「おおしたさん」のブログです

2005年6月に始めたこのブログ、鍼灸院をやってた頃のことを含め、今も気ままに書いています。

東洋医学の四診と五感

2023年07月13日 | 東洋医学、東洋思想
検査機器がなかった時代、東洋医学の診察は「四診」という独特の方法により行われた。

ところで四診は望診・聞診・問診・切診の4つで構成される。
  • 【望診】顔色や表情、肌に爪、そして舌を観察する舌診といった、視覚による患者さんの診察をいう。
  • 【聞診】発音や声の高さ、声の大きさ、そして匂い等、治療家の聴覚と嗅覚による診察の事をいう
  • 【問診】問診は現病歴や既往歴だけでなく、患者の体質やふと発する何気ない言葉も五行に当てはめ治療に役立てる。
  • 【切診】触覚を用いた患者さんに直接触れる診察の事で、主に脈診と腹診によるのだが、手足や背中もその対象となる。
この流れから見てもわかる通り、患者にいきなり触れることはない。それどころか問診からも始めない。患者の訴えを聞く前に五感を研ぎ澄ませて先ずは患者を眺める。そして何気ない話で声色を聞き、匂いを感じる。それからようやく問診が始まる。それが整ってようやく体に触れる事となる。

そういえば、経絡治療がモデルとした八木下勝之助翁という鍼灸の大家がいた。「鍼灸重宝記」のみを教科書とし、虚している一経にのみ補法を行なう治療をしていたという。ものすごい先生だったらしく、通りを歩く足音だけで、その人の死期を言い当てたという伝説を聞いたことがある。

そんな経絡治療だが、何年もこの治療をやっている鍼灸師が同じ患者を四診しても、脾虚や肝虚、腎虚とばらつきが出る事がある。そのばらつきを持ってして、東洋医学の信憑性を疑い、経絡治療から離れる鍼灸師が多くいる。確かに西洋医学の薫陶を受けたエビデンス至上主義では理解できないのは当然かもしれない。でも実は、ばらつきが出るのは当たり前、なぜなら鍼灸師は自身の五感をフル動員して治療方針を組み立てるのだから。あの先生はそのストーリーで治療をするのかと、決めた証を推測するのもなかなか趣があるものなのだ。

さて治療をどこから始めるか。四診による情報を精査し優先順位を決めるのは患者の前に立つ鍼灸師だ。自然からかけ離れて生活している人が多いせいか、望診では肝の訴えが強いのに、聞診は腎、問診では肺経の変動ばかりが目立つのに、切診は脾虚にしか診る事ができない。まあこの話は少し極端だが、薬を多用している人の中に、これに近い人はざらにいる。だから患者を診る上で自らが作り上げる治療の物語がとても大切になってくる。患者三様、十人十色、四診で得た情報に、自らの五感をフル動員して精査し、治癒に導く壮大な物語が。



青山通り、いちょう並木入口の朝はいつもとても静かです。


「名人達が一人の患者を脈診し、脾虚や肝虚・腎虚とばらつきがあるのはおかしい。」 

四診より得た情報から身体の状態を探り、物語を作っていく作業、論拠が確固たれば、それを踏まえて物語を紡ぎ出す事で、必ずや治癒への道が開ける。このようなストーリーの作成はとても大切だと思っていたのですが、偉大な先達もしなやかにその作業をしていたのですね。
 

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