今夏の猛暑を受け、小中学校にエアコン設置を求める声が高まっている。公立の普通教室の設置率(昨年4月現在)は全国平均で49・6%だが、県内は7・4%にとどまっている。

 「学校へのエアコン設置にご協力をお願いします」

 朝の近鉄生駒駅前で今月、生駒市内のPTA役員や教育委員会の職員らが募金箱を手に呼びかけた。市長や教育長も参加。市PTA協議会の岡島保弘会長(38)は「ずっと市教委に要望してきた。市民にも興味を持ってもらえれば」。

 ログイン前の続き市内の普通教室のエアコン設置率(今年9月予定)は3・7%。猛暑を受け、市は計画を前倒しし、来夏までに市内20の全小中学校に完備することを決めた。ただ、工事費は15億円にのぼる。ふるさと納税での支援を求めたところ、22日までに900件1567万円が寄せられた。

 市の担当者は「学校設備ではトイレの洋式化を優先してきた。市立病院の建設もあり、エアコンまで予算を回せなかった」と話す。

暑い日増える

 実際、夏は暑くなっている。奈良地方気象台によると、この50年間で奈良市真夏日(30度以上)の日数は11日、猛暑日(35度以上)は9日、増加傾向にある。

 しかし、県内のエアコン設置率7・4%は、涼しい地域を除くと愛媛県(5・9%)の次に低い(文部科学省調べ)。東京都(99・9%)や香川県(97・7%)はほぼ完備だ。近畿2府4県で5番目の和歌山県が44・5%で奈良が極端に低い。

 なぜ県内で少ないのか。

 葛城市議会で7年前から設置を訴えてきた藤井本(ふじいもと)浩市議(57)は「行政も議員も市民も『子供には贅沢(ぜいたく)。体を鍛えなければあかん』という意見が多かった」と分析。葛城市は、昨年までにほぼすべての普通教室に5億2千万円かけて設置した。藤井本さんは「エアコンはまちづくりの大きな魅力になる」と強調する。

高額な工事費

 高額な工事費も一因とみられる。

 奈良市は「学校は災害時の避難所にもなる」として、5年かけて大半の中学校に給食室を設けた。整備費は25億8千万円だった。エアコンは35億円と見込む。担当者は「国の補助金のめどがついたら、早期に設置したい」と話す。

 県外の自治体で、市長や教育長が推し進めた例もある。京都市は2006年、政令指定都市として初めて全小中学校に完備した。市教委によると、授業時間の確保を理由に教育長らが主導し、設置後は夏休みを短縮した。大阪市は17年、設置率が100%になった。

 県内でも動きが出始めた。この夏休み中に天理市は小学校8校、御所市は中学校4校に取り付け、新学期から利用できる。

 今夏5校の中学校に設置する大和郡山市は、市議会の定数削減が契機だった。

 24だった定数は前回と次回の選挙で計4減る。議員4人分の年間報酬は計4千万円で、削減分を4億円の工事費に充てた。市議会はさらに今月、小学校での設置を求める決議を可決した。文面はこう訴える。

 「猛暑への対応、対策は喫緊の課題であり、急を要するものである」(筒井次郎)

識者「必需品 自治体が取り組むべき」

 内田良・名古屋大准教授(教育社会学)の話 エアコンは設置費が高額なため、自治体が予算の優先順位をどこに置くかという問題となる。「そんなの子供に要らないだろう」と思う首長や声の大きい議員がいると動かない。公教育はできるだけ公平が望ましく、隣の自治体が動けば「自分たちも」となる例もあるが、残念ながら奈良県ではそういう動きがなかった。

 しかし、今の暑さは数十年前とは違う。エアコンは贅沢(ぜいたく)品ではなく必需品だと考える。教室はオアシスのように涼しくして、子供たちが健康的な生活ができるようにするべきだ。熱中症対策としても有効だ。

 保護者の協力やふるさと納税の活用については否定はしないが、エアコンは学校の最低限の設備。本来なら自治体自らが取り組むべきだと考える。