世界を揺るがす自称「中国共産党スパイ」の大暴露
12/5(木) 6:00配信
JBpress
世界を揺るがす自称「中国共産党スパイ」の大暴露
オーストラリア・シドニーの夜景
(福島 香織:ジャーナリスト)
国際社会が香港問題を中国の人権侵害問題としてとらえて包囲網を形成するなか、オーストラリアに亡命申請した自称「中国共産党スパイ」・王立強の登場が想像以上の余波を広げている。中国の「静かなる侵略」の手口が工作員当人の口から証言されたのだから、当然だろう。
【写真】自称「中国共産党スパイ」の王立強
オーストラリアやカナダ、香港、台湾に対する中国の世論工作、政界工作、情報戦はこの数年、急にその手口が暴露され始めた。2018年に上梓された『サイレント・インベージョン ~オーストラリアにおける中国の影響』(クライブ・ハミルトン著)、2019年に上梓された『パンダの爪』(ジョン・マンソープ著)、そして拙訳の『中国の大プロパガンダ』(何清漣著)などは、こうした中国のメディア、学術機関、ネットを通じた世論工作、政界工作の手口や影響力に警鐘を鳴らす書籍だ。このタイミングで起きた「王立強の告発」の意味と影響力を考えてみよう。
■ 香港の「銅鑼湾書店」事件にも関与?
王立強事件について簡単に振り返る。王立強は今年(2019年)4月23日にオーストラリアに入国後、オーストラリア保安情報機構(ASIO)に「投降」し、オーストラリア政府に政治的庇護をしてもらう代わりに、自分が関わってきた中国共産党の諜報活動に関する証言や証拠を提供すると申し出てきた。
11月になって王立強はオーストラリア主要メディアの取材を受け、自分が解放軍総参謀部に属するスパイで、香港や台湾で浸透工作、世論誘導工作に参与してきたことを告白。中でも香港の「銅鑼湾書店」関係者拉致事件に関与し、書店株主の李波の拉致に関与したと証言したことは、香港市民のみならず全世界に衝撃を与えた。
銅鑼湾書店事件とは、反中共的書籍を出版、販売する香港の銅鑼湾書店のオーナーや株主し、創業書店長ら関係者が2015年秋ごろから次々と失踪し、中国当局に秘密逮捕されていたことが約8カ月後になって発覚した事件。オーナーのスウェーデン国籍の桂敏海はタイのプーケットで何者かに拉致されたあと、北京で10年以上前に侵した交通死亡事故容疑者として起訴され、有罪判決を受けたことが突然発表された。秘密逮捕の状況から脱出して香港に戻り、習近平の直接指示で行われたと内幕を暴露した創業書店主の林栄基は、香港で逃亡犯条例改正問題が起きた段階で身に危険を感じて台湾に移住している。
王立強はまた、香港・亜洲テレビ(ATV)の幹部が解放軍の要職を兼務していると指摘し、香港メディアは毎年、中国共産党から5000万人民元の出資を受けて支配されていると告発した。このあたりの事情は『中国の大プロパガンダ』中に詳しい。
王立強はさらに、台湾で数十億元の金銭を使って2018年の台湾地方選における世論誘導工作も行い、20万のSNSアカウントを創設し、民進党のサイトなどを攻撃させたり、国民党の韓国瑜を高雄市長に当選させるようネット上のグループを形成するなどしたりして、国民党の劇的な雪崩的大勝利を導いたとも証言している。韓国瑜は2020年1月に予定されている台湾総統選の国民党候補になっている。王立強は、香港の投資企業「中国創新投資」のCEO・向心の妻である龔青を通じて台湾の選挙への世論誘導を行った、としている。
ちなみに、この暴露に伴って、向心が実は葉剣英(人民解放軍の創立者の1人)の外孫であると元親民党国民大会代表の黄澎孝が暴露し、それを葉剣英の孫娘(葉剣英の二男、葉選寧の娘)の葉静子がデマだと否定するという騒動も起きている。
■ 謎の死を遂げた証言者
おりしもオーストラリアでは、中国当局によるオーストラリア議会への浸透工作について暴露されつつあるころだった。
オーストラリアの報道番組「60ミニッツ」(11月24日)などが最初に報じたもので、中国当局がオーストラリアの国政に干渉しようと、100万豪ドルを使ってメルボルンの華人(中国系住民)、ニック・チャオにビクトリア州チザム選挙区から国会議員に出馬させようと試みた事件である。
チャオは2018年に安保情報機構に事件の概要を証言した。だが今年の3月にメルボルンのホテルで、過剰薬物摂取で謎の死を遂げている。
この事件自体には王立強は関与していないというが、オーストラリアでの中国浸透工作の凄まじさと根深さを象徴する事件であり、このタイミングの王立強の告発は多くの人にさもありなんと思わせるものだった。
■ プロの「スパイ」ではない王立強
もっとも王立強が本物のスパイかどうかについては疑問の余地がある。
