中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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台湾訪問記(5) いよいよ出番

2012年03月10日 05時55分21秒 | 東南アジア訪問記 

[復刻版]       台湾訪問記(5) いよいよ出番
        (国際比較管理学術会議(高尾)参加記録)
        1997年5月24日(木)~28日(月) 

1997年5月26日(月)午後

■報告会会場へ
 中山大学のA先生に,学内を案内されたり,冷たいジュースをご馳走になったりしている内に,瞬く間に時間が過ぎた.そろそろ「私」達の出番のセッションが始まる時間が近付いている.
 「そろそろ会場に戻りましょうか?」
と私は不安げに皆に伝えた.
 気分を入れ替えて,急いで会場に戻ると,最終セッションが始まる直前になっていた.し~んと静まり返っている会場に,借りてきた猫のように,すごすごと入った.
 私達のプレゼンテーションルームは,20人ばかり入れる長細い部屋であった.
 正面に向かって左端に進行役のB女史が座っている.その右に座長の中山大学C教授,続いて私を含む3人のスピーカの席がせせこましく設けられている.スピーカの頭越にスクリーンが設けてあり,そこへOHPを映写するようになっている.

■3人のスピーカー
 最初のスピーカは中山大学の若手研究者D先生,次いで私,最後が香港大学のE先生である.発表テーマは,それぞれ,次の通りであった.

An Application of Parameter Design for a Software Reuse Project
      D*** et.al.,Department of Business Management,
     National Sun Yat-sen University,Kaohsung,
     Taiwan,R.O.C.    

Characterizing the Progress of Information Systems and Virtual Corporation
     Hoo-Ten et.al.,Department of Economics,
     K**** G**** University,Yokohama,
     Japan

A Web-based Project Management System for Virtual Teams:The Virtual Teaming System(VTS)
     E*** et.al.,Department of Computer Science,
     The University of Hongkong,
     Hongkong
   ※名前はすべて仮称.

 座長のC先生が,
 「今回は,台湾,日本,香港と異なった国から来られた方々によるプレゼンテーションが行われる.非常に国際的なので興味を持っている・・・」
という挨拶があった.

■D先生のプレゼンテーション
 最初のD先生の発表が始まった.
 フロアーには10名ほどの聴衆がいる.その中に「ソカさん」「カラさん」「ヒガさん」がいる.皆,神妙な顔をしている.D先生は,大変,熱心に発表されたが,長い間,実務の世界にいた私には,内容が何だか物足りない気がしてならない.とはいえ,私は自分のことを棚に上げて,勝手に批評しているのだから,いい気なものだ.
 予定時間通りに,D先生のプレゼンテーション,質疑応答が終わった.
 次は私の出番である.
 実は,私,D先生がプレゼンテーションをしている間,ず~っと,自分のプロシーディングに目を通しながら,準備をしていたので,ほとんどフロアーの方も見ずにいた.壇に立って,改めてフロアーを見直すと,いつの間にか,小さな部屋一杯に人が集まっている.これには,さすがの私も,大変,吃驚した.
 日本から来た妙な人間が何か話すらしいということで好奇心の対象になったのだろう.丁度同じ時間に隣の部屋では,「勉さん」がプレゼンテーションを始めるはずである.そちらには「髭さん」が,助太刀に行っている.「勉さん,どうしているだろう」と自分のことはさておいて,少々,心配になる.

