<メールドグラス氷河に降り立つ>
モンブラン登頂(9):メールドグラス氷河(長い鉄バシゴ)
(アルパインツアー)
2005年9月4日。その2。快晴。
早朝,シャモニーの町へ出て,行動食を仕入れた私たちは,ベッドに1ユーロの枕銭を置いて,集合時間の15分前,8時45分に部屋を出る。すぐにグランドフロアーのロビーへ降りて,チェックアウトの手続きをする。これから,メールドグラス氷河歩行に出掛ける。そして,今夜はメールドグラス氷河を渡った対岸にあるグーベルグル小屋に一泊。そして,明日,また氷河を下って,シャモニーへ戻り,再びこのホテルフリエールに宿泊する予定である。
すでに,昨夜の内に,氷河散策に持参する荷物と,このホテルに預けていく荷物の仕分けを済ませている。添乗員兼ガイドの佐々木さんが,参加者から手際よくホテルに預ける荷物を纏めて,ホテルの奥まった部屋に運んでくれる。
すでにロビーでは,今日明日の2日間,私たちをサポートしてくれる2人のガイドが,私たちが部屋から降りてくるのを待っていた。お互いに初対面の挨拶を交わす。私は,ノートを広げて,2人にサインをして貰う。ガイドのリーダーは,ジャンピエール(Ollagmier Jean Peerre)さん。若手のガイドはコムテステファン(Comte Stephane)さんである。ジャンピエールさんは,『山と渓谷』2005年新年号の「みなみらんぼー」さんのモンブラン登頂記に搭乗している方である。
ピエールさんが,私たち全員に,お菓子が沢山入った袋を配る。これから2日間の行動食である。
<配られたおやつの菓子>
9時04分,ホテルを出た私たちは,シャモニーの街を東南東に15分ほど歩き,メールドグラス行の電車が出る駅に到着する。駅の名前は正確には読めないが駅舎の正面にMontenverseと書いてある。これが駅の名前かどうか私には分からない。とにかくここではシャモニー駅と呼ぶことにしておこう。3階建ての瀟洒な駅舎である。駅前は小さな広場になっている。広場はメールドグラスへ行く観光客でごった返している。
<シャモニー駅>
ピエールさんが,
「ここで待っててくれ」
と私たちに英語で言い残して,駅舎に入る。
それ程広くない駅前広場で,私たちは一塊りになって,ピエールさんが来るのを待つ。
9:45,私たちはピエールさんから電車の切符を貰い,ホームに入る。
「この切符,往復だから無くさないで・・・」
と念を押される。
<モンタンベール行の可愛い電車>
<車内が華やいでいる:日本人もチラホラ>
ホームには2両編成の電車が停まっている。えんじ色の車体である。線路を見ると,2本のレールの間にもう1本のレールが敷いてある。このレールにはギザギザの歯が彫られていて,電車についている歯車を,このレールにかみ合わせて走る仕組みである。昔々,信越本線の横川,軽井沢間にあったアプト式と同じである。レール自体は細くて貧弱である。どちらかというとトロッコのような感じがする。
この歯車を見た途端に,
「どうして線路の凸凹と,電車の凸凹がピッタリ合うんだろう?」
という素朴な疑問が頭をよぎる。この疑問,幼少の頃,碓氷峠を通るたびに悩まされていたものである。たまたまレールとギアー両方の山がぶつかったら,上手くかみ合わなくて,脱線するではないか。私は,また,この悩ましい疑問に直面して,イライラする。
「だれか,この疑問,教えてくれ~ぃ!」
さて,私たちを乗せた電車は,10時08分にシャモニー駅を出発した。沢山の登山客が出入り口に集中して混乱の内に乗車したが,全員がゆっくりと座席に座れる。車内には木製の質素な座席が並んでいる。電車は急勾配の登り坂を,トロッコのようにゴリゴリ,ガタガタと振動しながら登っていく。座席は急勾配を考慮して作られているので,背もたれは床に垂直ではなく,水平線に対して垂直になるように作られている。従って,進行方向に座ると,座席と背もたれが丁度良い具合の角度になるが,逆に反対方向に座ると,何とも座り具合が悪い。
電車は凄い勢いで高度を稼ぐ。そして,やがて長いトンネルを潜る。
10時28分,トンネルを出た電車は,しばらくメールドグラス氷河の左岸沿いに山麓を通った後,モンタンベール駅に到着した。この駅の標高は1908メートルである。シャモニーの標高が約1080メートル。従って,28分ほどの電車の旅で,800メートルほどの高度を稼いだことになる。
モンタンベールの駅からの,メールドグラス氷河の眺めは,実に素晴らしい。
<モンタンベール駅付近からメールドグラス氷河を見下ろす>
※遠くにグランジョラスの雄姿が見えている.明日,山麓近くまで行く予定である.
