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・藤壺女院も、姫宮ご入内の日は、
御所においでになった。
冷泉帝は新しい女御が今宵、
ご入内なさるとお聞きになって、
緊張していられた。
年齢がずっと大人の方なのである。
母君の藤壺女院も、
「りっぱな方が、
女御として上がられるのですから、
お気をつけになって、
お会いなさいまし」
と教えられる。
帝はお心に、
(年上の女の人は、気恥ずかしいな)
と思われたが、
深更になって参られた姫宮をご覧になると、
たいそうつつましやかで、
おっとりとして小柄な方。
大人の女という気づまりな雰囲気はなくて、
たいそう愛らしく、
しっとりしていられる。
(綺麗な方だな)
と帝は好もしく思われた。
弘徽殿の女御
(源氏のライバル、昔の頭の中将の姫君)
の方は、
帝はふだんからお馴染みになっていられて、
仲良く、親しみやすく、
可愛く思し召されて、
よいお遊び相手だった。
しかし、前斎宮の女御の方は、
人柄のおくゆかしい、落ち着いた方で、
源氏の大臣が後見して、
鄭重に扱っているので、
帝も重くみていられる。
ご寝所へ参られる機会は、
どちらもひとしかったが、
子供らしい遊びには、
弘徽殿の女御をお相手になさることが多い。
昼なども、
たいてい弘徽殿へお渡りになっている。
権中納言(前の頭の中将)は、
わが娘を后に立てようという心で入内させたのに、
いま新しい女御が参られて、
帝の愛情を競うようになった状態を、
安からず思っていた。
まして、斎宮の女御の後見をしているのは、
強敵、源氏である。
かつての親友同士も、
歳月を経て第一線の権力者として、
並び立つようになったいま、
政敵としてあいまみえることになる。
弘徽殿の女御と、
斎宮の女御は、
はなやかに帝の寵愛を競い合っておられた。
お若い帝のご趣味は絵であった。
ご自身でも巧みにお描きになる。
たまたま斎宮の女御も、
絵がお上手でいられた。
帝はそのため、
斎宮の女御にお心が移って、
女御のお住みになっていられる梅壺に渡られ、
一緒に絵を描いて興じられる。
今ではしげしげと、
斎宮の女御の梅壺へお渡りになり、
目にみえてご愛情の深まさってゆくのを、
権中納言は聞いて、
負けじと張り合った。
「なにを!
それならこっちはこっちで」
とふるい立って、
絵の名人を呼び寄せ、
きびしい注文を出して、
見事な絵をいい紙に描かせた。
「物語を絵にしたものが面白い」
と、趣ある物語を選んで、
描かせる。
一年十二カ月の行事や風習を描いた絵は、
よくあるものだが、
詞書を面白く書いて帝にお見せした。
源氏はそれを聞いて、
「権中納言のおとなげなさは、
相変わらずだな。
私と張り合う気は昔と同じに、
ちっとも変わらないではないか」
と笑った。
「私の手もとにも、
古代の絵はいくらもございます。
早速、献上いたしましょう」
と主上に申し上げて、
二條院(私邸)で紫の君と共に、
今の時代に喜ばれそうなものを、
あれこれ選んでそろえた。
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(次回へ)