■Hoo-Ten先生のプレゼンテーション
 英語が苦手なHoo-Tenである.
 そのくせ,生来の面倒くさがり屋だから,英文の発表原稿を作って棒読みすることもしない.だから,いつもこんなときは,OHPを指さしながら英単語を羅列するようなプレゼンテーションをしている.いつも次回からはきちんとやろうと思いつつ,さっぱり改善していない.
 私は,
 "Good Afternoon・・・・"
と挨拶を始めた.その次に,
 "Ladies and gentlemen"
と言おうとして,フロアーを見渡すと,女性の姿が見えない.では,
 "Gentlemen"
と続けようと思った途端,進行役のB女史がいることに気がついた.途端に,
 「進行役は,フロアーの聞き手の一人と見なすか」
 「まあいいや,聞き手にしよう」
 「だけど,聞き手に入れても女性は一人だな」
 「女性一人ならば,"Lady and Gentlemen" って言うのかな」
 「いや,それでは語呂が悪い」
 「そういえば,便座が一つしかないトイレの入口の表示はladyの単数型か,それとも,ladies の複数型か,どっちだったかな?」
 「どっちだか分からないが,まあいいや,慣用句ということで,"Ladies and Gentlemen" で通してしまおう」
 こんな心の中の葛藤が,ほんの数ミリ秒の間に起きる.が,意を決して,
 "Ladies and gentlemen"
と続けた.私は,プレゼンテーションを続けながら,
 「人間の頭って,結構,瞬時の間にいろいろなことを考えることが出来るのだな」
なんて,他方で余計なことを考えていた. 
 英語は下手だが,プレゼンテーションの内容については,日本の学会で発表して,いろいろな方から批判され,揉まれているので,ある程度の自信はあった.私の次に発表する予定のE先生が,瘋癲の発表内容の一言一言に大きく相槌を打っていた.その度に,私は心強く感じていた.
 フロアーには満席になるほどの聴衆がいた.珍しく日本から来た訳の分からないヤツが何を話すのだろうかという興味があったに違いない.私の発表が終わると,フロアーからの活発な質疑があったが,何分にも英語でのやりとりなので,質疑応答の埒が明かないのがもどかしい.だが,タイムキーパのB女史が,質疑の途中で,「時間が来た」と言って,質疑を強引に打ち切った.
 私は,正直なところ,
 「ああ,これで国際会議での発表実績を一つ増やすことが出来た・・・」
と安堵している.
 気にしていたプレゼンテーションが終わった.もう,気残りな事は何もない.
 緊張感が一気にしぼんだ.この開放感が何ともいえないくらい嬉しい.

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

[発表内容]

 私の発表内容は以下の通りである.
  Abstract: A virtual organization is defined as a closer connection of the competitive cores of related organizations. Each core will transform itself or change places with a new core under the influence of social and economical transition. The characteristic of core transformation is explained by the following four variables, i.e., the type of alliance, regeneration, hierarchy, and the value of each core. The value of core is defined by quality and service as numerators, also cost and cycle time as denominators. Consequently, there are four available means for improving the value of core, namely "numerator-constant and denominator-cut", "denominator-constant and numerator-increase", "the ratio numerator-to-denominator increase" and "numerator-increase and denominator-cut". There is a causal relationship between the types of alliance and the improvement measure for core value. We first propose the characteristic of core, and then verify empirically for typical examples.
  Keywords; Strategic Alliance, Core Competence, Outsourcing, Virtual Corporation.
    (実際は少々これとは違うが,ここでは某学会に掲載したアブストラクト
     をそのまま代用して示している.珍英語表現があったらご容赦)

