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【近藤大介】
ジャーナリスト。東京大学卒、国際情報学修士。
ジャーナリスト。東京大学卒、国際情報学修士。
中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つ。
講談社『週刊現代』特別編集委員、『現代ビジネス』コラムニスト。
近著に『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)、『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)、『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)、『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)、『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)、『アジア燃ゆ』(MdN新書)など。
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「私は現在、カナダのトロントに滞在しています。
もう永遠に、香港には戻らないと決めました……」
12月3日、香港の民主活動グループ「香港衆志」で副事務局長を務めた
周庭(Agnes Chow)氏(27歳)が、SNSで衝撃の「亡命宣言」を行った。
その後、日本メディアなどのインタビューにも答え、香港の民主が大きく後退している現状を訴えたことから、世界的な話題を呼んでいる。
〇「恩を仇で返された。全力を挙げ逃亡犯をひっ捕らえる」
当の香港も、激震している。5日には、ついに香港トップの
李家超行政長官が、「周庭問題」に言及。
激しい怒りをぶちまけた。
「香港政府は全力を挙げて、国家の安全に危害を及ぼすいかなる逃亡犯をもひっ捕らえる。周庭は、外国もしくは境外の勢力と結託し、国家の安全に危害を与えた容疑で拘束された。
そのような保護措置を放棄し、逃亡した人物に対して、警察は必然的に、全力でひっ捕らえる。
いかなる逃亡犯も、いますぐ自首することだ。
そうでなければ終身、逃亡犯であり続け、終身追われる身となるだろう。
一部の逃亡犯は、誠実さを装い、言い訳をつけて同情をでっちあげ、自己を光り輝くよう見せようとしている。
まったくもって恥ずべき行為だ。
香港警察は、本件で寛大な処置を試した。
だが恩を仇で返されたのだ。
最も失望しているのは、寛大な処置を担当した者たちだろう。
香港警察は今回の経験を総括し、法規を有効にし、国家の安全の維持・保護を確保していく。
そして糸を引いている外部勢力には、打撃を与えていく」
前任の
林鄭月娥行政長官が、5年間の任期中に、特定の香港人を名指しして、ここまで強烈に非難したのを、見たことがなかった。
昨年7月1日に就任した
李家超行政長官も、これまでは努めて、平静な行政運営を心掛けていたように見受けられる。
それがなぜ今回、ここまで怒りに満ちた発言をしたのか? そこには、3つの理由が背景として考えられる。
〇「香港のプーチン」のメンツ丸潰れ
①第一に、自身の警察官僚としてのメンツを潰されたことだ。
李家超行政長官は1957年12月、香港に生まれた。
大卒のエリートではなく、1977年に19歳で香港警察に入った叩き上げだ。
香港警察では長く諜報畑を歩き、1998年には800kgもの爆薬保管庫を摘発するなど、諜報員として実績を積んだ。
まさに、ウラジーミル・プーチン露大統領の経歴と重なり、「香港のプーチン」との異名を取るゆえんである。
諜報員としての実績を評価され、2003年にはロンドンの王室防衛学院で研修を受けた。
その後もトントン拍子で出世を重ね、2017年6月、初の叩き上げの諜報員出身者として、保安局長に就任した。
この辺りから、習近平主席の目に留まっていく。
保安局長時代は、2019年6月に始まった大規模な民主派デモを取り締まった。
この時、デモの中心にいた一人が、
周庭氏だった。
李保安局長は香港警察の指揮官として、デモ隊との「攻防戦」で、計6000人以上もの香港市民を拘束し、計1万発以上の催涙弾を撃ちまくった。
周庭氏も逮捕、投獄され、最終的に2021年6月に出所した。
〇「香港の守護神」と目されているのに
李局長は、民主派グループにとっては「悪の権化」だが、「中南海」(北京政府)にとっては「香港の守護神」と映った。
二度と大規模デモを起こさせないため、2020年6月に、悪名高い香港国家安全維持法を制定したが、この新法制定に尽力したのも、
李家超局長だった。
こうした「実績」により、習近平主席の「お墨付き」を経て、昨年7月1日に、他に誰も立候補者が出ない「異様な選挙」を経て、第6代行政長官に就任したのだ。
就任式及び香港返還25周年祝賀会に参加するため、北京から訪れた
習近平主席に対して、
李新行政長官が平身低頭する姿が印象的だった。
このように警察官僚としての「民主化弾圧」が認められてトップに立ったという自負が、周庭氏の「カナダ亡命」によって打ち砕かれたのである。
〇すでにイエローカードを食らっている李家超氏
➁第二に、李行政長官が、ボスである習近平主席の怒りを恐れているということだ。
前述のような経緯で香港トップに上り詰めた
李家超行政長官が見ているのは、750万香港市民というより、「中南海」の
習近平主席である。
習主席の覚えめでたくありたいと、常に考えているはずだ。
いったん習主席の「寵愛」がなくなれば、外相だろうが国防相だろうが失脚するのは、周知の通りだ。
特に、ある香港人の話によると、
李行政長官は
習主席に対して、次のような「前科」があるという。
「昨年11月、タイのバンコクでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開かれた際、李家超長官は、あろうことか習近平主席と会談した際に、新型コロナウイルスを移してしまったという噂が立った。
李長官自身も、香港に戻って陽性反応が出て隔離された。
それで翌12月に改めて北京を訪問し、習主席に直接詫びたと聞いた」
この証言がもし事実であれば、すでにこの時点で
李長官は「イエローカード」である。それが「民主運動の首謀者」の一人がカナダに亡命し、
「反習近平政権運動」でも展開すれば、これはもう「レッドカード」というわけだ。
〇台湾にどう波及するか
➂第三の理由は、台湾問題だ。
これは先日、台湾問題の専門家である吉村剛史・元産経新聞台北支局長から受けた指摘だ。吉村氏は、次のような見解を示した。
「1月13日に行われる台湾総統選挙まで、あと1カ月あまり。
4年前の総統選挙に最も影響を与えたのは、香港情勢だった。
香港政府と中国政府が香港の民主化運動を徹底的に弾圧したため、多くの台湾人が『台湾が香港の二の舞になるのはゴメンだ』として、中国に厳しい態度を取る蔡英文総統に投票したのだ。
同様に、今回もまた、台湾総統選挙の直前に、周庭さんが亡命した。
当然ながら、台湾人も敏感に反応しており、総統選挙に一定の影響を与えるだろう。
すなわち、与党・民進党の頼清徳候補(副総統・民進党主席)に有利に働くということだ」
周庭氏の今後の動向に注目したい。