中国当局は王立強は詐欺師であると指摘し、スパイ説を全面否定。上海市公安局によれば、王立強は2016年10月に詐欺罪で懲役1年3カ月の判決(執行猶予付き)を受け、さらに2019年2月にも460万元あまりを詐取した容疑で指名手配されている。王立強は指名手配される前に4月10日に香港に逃亡した、というのだ。つまり王立強は罪を犯して中国当局から逃げ回る逃亡者にすぎず、スパイを名乗ってオーストラリア永住権をだまし取ろうとしているのだ、という。
王立強に対するASIOの取り調べが一段落ついた時点でのオーストラリア当局の見解では、いわゆる北京が派遣した訓練を受けたプロの情報工作員(スパイ)ではなく、スパイ組織の周辺にいる「ビットプレイヤー」(端役、通行人A)にすぎない、とのこと。つまり、国際通念上のスパイではないのだ。
業界では、情報源の周辺にいて、ときにそういう情報を愛国心から、または見返りと引き換えに、もしくは脅しを受けて、第三者に提供する人たちを「情報周辺者」という。ちなみに新聞記者、ジャーナリズムも情報周辺者になりうるが、社会の「知る権利」のために入手した情報を広く公開するという「大儀」が行動原理にある。だから、ニューヨーク・タイムズ記者が中国の内部極秘文書・新疆文書をスクープしてもスパイ行為とは誰も言わない。
■ 悩ましい中国人“情報周辺者”への対応
さて、ここで問題である。オーストラリア政府としては、彼を庇護すべきか、せざるべきか。
王立強が本物のスパイでなくとも、もしオーストラリアでの居住権が認められず、中国に強制送還されたならば、彼が死刑判決、あるいは獄中不審死などに遭う可能性は非常に高いだろう。一方で、このくらいの人間をスパイ扱いすれば、世界のいたるところで情報周辺者は“スパイ”扱いされてしまうことにもなる。
国際通念上、王立強のような人物は普通スパイとは言わない。悪くても、理由をつけて国外退去だろう。だが、実は世界中にこうした砂粒のような中国系情報周辺者が掃いて捨てるほどいる。必ずしも共産党が派遣したプロフェッショナルの諜報員でないが、情報源の周辺にいる一般人が、独自に入手した情報を中国共産党に提供したり、人脈を作って親中共陣営を形成するために貢献するケースが非常に多い。彼らはいちいち当局から指示を受けるわけではないが、共産党の長年の独裁と恐怖政治に馴染んでおり、強い愛国教育を受けていることもあって、自然とそういう“愛国的行動”をとるのだ。銅鑼湾書店事件も、実のところ習近平が指示したのではなく、習近平の意向に勝手に忖度した下部組織の行動であったという説もある。こうしたスパイとも言い切れない情報周辺者が海外で中国共産党の世論誘導や浸透工作に加担しているのだ(同時に、意図せずに中国の外交の妨害となったり中共の悪いイメージを拡散する結果になることもある。銅鑼湾事件などは、まさに中共の悪のイメージを世界に拡散した)。
だが、彼らをスパイとして取り締まることが普通の自由主義国家に可能かというと大変難しい。
一方、中国ではこうした情報周辺者をスパイとして中国国内の外国人を次々と逮捕し、起訴し、実刑を与えている。中国にとって、彼らが本当にスパイかどうかなど関係ない。外国人をスパイとして捕まえ、特定の外国を中国の敵対勢力、悪者として中国人民に印象づけたり、外交の駆け引きに人質に利用したりするのだ。日本人も多く捕まっているが、はっきり言って彼らはスパイではない。彼らが知りうる情報のほとんどは、実際のところ重要機密、秘密に相当しない。
こうした中国で捕まる“日本人スパイ”を取り戻すために、日本にいる中国人情報周辺者を捕まえればいいではないか、という意見もある。だが、そうした中国人情報周辺者も大した日本の機密を入手しているわけではない。また、何よりも中国では命の重さがとんでもなく軽い。日本で中国人情報周辺者を捕まえても、中国で捕まっている日本人との交換に応じられるような人材ではない。ファーウェイのCFO孟晩舟レベルならば、また別だろうが、中国にとっての一般的な情報周辺者の命はまさしく砂粒と同じで、人質の値打ちなどないだろう。
そう考えると、中国人の“情報周辺者”への対応というのは、実に悩ましい。
オーストラリア当局としては、目下ASIOとオーストラリア通信局(ASD)、国防情報部の主導による精鋭情報特別ワーキンググループを設立し、外国(中国)の浸透工作、諜報活動などの国家安全上の脅威を疑似戦争状態と仮定して対応するための準備をしているという(オーストラリアン紙12月2日付)。ASIOはオーストラリア連邦警察(AFP)と情報を共有して、機密情報保護の機能を強化し、情報周辺者と目される怪しい人物を洗い出し、ひそやかに国外に退去させるという。このために9000万豪ドルの初動資金が準備されたとも伝えられている。
