音楽プレーヤーのようなスタイルを全面に押し出したボーダフォンの「803T」。「開くと3G携帯、閉じれば音楽プレーヤー」というコンセプトは、端末の隅々にまで行き渡っている。
これまでも音楽携帯と銘打った端末が各種登場しているが、“見るからにコンパクトオーディオプレーヤー”というスタイルの「803T」は異色の存在だ。ここまで思い切った形の音楽携帯を開発した意図はどこにあるのか。その背景や開発プロセスについて、東芝 モバイル国内営業第2部で主務を務める東懐子氏に聞いた。
「“東芝が考える音楽ケータイらしい音楽ケータイ”とは何なのかを突き詰めるところから開発をスタートさせた。“いかに携帯で音楽をいかに簡単に楽しんでもらえるか”を念頭に、まずは背面のデザインを検討した。端末を閉じた状態での、音楽携帯らしいデザインや使い勝手の実現を目指した」と、東氏は背面デザインの意図について説明する。
いわゆる音楽携帯と呼ばれる端末は、auの「W31S」や「W31SA」、ドコモの「MUSIC PORTER X」もそうであるようにスライドスタイルが主流になりつつある。大きな液晶画面で曲名などを確認でき、各種操作もフロントキーで素早く行えるなど、音楽プレーヤー機能の操作性には定評がある。スライドスタイルの採用は候補に挙がらなかったのだろうか。
「東芝のポリシーとして、クラムシェル(折り畳み)の使い勝手をなくさないということがある。携帯の基本機能であるメールやWeb、テンキーを使う操作は非常に重要で、今の時点ではクラムシェルの使い勝手が一番完成度が高いと考えている」(東氏)
あくまでもメール、Web、電話、ゲームといった機能を今までと同じ使い勝手で利用できることを前提に、音楽機能を入れ込むといったスタンスだ。そこで生まれたのが“開いた状態では使い慣れた普通のケータイ、閉じた時にプレーヤー”──というコンセプトだ。
大きな横長のモノクロ液晶、再生や巻き戻し表示のある一体型の操作キー。ここまで音楽プレーヤーらしいデザインであるだけに、操作性も“音楽プレーヤーらしさ”にこだわった。
「今回のモデルを企画するにあたって、音楽プレーヤーを利用するユーザーがどんな機能を求めているかを調査した。リモコンでも操作できる再生・停止・巻き戻し・早送りとボリューム調節という基本的な操作のほかに、シリコンオーディオプレーヤーを使っているユーザーは、音楽を聴いている最中にリピートモードを切り替えたり、選曲したりする──ということが分かった。ユーザーインタフェースを決めるにあたって、基本の再生操作にシリコンオーディオプレーヤーの特徴である選曲モードを組み込み、背面のミュージックコンソールで選曲できるようにした」(東氏)
ケータイの機能と音楽プレーヤー機能との一体感も重視した部分だ。今までのケータイの音楽プレーヤーは、閉じた状態では起動できないものが多く、音楽携帯といわれるものでも、メール作成やWeb閲覧の最中にプレーヤーを操作をするには、メールやWebをいったん終了する必要があった。
「本体を開いてほかの操作をしていても、閉じたら音楽プレーヤーをすぐ起動できるようになっている。これまでの音楽携帯はほかの機能が優先され、音楽プレーヤーはあくまでバックグラウンドで動くという構造だが、803Tは閉じるといつでもプレーヤーがフォアグラウンドに戻ってくるイメージ」(東氏)
例えば、音楽を聴きながらメールを書いているとしよう。「この曲を飛ばしたい」と思ったときに、これまでの音楽携帯ではメールをいったん終了し、ミュージックプレーヤーの画面を改めて呼び出す必要があった。しかし803Tでは端末を閉じて、背面のボタンを長押しすれば音楽プレーヤーのメニューが起動し、そのまま操作できる。その後、再び端末を開けば、メインディスプレイには閉じたときのままの画面が表示されており、メールの続きを書くことができる。複数の機能を同時に操作できる、という意味ではマルチタスクと同じなのだが、「閉じれば音楽プレーヤー」というのが、視覚的にも操作的にも分かりやすい。
「見るからに音楽プレーヤーで、そのプレーヤーらしさを裏切らない中身や使い勝手の実現を目指した」(東氏)
一方で、音楽機能の充実に伴う若干のトレードオフは否めない。背面液晶はモノクロで、なおかつカメラは底面に装備されているので自分撮りは目測でするしかない。また、テレビ電話用のインカメラも省かれている。
「インカメラに関しては、803Tのポジショニングの関係もあり、トレードオフされた部分。背面液晶は音楽プレーヤーとしての役割を重視した」(東氏)
背面液晶は“プレイリストのアーティスト名や曲名が確認できるものを”ということで、当初から横長と決めていたと東氏。モノクロ液晶を採用したのにも理由があると話す。音楽を聴いている間はずっと曲名などを表示しなくてはならないが、カラー液晶だと省電力表示の関係で暗転し、曲名確認のためにいちいちボタンを押さなくてはならない。それでは音楽プレーヤーとしての使いやすさを損なってしまうことになる。「その点、モノクロ液晶はバックライトが消えても画面が見やすく、省電力性にも優れている」(東氏)。もちろん、音楽を聴いているときでも電話やメールの着信時には着信を通知する表示が出る。カラー液晶の楽しさはないが、音楽プレーヤーとしての使い勝手を考えると、モノクロ液晶は納得できる選択だ。
イコライザーがイヤホンを使用したときのBASSしかないなど、より本格的なプレーヤー機能を求めるのなら、細かい部分で注文したい部分もあるが、とにかく「開けばケータイ、閉じれば音楽プレーヤー」というコンセプトは明確で分かりやすい。3G携帯の機能と音楽機能がうまく共存した、初心者にも受け入れやすい音楽携帯といえるだろう。
「803Tのポジションとしては、携帯で音楽を聴いたことがない人にも簡単に始められて、かつ本格的に楽しめる、というものを目指した。『転送ってどうしたらいいの?』というようなレベルの人でもこの機種から始めて、その後、2台目、3台目と高機能なものを使ってもらえればいい。後継機種ではさらにシリコンオーディオ並みの機能を搭載していく予定。“音楽ケータイといえば東芝”を目指したい」(東氏)
見た目も中身も“音楽プレーヤーらしさ”を追求──「803T」が生まれるまで
閉じれば音楽プレーヤー、開くと携帯電話という発想はなかなか新鮮だ。単に見た目だけでなく、操作性においてまで徹底している。
カメラ部分についてはAFがないなど、一部不便な点もあるが、全部入りを目指すシャープに対して、音楽ケータイの東芝を目指すという姿勢がよく現れた端末だと言える。
不満な点はSD-Jukebox相当のソフトが標準添付されなかった点、903TがSDメモリーカードなのに、803TはミニSDカードという点だ。
東芝が次に出す音楽ケータイがどんな機種なのか。いよいよHDDを搭載してくるのか?V502Tが着ぐるみ音楽ケータイになるのか?とても楽しみだ。