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 実は,この発表内容を,さらに深掘りをしたものを『経営情報学会誌』Vol.16, No.1,1997年6月号に「戦略的連携とコア特性の関連構造」という題名で,審査付論文として掲載しているので,あるいはお読みになっている方も居られるかもしれない. 
 私は,現在の所,二つの課題を抱えている.
 その第一は,戦略的コア(Competitive Core)のコンピタンスをどのように測定するかを,多少は理論的に体系化したいという目論見がある点である.つまり,コンピタンスの枠組みの整序を求めたいのである.少なくとも,
 「コアが代謝しなければ,全体は存続できない」
という命題をハッキリさせたい.
 では代謝の条件を如何なる尺度で測定したらよいかが命題である.実は,ここ数年,東南アジアへ進出した日系企業の現地調査を何回もしているのは,まさにこの命題の事例を知りたいからなのである.
 第二は,コアと情報システム(IS)の関連を求め,その上でISの提供部門(一般的に情報システム部門と呼ばれている部門)と,利用部門(エンドユーザというけったいな呼称が付いている部門)および経営の各階層が,IS利用に関して合意を形成する過程の整理とチェックリスト化を図りたい.
 この二つが,私が某社のSE部門にいて,25年間にも及ぶ苦悩を味わった末に,大学の教師になったとき,真っ先に取り組んでみたかったテーマなのである.
 既に,国内では数回にわたり研究発表もした.また,国内,海外の数10のIS利用事例も実際に訪問して垣間見てきた.何人かの研究仲間と,補助金を受けながらも,乏しいお金をやりくりしながら,アンケート調査も3回試みた.
 その内,1回は日米比較に重点を置いた.
 この第二の視点に関する論文は,審査を経て,この9月に発刊される予定の『経営情報学会誌』に掲載されることが決まっている.
 以来,無い知恵を絞りながら,いろいろやっているが,一向に「これだ!」という霧の晴れるような明快な論理は見えてこない.しかし,私としては,これらの二つの命題を統一した理論を展開させ,さらにはシステム監査の手掛かりにしたいという野望を持っている.まさに風車に向かうドンキホーテ的行動である.

■お前のプレゼンテーションは面白かったよ
  三人の発表は,ぴったりスケジュールの時間通りに終わった.
 振り返ってみると,英語が下手なのは私だけだった.特に香港大学のE先生は,立て板に水の勢いで,ぺらぺらと英語を話していた.英語が旨く話せないのは,本当に悔(クヤ)しい.
 発表が終わった途端に,進行係のB女史は,
 「やれやれ厄介な仕事が済んだ」
というような顔色を露に出して,
 「時間通りに終えて助かった」
というような意味のことを言って,さっさと帰ってしまった.
 発表終了後,三人で,少々,雑談した.
 私は,香港大学のE先生に捕まった.E先生は,
 「あなたの考え方は大変面白い.それにしてもお見かけより随分と頭が柔らかいですね」
というような意味のお世辞を言う.さらに,続けて,
 「また,チャンスがあったら,研究成果を発表してください」
おだてに乗りやすい私は,
 「何か成果が上がったら,また,来年発表しますよ」
と安受け売りをしてしまう.
 最初,私も,このお世辞に,幾分,気をよくしたが,よく考えてみると,
  「外見は更(フ)けている」
と言われているのと同じではないかと気付いた.
 要するに,外見も考え方も若く見えるなら,殊更に「頭が柔らかいですね」とは言わない筈ではないか・・・・と,考えると少々気色が悪い.

■お隣の会場
 となりの会場では,「勉さん」がプレゼンテーションを,無事,終えていた.さすがの「勉さん」も,「ほっ」とした表情をしていた.これで,二人とも,無事,何とか業績を積み重ねることができた.めでたし,めでたしである.
 本日は,大会のレセプションがある.
 本当は,その大会に出席して,ブロークン英語ながら,各国の方々と雑談してみたい.しかし,Gさんが強く推薦する「寒軒(カンシュワン)」というお店で,一同共に夕食をすることになっている.これもお付き合いだから仕方があるまい.

■一旦ホテルへ戻る
 しかし,目指す「寒軒」が,市内の何処にあるか判然としない.
 こんな時は,タクシーを利用するしか方法がない.だが,中山大学からダウンタウンへの交通手段がない.タクシーも簡単には呼べない.
 こんな時に,比較的,機転が利くのが私である.ダウンタウンの某ホテルで行われる大会レセプション出席の人たちを対象にしてチャーターバスが出る.とりあえず,そのバスに乗って,某ホテルまで行く.そして,そのホテルでタクシーを拾うことを提案した.
 仲間全員が「そうだ,そうだ」と合意した.少々気がひけるが,チャーターバスに便乗させて貰った. 