S字形に曲がりくねる大氷河の彼方には,登山家が愛して止まないグランジョラス(Grand Jorasses,標高4208メートル)の雄姿が見渡せる。その手前の山塊がエイグドタカル(Aig du Tacul,標高3444メートル)である。今日,私たちが宿泊するグーベルグル小屋(Refuges du Couvwecle,標高2687メートル)は,写真左手の断崖の中腹にある。
10時45分,私たちはモンタンベール駅から歩きだした。氷河の左岸に沿って,まずは広い階段を下りる。階段の先は見晴らしが良くて,のどかな登山道が続く。素晴らしい氷河の風景を眺めながら,ルンルン気分で散策を楽しむ。
ところが,ものの10分も歩かない内に,血の気がよだつような光景にぶち当たる。
何と,いきなり,とてつも長い鉄バシゴを降りることになる。迂闊にも,私は,今日明日の2日間はのんびりとしたハイキングだろうと多寡を括っていた。だから,こんな垂直に近い勾配の鉄バシゴが,延々と続いているとは,全く想像していなかった。
私には乏しい経験しかないが,これまで,日本の山で出会った長い鉄バシゴは,北アルプス東鎌尾根の槍ヶ岳手前にある高さ10数メートルの鉄バシゴが最長である。この東鎌尾根の鉄バシゴすら,高所恐怖症気味の私は苦手である。
ところが・・・である。
目の前に,いきなり,長い,長い,鉄バシゴが現れる。ここまで来たら引き返せない。もう,高所恐怖症などとうそぶいては居られない。まずは東鎌尾根の鉄バシゴの10倍以上もある長い鉄バシゴを慎重に降りる。そこから狭い岩の割れ目に沿って数メートルトラバースすると,またまた長い鉄バシゴが続く。やれやれ大変だなと思いながらも,また,次の鉄バシゴをコチコチになりながら慎重に降りる。また,短い踊り場があって,さらに長い鉄バシゴが続く。
<メールドグラス氷河へ降りる長い鉄バシゴの始まり>
<鉄バシゴを下り続ける>
※稜線のように見えるところが鉄バシゴの始まりではない.下るにつれて勾配が急になったので,
上の方が死角になって,見えなくなっただけ.
<長い鉄バシゴが終わりに近い>
目も眩むような高い鉄バシゴを何本も下って,11時30分,漸く氷河にたどり着く。地図で調べると,実に200メートル近くの高度差を,一気に鉄バシゴで下ったことになる。
氷河の川岸に降り立つ。
この辺りは氷河の終わりに近い。沢山の土砂を巻き込んだ氷河は真っ黒な色をしている。
足場の良いところへ移動して,全員,アイゼンを装着する。私たちは登山の素人ながら,これまで登山学校で3年間も勉強している。その間に,何回もアイゼンを装着しているので,ほんの数分の間に全員がアイゼンの装着を終える。
このアイゼンに馴れた動作が,現地ガイドに好印象を与えたようである.これも山旅スクールで登山技術を教えていただいた賜である.
いよいよ,初体験の氷河歩きが始まる。
氷河歩きは,スリルに満ちた楽しい経験になった。
(つづく)
「モンブラン登頂記」の前回の記事
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