中国軍が台湾近海で「サラミスライス戦術」…尖閣と同様に展開常態化、小刻みな現状変更狙う
【北京＝東慶一郎、台北＝園田将嗣】中国軍の台湾周辺での活動に関する台湾国防部（国防省）発表の分析からは、中国軍が海空の戦力を増強し、実戦的な訓練を繰り返している実態が浮かび上がった。中台統一に向け、小刻みな現状変更で台湾世論の動揺を誘う狙いが透ける。
平時は示威行動
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中国は２０２２年８月の米国のナンシー・ペロシ下院議長（当時）の台湾訪問に強く反発し、中国軍機による台湾海峡の中間線越えが常態化した。２３年になってからは、台湾南西や西太平洋で台湾が主張する「防空識別圏（ＡＤＩＺ）」内に進入するケースが増えている。昨年からは、台湾の北側のＡＤＩＺでの活動や気球を使った偵察も頻繁に行うようになった。
中国軍の艦船はデータの公表が始まった２２年８月以降、台風の時期などを除いてほぼ毎日、台湾近海に展開している。台湾国防部は艦船の種類を発表していないが、関係筋によると、ジャンカイ級フリゲート艦が最も多い。対空ミサイルなどで艦隊を護衛する船で、平時の展開は示威行動の意味合いが強いとみられる。
頼清徳（ライチンドォー） 政権になってからは、中国海警局の船も目立つようになった。海警局は１８年に軍指導機関の傘下に置かれ、海軍と連動して台湾周辺を航行する動きをするようになり、台湾側は危機感を強めている。
海警船は昨年８月下旬から９月中旬、２５日間連続で台湾周辺を航行した。沖縄県石垣市の尖閣諸島の接続水域航行を常態化させたように、既成事実を積み重ねている。中国側は、東シナ海や台湾周辺でサラミソーセージを切るように少しずつ現状変更を試みる「サラミスライス戦術」を試みている。
即座に「懲罰」
また、データの分析からは、中国が主張する「一つの中国」原則への挑発とみなす状況で、台湾周辺の軍用機や艦船の数が一気に増えていることがわかる。
台湾を包囲する形で昨年５月と１０月に行われた大規模軍事演習「連合利剣―２０２４」は、頼氏が就任式などで、台湾と中国が「互いに隷属していない」などと発言したことに反発したものだ。５月の演習（２日間）では中国軍機のべ１１１機と艦船のべ５３隻が確認された。１０月（１日間）は１５３機と２６隻で、１日あたりの軍用機数としては最多だった。
大規模な軍事演習には準備期間が必要となり、「外交などの政治的な動きに合わせて即応できるものではない」（日本政府関係者）とされる。中国軍は頼氏の発言を予測し、それを口実として中国側が「懲罰」と呼ぶ示威行動を即座に行えるよう準備しているとみられる。
実戦的訓練
台湾周辺での中国軍による大規模軍事演習は、回を重ねるごとに台湾侵攻をにらんだ実戦的な訓練内容になっている。
２２年のペロシ氏訪台後に行った演習では、弾道ミサイルを日本の排他的経済水域（ＥＥＺ）に着弾させ、乱暴に威嚇した。昨年の大規模包囲演習には海警船も参加して港湾や海域封鎖を想定した訓練を行い、空母「遼寧」が台湾東側の西太平洋に展開した。未明に軍事行動を始め、「いつでも実戦に移行できる」（中国の軍事専門家）姿勢を見せた。
台湾有事を想定した机上演習「台湾海峡危機政策シミュレーション」を主催する日本戦略研究フォーラムの荒木淳一・政策提言委員（元空将）は中国側の狙いについて、「活動を常態化して既成事実化を図るとともに、対応する側の体力を削り、油断させて奇襲の成功率を上げる戦術とも考えられる」と分析する。
さらに、中国軍に台湾を包囲するような動きが増えていることを挙げ、「物資を供給するシーレーンや航空路を封鎖できる能力を示し、台湾の世論に圧力をかける『心理戦』の色彩も強い」と指摘した。
読売新聞
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