80ばあちゃんの戯言(2)

聞いてほしくて(つづき)

ミラクルボディ 第一回 世界最強の人魚達(4)

2016-07-21 21:03:34 | 最近の出来事
NHK、テレビ ミラクルボディよりの抜粋

是までベールに包まれていたシンクロ王国ロシア。

イシェンコ ペアの身体能力のなぞを探るため

日々の訓練の場へ向った。

初めてプールにカメラが入ることが許された

イシェンコとロマーシナの練習プール。其処に居た

のは、たくさんの少女達だった。

ロシア全土から選ばれた選手だけが所属するモスクワ

市営のシンクロクラブ。下は5歳から総勢450人。

美しい容姿と、長く美しい手足が選抜の基準。

イシェンコ ペアを筆頭に現在のロシア代表の8割が

このクラブ出身だ。

少女達が、毎日必ず行う辛い訓練がある。

水中倒立パッドカーチカ。 逆さで息を止めたまま

腕をかき続ける。

コーチ

 ”もっと高く!”

この訓練をはじめるのは8歳から、無呼吸状態で筋肉を

動かせる身体に変えていくため、ひたすら、これを

繰り返す。このクラブで度々耳にする言葉がある。

テルペーニャ!(耐えるのよ) シンクロという競技を

極める時に、もっとも大事なのが忍耐強さ。 

コーチ

”痛みに耐えなさい! 逃げちゃ駄目!”

痛い痛いと少女達は泣き叫ぶ。

このクラブでは9割の少女達が厳しさに耐えかねて

去っていく。

水中で自由に動く肉体を手にするための苦しい訓練

が毎日続く。イシェンコ ペア がこのクラブに選抜

されたのは2000年。もう16年も通っている。

金メダリストになっても、練習の地道さは変らない。

まづ、500米競泳の全種目を立て続けに泳ぐ。

続いてシンクロの基本泳法、水中倒立パッドカーチカ。

練習内容に目を見張るものは何にもない。

特別なのは、この練習を幼い頃から毎日続けてきたと

いうことだけだ。其の後、昼休みもなく5時間の訓練

がつづく。突然二人がケーキを食べだした。体力の

消耗が激しい練習に耐え、集中力と体力を回復させる

ためだ。

そんな小休止の時ですら、水から上がることはない。

多い時は一日10時間、年間にすれば、凡そ2000

時間も練習に費やしている。 

人間離れした変化を遂げたイシェンコ ペアの肉体。

そこには、二人が過ごしてきた気の遠くなるような

長く厳しい時間の積み重ねがある。

ナタリア イシェンコさん

”シンクロは激しく動きながら息を止めるという

 特殊な競技です。とにかく水に適応する訓練を

 続ける。永遠に其の繰り返しです。”

イシェンコとロマーシナの二人が組んでから11年

世界でもこれほど長いのは珍しい。東京での撮影が

終わった夜、突然車を止めてロマーシナが飛び込ん

だのは何と釣具屋だった。

釣りが趣味だというロマーシナはすっかり買い物に

夢中

ロマーシナさん

”日本の釣具は世界一よ。”

店に入ってもう30分。イシェンコさんは苦になら

ない様子でじっと外に立って待っている。言葉に

せずとも通じ合う何か二人の間にはあるようで

イシェンコ ペアの演技は動きの同調、シンクロの

完璧さは世界一と言われている。しかし、二人が

得意とする足技はシンクロさせるのが非常に難しい。

水中で逆さになった状態で、パートナーとの動きを

一致させなければならないが、逆さで足技をして

いるときの選手の視界はどうなっているのか、

スペイン ペアに、カメラをつけてもらった。

頭を逆さにして水中へ、スペイン選手たちの

カメラには天井と壁しか写っていない。

パートナーの体がほんの少し目に入るだけ。

この限られた情報だけが自分と相手の位置を

確認しているのだという。スペイン ペアの

足技はぴったり合っているように思えるが

しかし、ハイスピードカメラの映像だと、

細かいずれが目立つ。膝を曲げた角度も違う。

足の裏の向きも異なっている。こうした僅か

のずれも減点の対象となる。ロシア イシェンコ

ペアの演技はどうか、足の角度をシンクロさせたまま

動き続けている。更に、しぶきの形まで同じだ。

水から出す足のスピードと動きが合っていなければ、

できない。今度は左の足、合わせ易い真上で止める

のではなく、あえて、難しい微妙な角度でぴたりと

決めた。回転をしながらの沈み込みも、何処で止め

ても、足先の角度まで完璧に一致している。

二人が動きを合わせてる時に使うのはカウント。

頭の中のリズムだ。 演技の前には必ずこの動作

を行い、お互いのカウントが合っているかを

確認する。

スベトラーナ ロマーシナさん

”カウントは二人の共通なルール。私は

 真夜中に起こされても、半分寝ぼけてても、

 正確にカウントを取る自信があります。

 無意識の状態でできるようになるまで、

 私達は訓練しているんです。”

