開いたってことだろう。
「僕には探している人がいます。僕はその人のことを何も知らなくて、もしかしたら悪魔かもしれない。だとしたら、この機を逃せば、もう会えないかもしれない。少なくとも人間の身では、エクリプスの夜を二度も迎えることはきっとできないから」
「おぬし正気か⁉ 一体何を考えておる⁉ だいたいおぬしがその女と会ったのは十年と少し前の月夜であろう! 悪魔であるはずがないっ!」
アダムもここまで声を荒げることができたのか。
「そんなの分からない。ここに来てる保証もないけど、もしいたとして何もしなかったら、僕は後悔する」
「愚か者! よしんば生き残れたとしても、五体満足でいられるかも分からんのだぞ! 参加するなど到底許せん!」
「心配しなくても、僕だって死にたくはないから、彼らの逆鱗に触れないように行動するよ」
「分からず屋め! そういう話ではないと、どれだけ言えばよいのだ!」
不毛な応酬は、ふいに起こった笑い声に割り込まれて止まった。
昨日11/24は文学フリマ東京の日でした。
木曜日の昼から東京に行き、土曜日の朝から引っ越しの荷物を頼み、肝心の日曜はイベント後即新幹線で帰宅。
ヘロヘロで昨日の更新はできませんでした。すみません...。
さて、その文学フリマ東京ですが、まーすんごい人!! 最終的に、6000人ぐらい来たそうですよ。
私のブースのお隣さんも、今年初出店だそうで色々お話させていただきました。
ということで、参加してみて思ったことを自分の覚え書きを兼ねてつらつらと...。
①売られている本の形は千差万別! ついでに値段も!!
今回私は、手製本を1冊800円で売っていました(ちなみに、用意した半分が売れたのでとっても嬉しかったです😍)。
私のものはこんな感じですね。


かと思えば、業者に頼んだしっかりした作りの本があったり、製本テープで留められているタイプの本があったり。
右を見れば、小冊子だけど箔押しのような特殊な処理をした表紙の本も売ってありましたし、左を見れば、近所の印刷屋さんでコピーしてきた紙を折ってその場でホッチキス留めした本が売られていたり。
改めて自由だなあと感じました。文学フリマはそもそも、その人が文学だと信じるものを自由に発表する(公序良俗に反しない程度でしょうけれど)場ですから、その違いを楽しむのも一つかもしれません。
当然値段もそれぞれに応じて、1000円以上のものから200円ぐらいのものまで、色々でした。やっぱり業者を介したり手間をかけたりすると値が上がりますよね。
伝えたい形、見せたい形は出店者それぞれですから良いも悪いも一概には言えないでしょうが、とりあえず次回自分が挑戦するときはもう少し安くできるように頑張ります。
②売り場の見せ方にも一工夫を!
私なりに無い知恵絞って、売り場について考えてみました。

本そのものを見えやすいようにイーゼルに乗せてみたり、あらすじの字は大きく通りすがりでも読みやすいようにしたり。
手慰みで作っていたアクセサリーも差し色にかつ、あわよくば売れたら良いと思って持って行きました。そしたらホントに売れたし、しかもドリームキャッチャーは「かわいい」とも言ってもらえたし、めっちゃくっちゃ嬉しかったです!!!!!!
自己紹介カードも置きました。本は買わないけどこれだけもらっていきますねっていう人も中にはいらっしゃったので、やっぱりあると良いですね。こんなことならもっと気合い入れて作ればよかった...。
値札も何かにかぶったりせず、かつ分かりやすい位置にセット。
他の方々は、手書きのカラフルなポップを並べたり、のぼり? ポスター? を高く掲げていたり。
変わったところでは、髑髏がででんと鎮座ましましているブースもありました。
一番多かったのは、布を机にかけていることですね。今回、私足元が微妙になってしまっていたので、次からはそんなことがあっても隠せるように布を持っていこうと思います(←なんか違う(笑))
③ちょっとした気遣い大事に!
