魚名:えつ【鮆魚】
九州有明の魚、五月から六月の川漁で知られるという魚名「えつ」について、本日(2015年5月26日)のNHKの朝一で実況中継しつつ地元から取り上げ ていた。刺身としていただくための調理法では骨が多いので骨切りの庖丁さばきで三〇〇箇所くらい細かに庖丁を入れていくのは印象的であった。
国語辞典では、近代の国語辞典である大槻文彦編『言海』を所載初出とする魚名でもある。
そこで、『言海』を繙いてみるに、
ゑつ〔名〕【鱭魚】魚の名、筑後、肥前、の海に産ず、後に川に上ること、鮎の如し、一年にて死す、大なるは一二尺、體、銀色にして、狹く長く、刀刃の如し、背の方、少し厚く、腹の方、漸く薄く、首より次第に狹くして、尾尖る、上唇の堅骨、兩吻に餘りて出で、左右の鰭、皆細そく分れて麥の芒の如し。〔第三巻ゑ四左~五右685頁〕
と記載する。「海から川へ上ることは鮎(あゆ)と同じで、一年にて死す」という指摘は、小学館『日国』の意味説明には見えない。ただし、大槻文彦が引用した江戸時代の『重訂本草綱目啓蒙』〔一八四七(弘化四)〕四〇・魚「身魚、ゑつ、うばゑつ 筑後小者〈略〉ゑつは筑後柳川及肥前寺江〈今は寺井と云〉にあり。海より河にのぼるもの故に河海の間にて取る。香魚(あゆ)のごとく一年にして死す」を用例として示すことでこの意義説明の文解説が生まれていることを示唆するに留まっている。
となれば、小野蘭山口授、岡部長慎(おかべながちか)(和泉岸和田藩主)復刊『重訂本草綱目啓蒙』の引用箇所についてこの魚について最初の説明を記述した資料と云う事から検証しておく必要がある。『本草綱目』の注記に負うこと大ということか。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
えつ【鱭魚】〔名〕カタクチイワシ科の魚。全長二〇〜三〇センチメートル。体の背部は青く、腹部は銀白色。尾部が細長く延長し、しりびれは尾びれに連なる。日本では有明海とそれに注ぐ川にすむ。また、中国大陸の沿岸汽水域にも生息する。四〜六月頃、産卵のため川をさかのぼる。初夏に美味とされる。学名はCoilia nasus*重訂本草綱目啓蒙〔一八四七(弘化四)〕四〇・魚「鱭魚、ゑつ、うばゑつ 筑後小者〈略〉ゑつは筑後柳川及肥前寺江〈今は寺井と云〉にあり。海より河にのぼるもの故に河海の間にて取る。香魚(あゆ)のごとく一年にして死す」【語源説】ヱツボの略〔名言通〕。【発音】〈標ア〉[エ]【辞書】言海【表記】【鱭魚】言海
『康煕字典』[広韻]徂礼切[集韻]在礼切並音薺与漉同。
『大漢和辞典』46570番 12巻 776頁 『玉篇』音「シ・セイ」訓「えつ すざかな つけうお みじか・い」
『日本百科全書』
えつJapanese tapertail anchovy [学]Coilia nasus硬骨魚綱ニシン目カタクチイワシ科に属する海水魚。南日本、朝鮮半島、東シナ海に分布し、日本では九州の有明(ありあけ)海の湾奥部と、これに注ぐ河川の下流部に生息する。体は著しく側扁(そくへん)し、尾部は細長く、全長二〇〜三〇センチメートルになる。外形はアシの葉に似ており、朝鮮半島では「葦魚」、中国では「刀魚」と書く。体の腹縁は鋭く、ここに稜鱗(りようりん)を備え、このほかの部位の鱗(うろこ)は大形の円鱗で、剥(は)がれやすく、上あごの前骨は長くて鰓蓋(さいがい)の後方に達している。体の背側は暗青色、側面および腹面は銀白色である。成魚は六〜七月ごろに主として九州の筑後(ちくご)川を遡上(そじよう)し、河口から約15キロメートル上流の城島(じようじま)付 近を中心に産卵が行われる。卵は直径一ミリメートルぐらいで、川底に沈下する。しかし、粘着力がないので潮の干満の影響を受け、川の流れとともに上げ下げ を繰り返し、すこしずつ川を下りながら孵化(ふか)する。成魚の漁獲はこの地方の風物詩で、流し網や刺網でとる。これが季節の魚として賞味される筑後川名 物のエツ料理で、てんぷら、塩焼き、煮つけ、刺身などにされ美味である。筑後川の産地には、弘法(こうぼう)大師が諸国行脚(あんぎや)の途中、川を渡れずに困っていたとき、親切な漁師に助けられ、そのお礼に、岸辺のアシをむしって川に投げたらエツに変身したという伝説が残っている。[浅見忠彦]
『本草綱目』巻二十四「鱭魚」音劑○食療
釋名 鮆魚音剤鮤魚音列雛刀音暸魛魚音刀鰽魚廣韻音遒亦作魛望魚【時珍曰】魚形如剤物裂暸之刀故有諸名魏武食制謂之望魚集解時珍曰鱭生江湖中常以三月始出狀狹而長薄如削木片亦如長薄尖刀形細鱗白色吻上有二硬鬚腮下有長鬣如麥芒腹下有硬角刺快利若刀腹後近尾有短鬣肉中多細刺煎炙或作鮓鱐食皆美烹煮不如淮南子云鮆魚飲而不食鱣鮪食而不飲又異物志云鰽魚初夏從海中泝流而上長尺餘腹下如刀肉中細骨如毛云是鰽烏所化故腹内尚有鳥耕二枚其鳥白色如鷖羣飛至夏鳥藏魚出變化無疑然今鱭魚亦自生子未必盡鳥化也