■レストラン「寒軒」で夕食
 「寒軒」は有名らしく,某ホテルで拾ったタクシーの運転手もすぐ分かった.某ホテルから,タクシーで10分程の距離のところにあった.
 もう,辺りが暗いので,ハッキリは見通せないが,「寒軒」の敷地は大変広いようである.お店の前庭は300坪ほどの芝生になっている.夜のとばりの中で,水銀灯の照明が明るく庭を浮き上がらせている.庭のの隅には樹齢40年の見事なマンゴスチンの木がある.長さ20~30センチの実が沢山ぶら下がっている.
 この店は,昔の市長の屋敷を改装した由緒正しいところらしい.一般の方が,この店で食事をする場合には,2ヶ月以上前でないと,なかなか予約がとれないほどの名店だという.
 食事は,勿論,前菜から始まるコース料理である.酒は,飲み放題ということになった.しかし,今回のメンバー下戸揃いなので,そんなに沢山の酒を飲むわけがない.だから,すこぶる気勢が上がらない.料理は,勿論,素晴らしい.その中でも,前菜にでたトコブシが印象に残った.
 次々に山海の珍味が出てくる.食べながら料金のことが気になるのは貧乏人の私としては,やむを得ないことである(幸いなことに大した金額ではなかった).
 酔うほどに,飲むほどに「眼さん」の世間批判が高まる.福建省の連中が海を渡って台湾に来て,誘拐事件などの凶悪事件を起こし,海を渡って帰っていく,そして金がなくなると,また台湾へ来て悪さをしていく・・・・・
 忌まわしい228事件など話題がつきない.
 夕食後,「カラさん」が,盛んにカラオケへ行こうと誘ったが,結局,希望者はなかった.

■こうして大会第1日目は終わった
 とにかく疲れたので,ホテルに直帰する.
 ホテルの近くのセブンイレブンで,私は,1.5リットル入りの「法国天然礦泉水」(つまりフランス原産の天然水)を購入する.
 かくして,大会第1日目は終わった.
 明日は大会2日目.もう,ただ出席して聞いているだけで良いから,大変,気が楽である.

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 今回の発表にも関連するが,表面的な発表内容とは裏腹に,この頃ISの周辺で,腹立たしいことが多い.一寸余計なことだが・・・・・
 その第一は,私の頭が古くなって最近の流れに付いていけなくなっていることだ.だが,これは「進歩には新陳代謝が付き物」という私の持論からも,現実を甘んじて受け止めることができる.
 第二は,マルチメディア唯一無二論への反発だ.
 IS(特にインターネット)は,人間の発想支援に大きく役立つという妄想が我慢ならない.たとえが悪いが,人間の頭の中のISには,俗に言う「基幹系」と「情報系」があるだろう(基幹系だとか情報系という言い方も気に入っていないが・・・・).
 確かにインターネットによって,頭の中の「情報系」は,著しく改善できるだろう.商売にも著効があるだろう.だが,ではユニークな発想ができるようになるかというと,それはインターネットなどとはあまり関係のない世界である.  
 論文(プロポーザルでもいい)を纏めることを考えれば,すぐ分かる.
 いくらインターネットで沢山の参考文献や資料を探してきても,いわば植木屋の庭先に沢山の苗木を並べておくのと,事情は同じである.それらの樹木をどのように庭に配置したら良いかを最終的に決めるのは,自分自身の頭の中の「基幹系」に頼るしか方法がない.
 頭の中の「基幹系」をブラシュアップする最適な方法は,小さなノートと筆記用具を持って,鎌倉の山道を散策することだという「落ち」をつけておこう.
 いやはや・・・・・
                                                 (つづく)

「台湾訪問記」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/5383522b6219146c79dc27de7f2448c6
「台湾訪問記」の次回の記事
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