王立強がスパイでなくとも、中国が民間人を使ってオーストラリアの政治に干渉し、メディアを操り、世論誘導しようとしていることは事実。それを防ぐ機能を、現行法の枠組み内で整えるためには、オーストラリア社会の中国に対する警戒感を呼び覚ますことが必要だ。その意味では、王立強事件は効果があったと言えよう。
■ 中国の情報戦に脅威を感じ始めた西側社会
オーストラリアの状況は、実は日本にとって対岸の火事ではない。東京には中国人の“情報周辺者”が数えきれないほど存在すると言われている。かといって彼らを「スパイ」として逮捕できる法的根拠はない。もしも逮捕しようとすれば、大学や財界からすれば優れた中国人留学生や中国人投資家、企業家らを失うことにつながり、学問の自由や経済の活性化にマイナスとなるとの反発も起こるかもしれない。
だが、北海道大学教授が日本人スパイとして捕まったこと(のちに釈放)や、伊藤忠の社員がスパイ容疑で懲役3年の判決を受けたことなどからもわかるように、中国では日本の学者やビジネスマンが大した根拠も示されないまま“スパイ”として逮捕され、日本の反応や交渉条件によって解放されたり懲役刑を科されたりしている。
日本はこうした理不尽で不当な逮捕への対抗手段を持たない上に、政権や国会では今なお2020年春の習近平国家主席国賓訪問を成功させることを重視する意見が強い。これは、やはり中国の“情報周辺者”の世論誘導、政治浸透の影響力の成せるわざと言えるだろう。
香港問題に対する米国および西側社会の反発、新疆文書の相次ぐリーク、そして王立強事件など最近の一連の出来事は、私は根っこがつながっていると思う。西側自由主義社会が中国の政治浸透、世論誘導にはっきりと脅威を感じ始め、1つの問題が他の問題の暴露や覚醒を連鎖的に引き起こしているのだ。
世界に起きている自由主義の価値観を守ろうという動きの中で、日本だけがぼんやりしていていいのか、ということをオーストラリアの変化を見ながら、今一度、政界や財界、学界の人たちに考え直してほしいところだ。
福島 香織
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sky***** | 11時間前
日本も早急に、日本に入り込んで、情報操作するスパイに対する、強力なスパイ防止法を作り直さないといけませんね、国防のために。
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返信11
福山幹事長の帰化前の姓は陳。官報記載事項 | 11時間前
スウェーデン国籍の店主を拐ったのが本当なら、
重大な国際犯罪、というより、テロ国家。
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返信7
grobemit……..... | 10時間前
勿論日本にもいるだろう。
◯◯政党にもいるのでは?危なっかしいことだ。
彼らは保守政党を倒すことが使命。
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返信5
いちもつ | 11時間前
こういうのを読むとトランプ大統領や蔡英文総統を応援したくなる。
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返信2
匿名匿男 | 10時間前
日本はスパイに対し、スキだらけの甘い国。もっと危機感を持って厳しい対応をしなければなりません。
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cel***** | 10時間前
誰もこのことを記事にしない中、やっと出てきましたね。感謝します。
日本国内でも、ただの中国留学生が日本人の日常会話を盗み聞きし、情報を渡すとお小遣いがもらえると聞いた。アルバイト感覚で学生を上手く使い、多分どこの国でもやっている。
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返信0
sas***** | 11時間前
分かりやすくよく整理されている素晴らしい記事。
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返信0
den***** | 9時間前
話は変わりますが、女系天皇容認論も某国の諜報活動かと思います。外交序列1位のemperor家を、king家まで墜とそうとしています。昔は共産党や社民党を支援していたが、あまりに弱いので最近は保守政党の中にも実弾撃ってるのでしょう。騙されるべからず。
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返信4
