駒澤大学「情報言語学研究室」

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「消えて」から「失われて」―川端康成『雪国抄』―

2023-05-01 16:07:08 | 日日昰記録

消えて失われて」川端康成『雪国』

 自筆の墨書き原稿の雪国抄の「消えて」に削除線が引かれ、その下に「失われて」と書き改めたことば表現部分に着目した。(パワーポイント資料8枚目のスライド・12行目)

「色を失う」という表現には『衝撃を受けて、顔色が変わる(青ざめる)』ことを意味し、対象は人となる。しかし、この文章では、対象が人ではなく、窓ガラス越しに見る風景に用いている。 前の行で、「消えて」という表現を使っていて、同じ言葉を使うことを避けるために「失われて」に書き換えたということも考えられるのだが、作者にとって、この風景がどこか身近で、特別なものであったため、この「失われて」という表現方法をとったのではないかと推考した。

○遙かの山の空は、まだ夕焼の色がほのかだつたから、窓ガラス越しに見る風景は遠くの方までものの形が消えてはゐなかつた。しかし色はもう消えて失はれてしまつてゐて、どこまで行つても平凡な野山の姿が尚更平凡に見え、なにものも際立つて注意を惹きやうがないゆゑに、反つてなにかほうつと大きい感情の流れであつた。



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