NHKテレビ ミラクルボディ よりの抜粋
モスクワから遠く離れたバルト海の港町、
カリニングラードでイシェンコは生まれた。
イシェンコの育った1990年代、町は経済危機
で、荒れていた。
シンクロをはじめたのは5歳の時、両親は仕事で
忙しく、この市民プールだけが彼女の居場所でし
た。
母 イリーナ イシェンコさんは
”娘が5歳で、シンクロを初めた時、カリニング
ラードには、全く物がありませんでした。
水着は私のセーターをほどいて編み、ノーズ
クリップは、ヘヤピンを代用していました。”
やせぽっちの目立たない彼女がオリンピック
選手になるなど誰も想像できませんでした。
しかし、イシェンコ13歳の時の演技が彼女
の人生を変えたのです。
やわらかく美しい腕で、白鳥の湖を踊る姿が
現在所属するモスクワのコーチの目に留まった
のです。
少女時代から指導するコーチはヴァレンチーナ
テブリヤ コーヴァさん
”彼女ほどあきらめない子供は見たことがない。
向上心の強いこどもでした。普通の子だったら、
5回も同じことをやらせたら、泣き出してしま
うのですが、彼女は自分から58回も練習した
ことを覚えています。”
ナタリヤ イシェンコさん
”コーチにスカウトされてモスクワに行くことに
なった時、自分には何かに変わる可能性がある。
でも、私の代わりなんていくらでもあるんだから
何があっても、耐えに耐えて、絶対あきらめない
で上を目指そうと決めたんです。”
自分は変わることが出来る、それだけを信じて
女王の位置まで上り詰めたシェンコ,其の信念が
彼女の肉体に奇跡を起こしている。それは太股の
酸素量の測定の際、同時に行った脳のデータに表れ
ていた。
脳も筋肉と同じように使えば使うほど、酸素を消費
する。 合わせるのが難しい足技をイ行っている
まさに、その時、イシェンコの脳の中の酸素が
激しく消費されていたのだ。其の量はロマーシナ
と比べてもはるかに多かった。イシェンコは完璧な
シンクロを目指して、脳をフル回転させて、より
多くの酸素を消費していたのです。
常識をはるかに超えて縮んでいたイシェンコの脾臓、
それは筋肉だけでなく脳でも大量に消費される酸素
を補おうと肉体が覚醒した結果だったのです。
ロシアンルーレットのときの水中の映像を改めて
見ると、一つの発見がありました。
イシェンコがロマーシナの動きをじっと見つめて
いるのです。息苦しさの中で必死に目をこらし動き
を一致させようと努力している。無呼吸状態と戦い
ながら、更にロマーシナに合わせようとする離れ技
に、イシェンコは挑んでいたのです。
リオ オリンピックで連発の期待がかかるイシェンコ
しかし彼女の肉体は長年の酷使の代償を背負って
いて、今回の科学分析の中で撮影されたMRI、少女
時代からの練習に耐えてきた彼女の筋肉は回転する
方向にゆがみ、背骨も大きく曲がっていた。消える
ことのない背中の痛み。しかし、今の彼女はそれすら
も乗り越えるべき何かと考えている。
30歳のイシェンコにとってリオがおそらく最後の
オリンピック。 自分たちの武器である、あの、
ロシアンルーレットの難易度を更に上げようと
挑んでいた。
人魚姫の作曲家を呼んで行われていた曲の手直し、
足技の時間を更に伸ばすよう音楽の変更を申し出て
いたのだ。
コーチ
”たった、たった、たった。たった・・・・。”
作曲家
”一小節分ですか?”
コーチ
”そう。イシェンコ、それでいいわね。連続技を
増やすのね?”
