晴走雨読

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「経済クラッシュ」ノオト その9 東京新聞・中日新聞経済部編『人びとの戦後経済秘史』 

2020-08-26 13:47:42 | Weblog

2020.3.7放送NHK-BS1「BSスペシャル独占告白 渡辺恒雄~昭和編・戦後政治はこうして作られた」はナベツネという読売新聞の記者が政治に深くコミットしてきたことがリアルに語られていた秀作であった。僕は、その時予告された続編になるであろう『平成編』を期待した。だが、2020.8.9放送のNHK総合「NHKスペシャル 渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像」は昭和編の再編集だった。『平成編』はどこへ行ったのか。放送できない何かがあるのか?

 

「経済クラッシュ」ノオト その9 東京新聞・中日新聞経済部編『人びとの戦後経済秘史』      

『人びとの戦後経済秘史』(東京新聞・中日新聞経済部編 岩波書店 2016年刊)は、敗戦からリーマンショックまでの時代を対象とした庶民の目線から見た経済裏面史、そんなことが行われていたのかというようなあまり知られていない事実が満載、その時どう感じてどのように暮らしていたのかという庶民の証言を丹念に集めている良書である。

本書には、僕の知りたかった敗戦時の経済混乱に直面した庶民が書かれていた。

(P1~)「第一章 ドングリと爆撃機―国家総動員経済の真相」、(P2)「年表」には、(引用)「1941(昭和16)年 真珠湾攻撃時、軍の士気を殺がないように大蔵省が取引所と結託して、株式を買い支える」とある。

日銀をはじめとした公的な機関が株式を買い支えている現在の情況と酷似していると思う。

(P5)「カネの面では、『報国債券』として国債も小口化し、国民に購入を強制した。1942年には、日本銀行(日銀)を戦争に全面協力させる目的で日本銀行法も制定。日銀は政府が発行する国債を受け取って、戦争のための資金を無制限に供給することになった。」

戦時経済の教訓として戦後において禁じ手とされた経済政策がいくつかあるが、ひとつは赤字国債の発行、もうひとつには国債の日銀引き受けがある。どちらも現在は当たり前のように行われているが、そのツケを払わされる時がやってくるのではないか。

(P49~)「第二章 『リンゴの唄』から『炭坑節』-混沌からの生活再建」、(P50)「年表」には、「1945(昭和20)年 終戦と同時に国民が預金引き出しに走り、大量のお札が必要に」とある。

(P51)「終戦からわずか半年で、コメの値段は3倍に、野菜の値段も2倍になった。戦争中、政府は日銀に国債を引き受けさせて発行された巨額の資金で武器や軍需物資を購入していた。企業や国民が受け取ったお金は戦時中は強制貯蓄させられ、あらゆる物品が価格統制されていたが、こうしたお金が終戦でいっせいにモノの購入に向かったのだ。さらに政府は戦後も軍需会社に補償のお金や、軍人の復員手当のための臨時軍事費を支払い、インフレを一段と促進した。」

(P52)「インフレは歯止めなく高進する。政府は世の中に出回るお金を劇的に減らそうと、強制的に預金させる『預金封鎖』という前代未聞の荒療治に打って出る。疲弊した国民経済にとっては追い討ちだったが、モノ不足や食料不足という根本原因が解消したわけではないので、インフレは止まらなかった。」

(P57)「『政府が乱暴な政策をするのは悪性インフレの病気を治すためです』。大蔵大臣渋沢敬三はラジオで国民に理解を求めた。だが、大蔵省の記録からは別の政策意図も浮かび上がる。渋沢が幹部と交わした言葉『(日本国民は)昨日まで1億人戦死と言っていた。皆いっぺん死んだと思って、相続税を納めても悪くないじゃないか。国の再出発のためには借金をきれいにしなくては』。意を受けて策を練ったのが主税局長の池田勇人だった。国民の財産を正確にはかるため、家庭にある紙幣を預け入れさせる。タンス預金を防ぐため、旧円を無効にする。把握できた預金から財産税を徴収する・・。一網打尽の作戦だった。」

ここに政府の本音、政府が国民をどう見ていたのかが端的に表されている。振り返って現在の政府はどうなのだろうか。霞が関の奥で優秀な財務官僚が今の事態をどのように捉え、どうしようとしているのだろうか。

