・私は賢い人間が好きだ。
バカな人間は嫌いである。
また不真面目な輩も好まぬ。
真面目でりちぎでかしこく、
小心なほどつつましく、
がんこなほど正直な人間が好きである。
それでこそ、人間らしい人間であり、
そういう人間に育てたいと、
若い世代をみるたび思うのである。
また自身もそうあろうとし、
そういう人間とばかりつきあいたいと思うのである。
しかし、現実というものは、
なかなかそうはいかない。
第一、私は女であるが、
女にはなかなか、賢い女というのはいない。
いても大変少ない。
ウーマンリブの女闘士に叱られるかもしれないが、
真面目でりちぎで小心、頑固、正直、
という美徳はそなえているくせに、
「かしこさ」というのは身につけがたい。
しかし、これに対する男のバカさかげんも、
かなりの線をいくものである。
よって、私は女である以上、
女の方は棚にあげて、
男のバカさかげんをあげつらいたい。
第一に、ウチの夫をみてもわかる。
男は矛盾のかたまりである。
酒を飲みながら薬を飲んでいる。
いくら薬がたくさんあるとはいえ、
(彼は医者である)薬を飲んでおいて、
また酒を飲むというバカさかげん!
また、世の男というもの、
どうして野球中継やボクシング、ゴルフ、プロレス、相撲の、
テレビ番組が好きなのか。
どうしてドラマを見ないのか。
人生の種々相、人間心理の複雑なあやが、
ドラマを見ることによって養われるのである。
男はなぜ、ドラマを見始めるとすぐ眠くなり、
アクビが続けさまに出るのか。
まことに不思議。
ドラマを見ず、かといってまた、
妻の話はろくに聞かないくせに、
漫才を聞いて声立てて笑う。
とんでもない話の途中で、
声を出して笑うので、何かと思ったら、
テレビの漫才に笑ってるのだ。
あるいはまた、
ふだん賢そうなことを言ってるくせに、
ひと目でウソとわかるウソをうく。
あるいは、家へ帰れば安い酒があり、
暖かい食事が待っているというのに、
ふらふらと寄り道をする。この矛盾!
私は寒風吹きすさぶ街中で、
足踏みしておでん屋をのぞいている男たちを見る度、
その真意を了解するのに苦しむ。
それほど帰るのがいやな家庭なら、
結婚しなきゃいいのに・・・矛盾のきわみ。
子供のしつけや進路問題、
ことにしつけということで、
「たまには叱ってよ!」
と妻にいわれた夫たちは、
面倒くさそうにス~ッと席をはずしてしまう。
大工さんに頼んで、
この空き地に勉強部屋を建てようかとか、
毎月いくら金を貯めれば何十年後に家が建てられるとか、
今度の日曜は父親参観日であるとか、
そういう話になると必ず、
ス~ッと立ってどこかへ行くか、
聞こえぬふりをする。
そのくせ、三島事件とか、中共貿易とか、
アメリカの不景気とかいう話になると、
男同士眼を輝かせて議論する。
足元の緊急重要事に関心なく、
遠方の火事ばかり気にとられている。
プロ野球の誰がよく打つの、
将棋の誰が何段であるの、
相撲の誰が何勝何敗であるの、
ということは詳しいくせに、
妻の兄弟が何人いたのやら、
親戚の続き柄、
結婚して何年経つやら、
さっぱりわからず、何度言っても覚えず、
いつも初めて聞くような顔をする。
こういうのは多分、
身勝手というものであろう。
自分が病気になったときは、
内閣でも変わるかと思うほど騒ぎ立て、
ハタ迷惑であるのに、
妻が病気になると、一向に思いやりなく、
おまけに仏頂面である。
その上、病気になった方が悪いようにいうのは、
男の通癖である。
妻についての考えそのものも身勝手。
自分の妻は身じまいよくつつましく、
家庭を守り子を育て、あまり食わず寝ず、
ひたすら夫に仕えるのがよいが、
友人の妻は軽佻浮薄にもてなし好きで、
美人で才気煥発で、いわば蓮っ葉なほうがよい、
というのではあるまいか。