2、3日前まで聞こえていたコロオギの鳴き声もとうとう聞こえなくなってしまった夜道を歩いていると、コンクリートで舗装された歩道の上をエッチラオッチラゆっくり歩む何かが目に入りました。
カニ? と思って身を屈めて見てみると、蜘蛛でした。
寒さのせいで弱っているのか、足取り重く歩道の上を進む蜘蛛を見ていると、誰かに踏まれてしまうのではないかと心配になりましたが、手で掴むにはちょっと躊躇してしまう大きさだったので、落ちていた枯れ葉の上に蜘蛛ちゃんを乗せて枯れ葉ごと空き地の草むらへそっと置いてきたのでありました。
夜の蜘蛛は不吉だと、聞いたことがあります。
学生時代のバイト先のパン屋で閉店後の掃除をしていた時、ハエトリグモを見つけた私にバイト仲間が「朝蜘蛛は鬼に似ても殺すな、夜蜘蛛は親に似ても殺せ!」と言ってホウキでハエトリグモを叩こうとして、咄嗟に手のひらでクモちゃんを庇い、手の甲をしたたか打たれたことがありました。
ハエトリグモちゃんを外へ逃がした私に、彼女は「殺さんとアカンのよ!」とちょっと怒って言いました。
なんで?
と訊くと、不吉なことが起こるから、という答え。
不吉なことって?
と訊くと「だから不吉なことは、不吉なことよ!」と言い、「あんなものを逃がして、もう私は知らんからねッ!」とかなりおかんむりの様子でしたが、その後とりたてて不吉なことは起こりませんでした。
彼女が翌日食パンを切るスライサーで指先を切り、このケガは昨夜私がクモを殺さずに逃がしたせいだと言われ閉口した以外には。
蜘蛛ちゃんが無事にこの冬を越せるといいナと思いながら、フトそんなことを思い出したのでありました。
※閲覧注意※
苦手な方はご覧になりませぬように。
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今夜の蜘蛛ちゃん
女郎蜘蛛かと思いましたが、帰って調べてみるとどうもコガネグモのようでした。
コガネグモという名前を生まれて初めて知ったのでした。