イシェンコ
”はい。やります。”
ロマーシナもうなずいた。
コーチ
”人魚の耐え難い苦しみの心を激しい足技で表現
できる。”
童話の中の人魚姫は人間になれない苦しみと痛みの
中、海の泡になって、消えてしまった。
其の悲しい結末は、イシェンコの描く人生の物語
にはない。
イシェンコさん
”トップアスリートである以上、自分の限界まで努力
すべきです。そして、更に、それを押し上げようと
しなければ、存在する意味がありません。
困難にぶつかった時、解決法のレシピなんてないんです。
忍耐強く自分に向き合えば、解決法が見つかります。
答えはいつも自分の中にあるんです。
(完)
モスクワから遠く離れたバルト海の港町、
カリニングラードでイシェンコは生まれた。
イシェンコの育った1990年代、町は経済危機
で、荒れていた。
シンクロをはじめたのは5歳の時、両親は仕事で
忙しく、この市民プールだけが彼女の居場所でし
た。
母 イリーナ イシェンコさんは
”娘が5歳で、シンクロを初めた時、カリニング
ラードには、全く物がありませんでした。
水着は私のセーターをほどいて編み、ノーズ
クリップは、ヘヤピンを代用していました。”
やせぽっちの目立たない彼女がオリンピック
選手になるなど誰も想像できませんでした。
しかし、イシェンコ13歳の時の演技が彼女
の人生を変えたのです。
やわらかく美しい腕で、白鳥の湖を踊る姿が
現在所属するモスクワのコーチの目に留まった
のです。
少女時代から指導するコーチはヴァレンチーナ
テブリヤ コーヴァさん
”彼女ほどあきらめない子供は見たことがない。
向上心の強いこどもでした。普通の子だったら、
5回も同じことをやらせたら、泣き出してしま
うのですが、彼女は自分から58回も練習した
ことを覚えています。”
ナタリヤ イシェンコさん
”コーチにスカウトされてモスクワに行くことに
なった時、自分には何かに変わる可能性がある。
でも、私の代わりなんていくらでもあるんだから
何があっても、耐えに耐えて、絶対あきらめない
で上を目指そうと決めたんです。”
自分は変わることが出来る、それだけを信じて
女王の位置まで上り詰めたシェンコ,其の信念が
彼女の肉体に奇跡を起こしている。それは太股の
酸素量の測定の際、同時に行った脳のデータに表れ
ていた。
脳も筋肉と同じように使えば使うほど、酸素を消費
する。 合わせるのが難しい足技をイ行っている
まさに、その時、イシェンコの脳の中の酸素が
激しく消費されていたのだ。其の量はロマーシナ
と比べてもはるかに多かった。イシェンコは完璧な
シンクロを目指して、脳をフル回転させて、より
多くの酸素を消費していたのです。
常識をはるかに超えて縮んでいたイシェンコの脾臓、
それは筋肉だけでなく脳でも大量に消費される酸素
を補おうと肉体が覚醒した結果だったのです。
ロシアンルーレットのときの水中の映像を改めて
見ると、一つの発見がありました。
イシェンコがロマーシナの動きをじっと見つめて
いるのです。息苦しさの中で必死に目をこらし動き
を一致させようと努力している。無呼吸状態と戦い
ながら、更にロマーシナに合わせようとする離れ技
に、イシェンコは挑んでいたのです。
リオ オリンピックで連発の期待がかかるイシェンコ
しかし彼女の肉体は長年の酷使の代償を背負って
いて、今回の科学分析の中で撮影されたMRI、少女
時代からの練習に耐えてきた彼女の筋肉は回転する
方向にゆがみ、背骨も大きく曲がっていた。消える
ことのない背中の痛み。しかし、今の彼女はそれすら
も乗り越えるべき何かと考えている。
30歳のイシェンコにとってリオがおそらく最後の
オリンピック。 自分たちの武器である、あの、
ロシアンルーレットの難易度を更に上げようと
挑んでいた。
人魚姫の作曲家を呼んで行われていた曲の手直し、
足技の時間を更に伸ばすよう音楽の変更を申し出て
いたのだ。
コーチ
”たった、たった、たった。たった・・・・。”
作曲家
”一小節分ですか?”
コーチ
”そう。イシェンコ、それでいいわね。連続技を
増やすのね?”
イシェンコ
”はい。やります。”
ロマーシナもうなずいた。
コーチ
”人魚の耐え難い苦しみの心を激しい足技で表現
できる。”
童話の中の人魚姫は人間になれない苦しみと痛みの
中、海の泡になって、消えてしまった。
其の悲しい結末は、イシェンコの描く人生の物語
にはない。
イシェンコさん
”トップアスリートである以上、自分の限界まで努力
すべきです。そして、更に、それを押し上げようと
しなければ、存在する意味がありません。
困難にぶつかった時、解決法のレシピなんてないんです。
忍耐強く自分に向き合えば、解決法が見つかります。
答えはいつも自分の中にあるんです。
(完)