肉(氣味)甘温無毒(詵曰)發疥不可多食源曰助火動痰發疾
国語辞典では、近代の国語辞典である大槻文彦編『言海』を所載初出とする魚名でもある。
そこで、『言海』を繙いてみるに、
ゑつ〔名〕【鱭魚】魚の名、筑後、肥前、の海に産ず、後に川に上ること、鮎の如し、一年にて死す、大なるは一二尺、體、銀色にして、狹く長く、刀刃の如し、背の方、少し厚く、腹の方、漸く薄く、首より次第に狹くして、尾尖る、上唇の堅骨、兩吻に餘りて出で、左右の鰭、皆細そく分れて麥の芒の如し。〔第三巻ゑ四左~五右685頁〕
と記載する。「海から川へ上ることは鮎(あゆ)と同じで、一年にて死す」という指摘は、小学館『日国』の意味説明には見えない。ただし、大槻文彦が引用した江戸時代の『重訂本草綱目啓蒙』〔一八四七(弘化四)〕四〇・魚「身魚、ゑつ、うばゑつ 筑後小者〈略〉ゑつは筑後柳川及肥前寺江〈今は寺井と云〉にあり。海より河にのぼるもの故に河海の間にて取る。香魚(あゆ)のごとく一年にして死す」を用例として示すことでこの意義説明の文解説が生まれていることを示唆するに留まっている。
となれば、小野蘭山口授、岡部長慎(おかべながちか)(和泉岸和田藩主)復刊『重訂本草綱目啓蒙』の引用箇所についてこの魚について最初の説明を記述した資料と云う事から検証しておく必要がある。『本草綱目』の注記に負うこと大ということか。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
えつ【鱭魚】〔名〕カタクチイワシ科の魚。全長二〇〜三〇センチメートル。体の背部は青く、腹部は銀白色。尾部が細長く延長し、しりびれは尾びれに連なる。日本では有明海とそれに注ぐ川にすむ。また、中国大陸の沿岸汽水域にも生息する。四〜六月頃、産卵のため川をさかのぼる。初夏に美味とされる。学名はCoilia nasus*重訂本草綱目啓蒙〔一八四七(弘化四)〕四〇・魚「鱭魚、ゑつ、うばゑつ 筑後小者〈略〉ゑつは筑後柳川及肥前寺江〈今は寺井と云〉にあり。海より河にのぼるもの故に河海の間にて取る。香魚(あゆ)のごとく一年にして死す」【語源説】ヱツボの略〔名言通〕。【発音】〈標ア〉[エ]【辞書】言海【表記】【鱭魚】言海
『康煕字典』[広韻]徂礼切[集韻]在礼切並音薺与漉同。
『大漢和辞典』46570番 12巻 776頁 『玉篇』音「シ・セイ」訓「えつ すざかな つけうお みじか・い」
『日本百科全書』
えつJapanese tapertail anchovy [学]Coilia nasus硬骨魚綱ニシン目カタクチイワシ科に属する海水魚。南日本、朝鮮半島、東シナ海に分布し、日本では九州の有明(ありあけ)海の湾奥部と、これに注ぐ河川の下流部に生息する。体は著しく側扁(そくへん)し、尾部は細長く、全長二〇〜三〇センチメートルになる。外形はアシの葉に似ており、朝鮮半島では「葦魚」、中国では「刀魚」と書く。体の腹縁は鋭く、ここに稜鱗(りようりん)を備え、このほかの部位の鱗(うろこ)は大形の円鱗で、剥(は)がれやすく、上あごの前骨は長くて鰓蓋(さいがい)の後方に達している。体の背側は暗青色、側面および腹面は銀白色である。成魚は六〜七月ごろに主として九州の筑後(ちくご)川を遡上(そじよう)し、河口から約15キロメートル上流の城島(じようじま)付 近を中心に産卵が行われる。卵は直径一ミリメートルぐらいで、川底に沈下する。しかし、粘着力がないので潮の干満の影響を受け、川の流れとともに上げ下げ を繰り返し、すこしずつ川を下りながら孵化(ふか)する。成魚の漁獲はこの地方の風物詩で、流し網や刺網でとる。これが季節の魚として賞味される筑後川名 物のエツ料理で、てんぷら、塩焼き、煮つけ、刺身などにされ美味である。筑後川の産地には、弘法(こうぼう)大師が諸国行脚(あんぎや)の途中、川を渡れずに困っていたとき、親切な漁師に助けられ、そのお礼に、岸辺のアシをむしって川に投げたらエツに変身したという伝説が残っている。[浅見忠彦]
『本草綱目』巻二十四「鱭魚」音劑○食療
釋名 鮆魚音剤鮤魚音列雛刀音暸魛魚音刀鰽魚廣韻音遒亦作魛望魚【時珍曰】魚形如剤物裂暸之刀故有諸名魏武食制謂之望魚集解時珍曰鱭生江湖中常以三月始出狀狹而長薄如削木片亦如長薄尖刀形細鱗白色吻上有二硬鬚腮下有長鬣如麥芒腹下有硬角刺快利若刀腹後近尾有短鬣肉中多細刺煎炙或作鮓鱐食皆美烹煮不如淮南子云鮆魚飲而不食鱣鮪食而不飲又異物志云鰽魚初夏從海中泝流而上長尺餘腹下如刀肉中細骨如毛云是鰽烏所化故腹内尚有鳥耕二枚其鳥白色如鷖羣飛至夏鳥藏魚出變化無疑然今鱭魚亦自生子未必盡鳥化也
肉(氣味)甘温無毒(詵曰)發疥不可多食源曰助火動痰發疾
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