 頭の中で響きあう正確なカウント、その時、

 二人の脳波はどうなっているのか検証する

 ことにした。

 相手を見ながら手の動きをシンクロさせる。

 音楽もない状態で、頭の中で響くお互いの

 カウントを頼りに、動作を合わせていく。

 すると二人の脳波は違う反応を示した。

 無意識でもカウントを取れるといった

 ロマーシナ。この時の脳波には大きな大きな

 反応は見あたらない。しかし、イシェンコの

 脳波は動きを合わせせようとしたその時、

 大きく反応した。この脳波の状態は

 ミラーニューロンという神経細胞が活性化

 しやすい時だと考えられている。

 人間の脳には相手のことを鏡のように自分と

 重ね合わせようとする働きがある。他人が痛

 がるシーンを見ると、自分も顔がゆがんで

 しまうのも、其の一例だ。イシェンコはこの

 相手と自分を重ねる脳の動きが特に強い可能性

 があるとわかる。実際イシェンコはシンクロの

 演技中、カウントをとるだけでなく、ロマーシナ

 に合わせる微調整をしているという。

 イシェンコさん

 ”ロマーシナと完全に一つになれるよう彼女の

 すべての動きに注意を払っているわ。私が

 責任をもってロマーシナとのデュエットを

 成功させなければと思っているのです。

シンクロというのはいくら一人が技術があって

 素敵に踊れても、それが相手と合っていなければ

 何の意味もない。完璧にシンクロさせようという

 イシェンコの意思は練習中にも表れている。

 
 コーチ タチアナ ダンチェンコさんは

 ロシアンルーレットのタイミングがほんの僅かに

 ずれていたその時、

 ”イシェンコ 何をボーっとしているの?

 足が遅れているわ。ロマーシナに合わせて!”と言った。

 細かな修整はすべてイシェンコに托されているのだ。

 コーチ

 ”イシェンコ 足の方向がロマーシナと違うわ。

 解る?”

 イシェンコさん

 ”このところですよね”とカウントしてみせる。

 コーチ

 ”ちゃんとシンクロさせて!”

 たとえ自分の動きが正しかったとしても

 イシェンコは何も言わず二人の動きを合わせる

 ことだけに徹しようとしていた。

 肉体に変化をもたらすほどシンクロに打ち込ん

 でいたイシェンコ。何が彼女をそこまでつき

 動かしているのか、心理面から掘り下げた解析を

 行ったのは、 ソウルオリンピック シンクロ 

 銅メダリストで 現在トップアスリートの心理を

 研究している田中ウルヴェ 京(ミヤコ)さん。

 イシェンコとロマーシナのインタビューを元に

 田中さんが自己決定力という観点から分析を試みて

 行動を起こす時の動機付けを示すもので自己決定力

 が強いほど壁に直面した時に耐える力が強くなると

 いう。

 分析によるとロマーシナは金メダルのためとか、国の

 ためとか目の前の目標によって動くタイプで、

 イシェンコは自分を向上させるためという内から

 湧き上がる力、欲求で動くタイプ。より自己決定力が

 強いイシェンコはどんな逆境にも耐える力が強いのだと

 田中さんは分析する。

 イシェンコは動機付けが自己の限界の挑戦だからこそ
 
 逆境を乗り越えれば、乗り越えるほど、どれだけ辛い

 環境が自分を高めてくれるかっていう事を知れるから

 限界への挑戦をやめられなくなる。

 二人には自分がシンクロ人生を振り返る心理グラフを

 作ってもらった。(辛かった時をマイナス、楽しかった

 ときをプラスで表す。)

 少女時代ライバルとの競争に耐えてきた二人。

 ロマーシナは山あり谷ありの人生を示した。

 イシェンコが描いたのは、右肩上がりの一直線の人生

 だった。

 凄いですね。谷のない人生ですね。という質問に対して、

 イシェンコさんは

 ”勿論よ。上昇のみの人生よ”と答えている。

  この真直ぐなグラフは逆境すら自分の糧と考える

  イシェンコの姿勢をよく表しているという。

  其の原点は彼女の少女時代にまで遡る。


     (つづく)