私のブースを目的に来てくれた人もいたのですが、ブース番号がパッと見てわかるところになかったせいかパンフ片手にウロウロとされていました。
私のところに限らず結構そういう方を見かけたので、やっぱり目印的な意味でも用意しておくべきだと思いました。
あと、文学フリマは見本誌コーナーもあって、私もそこに提出していたのですが、みんながみんなそれを見てから来るわけじゃないです。ふと通ってみたらなんか目に止まった、みたいな人もいるんですよね。で、そういう人が私の本の中身を実際に読んでみて、「買います」と言ってくれる。すごく嬉しいです。嬉しいですけど、私ブースに置いておくようの見本誌を用意してなかったんですよ。しかも手製本であともついてないからパラパラ読みがしにくいみたいで...。
次回はブースに置いておく見本も用意します。それをパラパラ読める小冊子にするか、「見本」と書いた売ってるのと同じものにするか悩みどころですけれど。
このぐらいでしょうか。
また思い出したら記事が増えてる...かもしれないです。
とりあえず、次はぜってえ座布団持っていってやる!!!! ケツ超痛かった!!!!!!
本文詳細↓
「ただの……言い伝え、とか、ですか? 悪魔を見た人はいない。もしかしたら悪魔は物語の……」
中の存在、と言いかけた僕を遮ったのはアダムの微妙に苛立った声だった。
「何を言っておる。目の前にいるではないか」
目の前と言うと、アダムとエクレアさん、司祭様しかいない。目を何度も往復させて彼らの顔を見つめても、不思議と思考はそこから先へ進もうとしてくれなかった。
「フッ」
ひたすら戸惑っていると、誰かの鼻から息が抜ける幽かな音がした。それは少しずつ、のどを鳴らす笑いへ変わっていった。
「……司祭様」
控えめに、だけど闇に深くこだまするような笑いを漏らしていたのは、山羊の獣人。だと、僕が思っていたモノ。
「無垢で無知……。まあそれこそが、人間の美徳の最たるものとも言えるでしょうが」
「あなたが悪魔……なんですか? 本当に?」
「ええ。あの日、この大地にただ一人残ることにした、変わり者の悪魔が私です。以来この谷に住み着いて、隠居生活を謳歌しています」
「隠居って……?」
「悪魔は他者の魂を主食とする種族です。ゆえにどんな相手からも忌み嫌われているのですが、私はそれに飽きてしまいましてね」
本文詳細↓
司祭様はナフキンで口元を軽く拭うと話してくれた。
「普通は縁のないことですから、知らないのも無理はありません」
彼は両手を組んで、食卓の上に置いた。
「エクリプスの夜とは、百年に一度訪れる皆既月蝕の夜のことです。皆既月蝕とは闇に完全に食われた月。昇っていても見えない、沈んでいても気づかない。夜の空から象徴的な輝きが失われるその日に、世界の扉は開く」
「世界の、扉……?」
ビュオッと風が部屋の中を走り抜ける音がした。
錯覚? この奥の部屋には窓がないはず。それになにより、蝋燭が吹き消されていなかった。
……一体、何があった?
僕は思わず生つばを飲み込んだ。
「そう、世界の扉が開くんですよ。そして彼らが帰還してきます。今はもう昔の神話の時代、かつてこの地で覇を争った種の片割れが」
「それ、は」
「――――悪魔と呼ばれる者たちです」
どっと心臓が大きく脈打った。冷や汗が止まらない。
『悪魔は確かに存在する』
そういえば、僕にそう忠告(おし)えてくれた誰かがいた気がする。それでも一縷の望みをかけて、僕はおずおずと口を開いた。
本文詳細↓
アダムが飲んでいた水を吐き出す勢いで問い直した。僕がそれはなんだと聞く間もない。これほど取り乱しているアダムもまた、珍しかった。
「おや、アダム殿はエクリプスの夜をご存知でしたか」
「当たり前であろう。我は千年を生きておるのだぞ!」
「ですが、詳しい日付までは知らなかったと」
「そうだ! 知っておれば、こんな最悪のタイミングをわざわざ重ねはせん! まさか、エクリプスの夜にオス・モルガーンへ来てしまうとは……」
そしてさらに、ギロリとアダムは司祭様を睨みつけた。
「いや、もうひとつ最悪なことがあったな。貴様のようなモノがいるここへ来てしまったことだ」
「こら、アダム! 失礼だぞ!」
「いいや、トルル。こやつが敵であるかどうかはしっかりと問いただしておくべきことだぞ」
パン屑ひとつ、スープ一滴残さず食べておいて今更何を言う?
僕のそんな目に気づいたアダムは、ここは開き直った。
「うむ、美味であった! ごちそうさま!」
「お粗末様です」
エクレアさんはこんな状況でも律儀に頭を下げた。
僕はといえば食事を続けようにも続けにくく、所在なさげに目をうろうろさせたあげく、結局はスプーンを置くしかなかった。
「……エクリプスの夜がなんなのか、聞いてもいいですか?」