『吉本隆明「心的現象論」の読み方』(宇田亮一著 文芸社 2011年刊)
吉本隆明の『心的現象論』は『試行』第15号(1965年10月)から最終号(1997年)まで毎号連載された。そして、第28号(1969年8月)までの分に手を入れたものが『心的現象論序説』(北洋社 1971年刊)として出版された。第29号(1970年1月)以降の分については未公刊である。
『吉本隆明が語る戦後55年 全12巻』(吉本隆明研究会編集 三交社)の第7巻 初期歌謡から源氏物語まで/親鸞とその思想』(2002年刊)から、『試行』第29号以降分が掲載されている。
しかし、当時ザクッと読んだこの『心的現象論』は難解で、ほとんど意味不明、そもそも私が「ヒトの心」の分析ということに全く興味を持っていなかったからでもある。
さて、『吉本隆明『心的現象論』の読み方』についてである。著者の宇田氏は、民間会社(キリンビール)に勤めた後、大学に入り直し臨床心理士として“ヒトの心”を仕事の対象としている方である。従って、氏は専らの研究者では無く、臨床現場でのヒトの心との格闘から吉本の『心的現象論』を氏なりの解釈で書き上げた力作である。ここにも「市井の偉人」がいた。
まず吉本が「心をどうとらえたか」、吉本の「心の見取り図」がわかりやすく解説される。
ヒトの心が対人関係の視点から捉えられる。
他者との対人関係は二つに分けられる。①二者関係:私とあなたの対話、私とあなたの二人だけの意味付け、価値付けの世界、例えば「家族」、吉本の言葉では、〈対幻想〉、ここでの幻想は、観念とか心と言い換えてもいい。
②集団的関係:自分と社会との関係世界、私と組織・集団との対話、意味付け、価値付けの世界、例えば、チーム、学校、企業、国家など。〈共同幻想〉
もうひとつの関係性として、③自分自身との関係:自分自身との対話、個人としての意味づけ、価値付けの世界、〈個人幻想〉
本書の最後で、著者は、〈個人幻想〉〈対幻想〉〈共同幻想〉という概念を用いて、現代の課題である、ひきこもりなど心の不調、児童虐待、臓器移植などを解明してみせる。
本書は、『心的現象論』に挑戦したくなる解説書である。