(P58)「東京都八王子市の内田イネ(77)は、『預金封鎖が父を変えてしまった。』雪深い青森県で育ったイネ。漁師の父親は酒もたばこもやらず、こつこつと貯金し続け、『戦争が終ったら、家を建てて暮らそう』と言っていた。だが、預金封鎖で財産のほぼすべてを失った。やけを起こした父は海に出なくなり、酒浸りに。家族に暴力も振るった。イネは栄養失調で左目の視力を失い、二人の弟は餓死した。『戦争が終わってもまだ、飢えという別の戦争が続いていた』。」

国の政策に翻弄されてこのような思いをした国民が無数にいたのだろう。僕らも今を注視しながら生活をしていかねばならない。

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「経済クラッシュ」ノオト その8 山中恒『戦争ができなかった日本』

2020-08-11 14:10:11 | Weblog

中国の古代に陰陽五行説があり、季節を人生の年代にあてはめて、青春(あお)⇒朱夏(あか)⇒白秋(しろ)⇒玄冬(くろ)とする。僕の自覚では白秋を終え玄冬(くろ)に入りかけている頃と思っている。同じような考え方で、薬師寺金堂の薬師如来像の台座には、四方に中国の霊獣である四神(東=青龍(あお)・南=朱雀(あか)・西=白虎(しろ)・北=玄武(くろ))が表現されている。考え方も黒っぽいのがいいよね。

 

「経済クラッシュ」ノオト その8 山中恒『戦争ができなかった日本』      

『戦争ができなかった日本―総力戦体制の内幕』(山中恒著 角川Oneテーマ21 2009年刊)に学ぶ。戦時についての歴史書の大半は、軍事や戦闘中心の記述だが、本書は経済と政策の視点から書かれており、これじゃ勝てないはずだったということがよく理解できる。

(P35~)「第二章 戦費とは何か?」、(P45~)「⑦戦費とは何か?」で、(以下、引用)「大日本帝国は戦争で、どれくらい使ったかをざっと見ておこう。

日清戦争2億円

日露戦争18億円

第1次世界大戦(シベリア出兵まで)15億円

日華事変(勃発から2年で)73億円

大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)2,217億円

当時の人口1億人で割ると国民一人当たり2,217円である。たまたま新聞の広告欄に売家の件があり、『荻窪駅バス5分中通り檜造り5室ガス水道庭完備2,000円』というのがあった。ということは、国民一人当たり、家屋一軒分の戦費を負担したことになる。」

アジア・太平洋戦争の戦費は桁違いであり、敗戦後、政府にこの負担が重くのしかかった。それをこれまで述べてきたように国民の財産に手を付けるという乱暴な方法で解消したのである。

(P161~)「第六章 軍需バブルはじける」、(P179)「国民貯蓄は国の財源」(小見出し)(以下、引用)「1938(昭和13)年、政府は「国民貯蓄奨励に関する件」を決定した。全国の郵便局、駅、集会所に「貯金は身の為国の為」のポスターを貼った。主婦には「貯蓄は主婦の手で」、工場労働者には「右手にハンマー左手に貯金帳」、学校では校長が貯金の意義を講話した。

(P178)1941(昭和16)年、政府は軍事費を確保するために巨額な赤字国債を発行した。(85億7,300万円)しかし、厖大な国家歳出はインフレを進展させる恐れがあった。政府資金が散布されることによる巨額な購買力を吸収してインフレを防止するために、1941年、戦時立法「国民貯蓄組合法」を成立させた。

国民貯蓄がなければ戦費の調達はできず、さらに貯蓄によって国民の購買力を吸収しないと、物価が騰貴し悪性インフレを招き国民の生活が不安定になり、戦争はできない。戦争の勝敗は国民の貯蓄にかかっていた。戦争を遂行するために、お国に使ってもらうための国民貯蓄だ。旅行や結婚の為の貯金やタンス貯金は国民貯蓄ではない。

(P181)国民貯蓄組合は、地域組合、職域組合、産業団体組合、在郷軍人分会、青年団、少年団、婦人会、学生、児童・生徒、檀徒・信徒と全ての国民を網羅した。(協力しない者は「非国民」とされた。)

貯金の方法は、郵便貯金、郵便年金の掛け金、簡易生命保険の保険料、銀行預金、信託会社への金銭信託、産業組合(信用組合、商業組合、漁業協同組合)貯金、無尽会社掛け金、生命保険料、国債、貯蓄債権、報国債権などである。

