５年振りの味

不義理を重ねて約５年。
訪ねた店は、２０代の学生時代から通っていた居酒屋。
創業からいえば４０年以上、店はまだ営業していた。
けれど途中の周りの店は、通っていた頃にはなかった、知らない店ばかり。
恐々覗くと、知った顔がふたりいた。
そのうちのひとり、ヤマさんの前のカウンターが空いていたので、これ幸いと陣取ると、果たしてヤマさんは覚えてくれていた。
ヤマさんの持ち場は魚。
「今日は鰤か鮃かな～」
はにかむような笑顔のヤマさん。
両方もらう。
「ご無沙汰してまして」
「どうしてたの～？ でもあんまり変わらないね」
「とりあえず体重は増えましたケド」
アハハと笑いながらも、手は素早く魚を捌いて仕事の早いヤマさん。
店長のナオちゃんは、ひとりでホール担当なので大忙し。
他にも数人いたスタッフは皆、もういなくて、客層も知った顔はひとりもいない。
時は流れる、私は残る……。
そんなセリフが、頭の中をふとよぎる。
何せ学生時代から通っていたので、彼氏が出来るととりあえず、その店へ一緒に行って、会計の時にナオちゃんの意見を聞くのが恒例になっていた。
「やめとき」
「アカン」
が殆どだった(首実験か？)。
何故かナオちゃんにNGを出されると、それ以上続かないのが不思議だった。
ある日、新しい彼氏を連れて行くとナオちゃん
「ま、頑張り」
「えっ！？ でもフリンやねんけどな」
てな時もあった。
お店が終わってから、バーに連れて行ってもらい、その後カラオケで朝までつき合ってもらった夜もあった。
会計をして帰る時、不義理の詫び代として終わってから生中でも一杯やってと渡すと、ナオちゃん
「ちょっと痩せたんちゃうか？」
「最初に言わんかい！」
でも、そんな現金なナオちゃんが好きさ。
良い夜だった。

好きな店は続いて欲しいBGM♪時代おくれの酒場 by 高倉健♪

初冬の椿事

会社にいると結構、飛び込み営業で物売りの人がやって来る。
果物やスイーツ、文具類からOA機器、果ては重機まで商品は様々であるが、今日来た人はなんと、クリスマス用のオモチャやぬいぐるみのサンプルを山ほど持って来て、置いていった。
「どうぞ皆さんで見て下さい。一週間後に注文をとりに来ます」と言うのである。
その人が帰った後、文字通りオモチャ箱をひっくり返したような受付に、違うフロアの社員たちも、なんだ？ なんだ？ と集まってきた。
部長と次長も「こんなものが売れるのかねぇ」などと言いながら、楽しそうに手に取って見ていた。
部長は先月、二人目の孫が生まれたばかり。頭は真っ白の銀髪で、マジメを絵に書いたような人。
次長は自他共に認める、当社ピカ一のセクハラ満載のエロオヤジ。
その中に、赤鼻を押すとピカピカ光って「メリークリスマス！ メリークリスマス！」と叫ぶサンタのぬいぐるみがあった。さっそく次長が、部長に向かって「お孫さんにこれエエんとちゃいます？」と叫ぶサンタを差し出すと、部長は答えて言った。
「いや、うちはまだ赤ちゃんやから、そんなん怖がるわ。それは大人のオモチャやから」
一瞬、フロアがシーンとなった。
次長がすかさず声を落として言った。
「部長、大人のオモチャて、こんなんちゃいますデ」
部長の顔は、みるみるうちにサンタの赤鼻に負けない位に真っ赤になって、「わかってます、わかってます。僕はね、それはちょっとまだ早いという意味でね、大人のオモチャはわかってます。そういう意味の大人のオモチャやなしにね、あのね」
後はもうワフワフ何を言っているのかわからない。
何もそこまで……という程、部長は狼狽していた。
次長はニヤニヤ嬉しそうに、してやったりという顔。
部長はその後、早退した。
明日は出社してくれるだろうか。

そろそろこんな曲が流れそうなBGM♪クリスマスキャロルの頃には by 稲垣潤一♪

それは盗み聞きから始まった

盗み聞きというよりも、聞くともなしに耳に入ってくることってありますよね？
昼食を摂り損ねて、外出のついでにカレー屋さんに入ったんですが、その店の主人と常連っぽいお客さんの会話が耳に入ってきたんです。
読んだ本の感想を話してはって、すごく良かった！ なんて聞こえてきたので、つい聞き耳をたててしまったんです。
沖縄のラム酒がどうとかこうとか。
え、なんて本ですか？ なんて聞くことも出来ず、お行儀悪いけど、カレー食べながら片手でスマホをいじって調べたら、それらしい本の名前が出てきた。
早速買って読んだら、面白くて止まらない。
で、本に出てきたラム酒も買ってしまった。
何も知らずに飲む酒と違って、本を読んだ後なので、やっぱり美味しく感じてしまう。
その日のうちに、一瓶あけてしまった。
本を読んでいる間は悩み事も忘れて没頭できる。
そのうえ美味しいお酒も手に入れて、良い塩梅に酔いも回った。
ちょっと眠れない夜が続いていたけれど、単純な私は、何とかなるさぁ～なんて、ぐっすり眠ることができたのです。
そこでふと、思いました。
本と何かのコラボって、新しい販路が見出だせるかも！
お酒やスイーツとか、美味しいものとのコラボなんて、私のような食いしん坊は、まんまと思う壺にはまるような気がする。
スポンサーを探して、何とかカタチに出来ないもんですかね。

南大東島のラム酒のBGM♪さとうきび畑 by 森山良子♪