yuu***** | 9時間前
日本が各国の情報機関にとって天国であるのは、随分から知られています。
この記事の中国という単語を旧ソビエト連邦に置き換えたらそのまま80年代の記事と同じ様な内容となりますね、勿論、細部の事件などは異なりますが。
持論ではありますが、経済を潤すには情報が何よりの武器になると思います。
GNPのランキングに於いて世界のトップ5に入る我が国は、上記を理由に述べるとそれなりに情報戦にも長けているのではないでしょうか。
そこから推測するに、日本は国内に多種多様な情報機関を敢えて入国させてコントロールを試みているのではないでしょうか。
とは言え、我が国は只今あらゆる面に於いて人材不足が深刻です。
世代交代が儘ならなくなると、今までの体制維持が困難になってしまう不安があります。
色々不満のある我が国ではありますが、何とか頑張りたいものです。
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返信3
hwr***** | 8時間前
日本にもたくさん居る。
国会議員も怪しい者がいるから
公安はしっかり調べてもらいたい。
それに関する法律も整備するべき。
中国で邦人9人がスパイ罪で拘束中、解放された北大教授が語る「共産党のやり口」
12/4(水) 5:59配信
デイリー新潮
中国で邦人9人がスパイ罪で拘束中、解放された北大教授が語る「共産党のやり口」
総理、ご再考を!
かの国に捕らわれた日本人が、まだ9人もいるのだから手放しで喜べまい。11月15日、中国政府は2カ月ぶりに北海道大学の岩谷將(のぶ)教授を解放した。その裏には、来年春に国賓来日する、習近平国家主席の影が見え隠れする。
中国が4年前に「国家安全法」を施行して以降、解放された北大教授を含め14名の邦人が身柄を拘束されてきた。罪状は主に“スパイ罪”で、最高刑は死刑。極刑が下される重罪なのである。
幸いにして解放された北大教授も、その嫌疑がかけられた。中国当局の言い分をそのまま書けば、拘束理由は「古書店で買った本を持っていた」から。市販されていたモノを所持することの何が問題なのだろう。
「中国では、共産党の内部資料も時が経てば古本屋で入手できる場合があります」
と話すのは、現代中国政治が専門で慶応義塾大学教授の小嶋華津子氏だ。
「研究者なら、現地の史料を集め論文を書くのは当たり前ですが、どのような情報が法に触れるのか明確でないので不安は尽きません」
実際、中国で拘束された経験を持つ、明治大学教授の鈴木賢氏はこう振り返る。
「3年ほど前、湖南省で農民にインタビューをしていたら、警察官が10人ほどやってきて、仲間と共に連行されたことがありました。釈放されたのが夕方だったので、中国式のカツ丼ともいうべき食事を振る舞われました。最終的には、“この度の入国ビザでは認められない取材活動をした”との説明を受けました。現地史料を集めて、実証的な研究を行う岩谷教授の手法も、中国側にとっては脅威だったのだと思います」
「予測できない」
来春に北京大学から招聘を受けている鈴木氏は、まだ返事を保留している。
「何が理由で拘束されるか分からないのでは、私も心配です。専門家なら、情報収集のために現地と繋がっていたいと思うのが自然で、ならば共産党を刺激しかねない論文を書くのは控えようとする動きも出てくる。そうやって、共産党は国外の研究者をもコントロールしようとしているのです」
当の岩谷教授は、書面を通じて、帰国後初めてその胸の内を明かしてくれた。
「現時点で拘束中の方がいらっしゃることもあり、私の発言がどのような影響を与えるのか予測できないため、コメントについてはご容赦頂ければ幸いです」
もの言えば唇寒し、という風潮が生み出されつつある。そんな彼らのやり口に、香港では若者たちが戦っているのはご存じの通り。同地でも書店主が中国本土へ拉致されたり、香港大学の民主化運動を監視するスパイが送り込まれていたことが判明している。我が国もこのまま習主席を国賓として迎えていいのか。
中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏が言う。
「北大教授を早期に解放したのは、習近平を招待した安倍総理が批判を受けるのを避けるためではないでしょうか。米中貿易戦争で日本にすり寄ろうとする目的が明確な今、多額の税金でもてなす国賓として招くとは、何事かと思いますね」
まずは拘束された邦人全員を解放するのが筋だろう。
「週刊新潮」2019年12月5日号 掲載
新潮社
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