郵便貯金は全額が大蔵省預金部に送られ公債消化資金になった。日本全国どこにでもある郵便局が戦争に果たした役割は実に大きかった。」

このように戦費を調達するため、国民は強制的に貯金や国債を購入させられたあげく、敗戦時にそれらは財産税として国に徴収されてしまったことはこれまでのところで述べたとおりである。

 

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「経済クラッシュ」ノオト その7 山田順『コロナショック』  

2020-08-05 15:25:47 | Weblog

8月になったので「アシックスGT2000-8」に履き替える。これから1,000km、僕の身体を支えてくれる。

 

「経済クラッシュ」ノオト その7 山田順『コロナショック』     

僕の心配している経済クラッシュに一歩近づいた報道があった。NHKニュース(2020.7.29)「日本国債の信用度 格付け“A”も 今後の見通し引き下げ 」

(そのまま引用)『大手格付け会社、フィッチ・レーティングスは、日本国債の信用度を示す格付けの今後の見通しを引き下げると発表しました。新型コロナウイルスに対応する経済対策によって赤字国債の発行が増え、財政赤字が拡大していることが要因だとしています。発表によりますと、フィッチ・レーティングスは、日本国債の将来的な格付けの見通しを、これまでの「安定的」から「弱含み」に引き下げました。

理由について格付け会社は、新型コロナウイルスに対応する経済対策で、日本政府が赤字国債の発行を増やすのに伴って、財政赤字が拡大していることが要因だとしています。ただ、これは日本国債の格付けを引き下げる「格下げ」ではなく、格付けそのものは21段階中、上から6番目にあたる「A」に据え置いています。日本国債の格付けの見通しをめぐっては、アメリカの大手格付け会社、S&Pグローバル・レーティングも、ことし6月に「ポジティブ」から「安定的」に変更しています。』

 

(その6)に続き、『コロナショック』(山田順著 Mdn新書 2020年刊)に学ぶ。(P199~)『第九章 ポストコロナで日本は国家破産』では、最悪へのステップについて言及しているが、以下のように必ずしも経済のメカニズムは説得力を持って説明されていない。僕の知識や理解が不足していることもあるので解明されるべき課題は残る。

(P205)『国債の無制限購入という「コロナ緩和」』(小見出し)。:「日銀による国債買入上限を撤廃するということは政府にいくらでもおカネを渡すことを意味する。これは、財政法で禁じられている『財政ファイナンス』であり、市場の信任を失えば、国債暴落による財政破綻を起こす。」

今の僕にはイメージできないこと。現状で日銀が相当数保有している国債が市場において信任を失うとはどういう事態を表すのか。そして国債暴落へのメカニズムはどうなのか。

(P212)『やがて「円」が暴落するときがやってくる』(小見出し)。:「金融緩和を終わらせて日銀が国におカネを渡さなくすると、公的資金で生き延びてきた企業は潰れ、年金はすっ飛ぶ。しかし、マイナス金利まで導入した金融緩和は永遠に続けられるものではない。永遠にお金を刷り続けてなに事も起きないのなら、税金など要らないし、経済政策など必要がない。・・このままお金を刷り続けていくと、当然、おカネの価値が下がる。通貨「円」に対する信認が揺らぎ、円安が進んでいく。そして「円安=株安」になるだろう。さらに円が暴落する。」

異次元の金融緩和政策(アへノミクス)には限界がある、しかし緩和を止めることもできない、ジレンマに陥っていることは理解できる。問題はその限界点がどこにあるのか、「⇒円安⇒株安⇒円の暴落」のメカニズムが見えない。

(P214)『インフレ、金利上昇で財政破綻が視野に』(小見出し):「円の暴落とともにやってくるのが、インフレである。輸入物価の上昇によるインフレだけではない。市場に大量に供給されたおカネがインフレを引き起こす。このインフレはコントロールが利かないハイパーインフレになる可能性がある。そんななか、金利が上昇していくと、政府の国債利払い費がかさみ、税制破綻が視野に入ってくる。株価も下落する。それを防ごうと、日銀はおカネを刷り続けるだろうが、そうすればするほど、大量のETF(上場投資信託:民間企業の株式)を抱え込んだ日銀の自己資本は毀損され、日銀は債務超過になる可能性がある。もし、中央銀行が倒産してしまえば、国家財政は自動的に破綻してしまう。」

著者は上記のように危機を煽る。「円の暴落⇒ハイパーインフレ」、「⇒金利上昇」、「⇒株価下落」のメカニズムが理解できない。また、日銀の債務超過とはどういう事態をいうのか?中央銀行(日銀)が倒産する?・・解説不足。

 

 

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